【ヤマハ トリシティ125試乗記】抜群の安定感と軽快な走りを両立した3輪シティコミューター

掲載日:2019年11月07日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之

【ヤマハ トリシティ125試乗記】抜群の安定感と軽快な走りを両立した3輪シティコミューターの画像

YAMAHA TRICITY 125

ヤマハが新しいモビリティの形として提示するLMW(リーニング・マルチ・ホイール)とは、リーン(傾く)という言葉の示すとおり、車輪と車体全体がリーン(傾斜)して旋回する3輪以上の乗り物をいう。その先陣を切って2014年に発売されたのがトリシティ125だ。その後トリシティの155cc版や900ccのNIKENが発売されるなど、LMWは順調に世間の評価を伸ばしている。今回は2019年モデルのトリシティ125に試乗し、その魅力をあらためて紹介しよう。

トリシティ125 特徴

新時代を切り開いた
都市型の3輪コミューター

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トリシティ125の最大の特徴は、見てわかるようにフロント2輪、リア1輪という3輪スタイルを採用していることだ。これを可能にしているのがヤマハのLMW(リーニング・マルチ・ホイール)テクノロジーである。これはコーナーリング時にフロント2輪と車体を同調させ、自然にリーンさせる「パラレログラムリンク」と、スポーツライクな走行感や軽快感を生み出す「片持ちテレスコピックサスペンション」という機構からなるもの。これによって3輪による走りの安定感と、2輪車と同様の爽快感を同時に実現。もう少し具体的にいえば、荒れた路面でも滑りにくく低速でも安定した走りと、フロント2輪でありながらそれを意識させない軽快な走りを両立させることに成功したのである。

2014年に初代モデルが登場した際には、国産バイクに新しい風を吹き込む存在として大いに注目された。その後2018年には走りと環境性能を両立させた"BLUE CORE(ブルーコア)"エンジンを搭載したほか、吸気バルブを低中速と高速で切り替えて作動させる可変バルブ機構VVA(Variable Valve Actuation)を採用。あわせてフレームを新設計とし、リアタイヤも110mm幅から130mm幅へと拡大するなど車体周りを大幅に変更する刷新を受けた。

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同時にヘッドライト&テールランプにLEDを採用、グローブボックス内に12Vアクセサリーソケットを装備するなどユーティリティ面が強化された。また、あわせてシート高が780mmから765mmへと15mm下げられるなど、使い勝手と商品性が高められている。2019年モデルは基本的に2018年モデルと変わらずカラーリングの追加のみで、今回試乗したマシンの"マットペールブルー"が新色となる。

フロント2輪という特異な姿でありながら外観はスタイリッシュにまとめられ、都市部に溶け込むデザインとなっている。最近ではコミューターとしてすっかり定着した感があり、あくまで私見だが、東京都内をバイクで走ると1日に最低1度は見かけるぐらい、よく目にするようになったと感じる。それは、実際に「使えるマシン」として認知されてきたということに違いない。では、実際に乗ってみるとどうなのだろう?

トリシティ125 試乗インプレッション

フロント2輪を感じさせない
自然な走りと身軽な機動性

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トリシティ125のシート高は765mm、これはヤマハでいえばNMAXと同じで、このクラスのスクーターとしてはごく一般的な数値だ。NMAXのように足を前に伸ばせるスペースはないが、初代モデルよりもフロアのスペースは広げられており、それほど窮屈な感じはない。

フロント2輪という構造のため、ハンドルを持っての取り回しは一般的なスクーターよりも若干重めだが、見た目の印象ほど重くはない。ただ、自転車置き場など狭い場所への駐輪では気を使う必要がありそうだ。

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走り出すと、たいていの人が驚くに違いない。停止状態からアクセルを全開にすると、発進直後のごくわずかな一瞬だけラグを感じるが、その後はエンジンがなめらかに吹け上がり、滑るように加速していく。俊足自慢の同クラススクーターにはわずかに遅れるかもしれないが、クルマの流れは十分にリードできるし、法定速度まで達するのはあっという間。初代モデルでは気になった加速初期のもたつきが、ブルーコアエンジンと可変バルブ機構のためか、現モデルでは見事に解消されているのだ。フロント部分のボリューム感から「遅いのでは?」と思われがちだが、いい意味で予想を裏切ってくれる。しかも停止時を含めてエンジンからの振動が極めて少なく、長時間乗っても疲労が少ないのだ。

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コーナーリングに関しても「フロント2輪ってどうなの? クセがあるのでは?」という先入観を持っている人が多いかもしれない。ところが、スクーターから乗り換えた人が初めて乗ったとしてもまるで違和感のないコーナーリングが可能なのだ。それどころか、路面にピタッと張り付くような、まさに"オン・ザ・レール"と呼べる安定した曲がり方をするので、不安感は全くない。たとえばコーナーの途中、路面に小さな穴やうねりがあってフロントの片輪だけがそこに突っ込んだとしても、LMW機構は軽くそれをいなす感じで、車体の挙動は安定したままなのだ。雨の日のライディングでも、普通のスクーターよりはるかに安心してコーナーに入って行ける。

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渋滞路での走りも気になるところだろう。まず感じたのは、低速走行で抜群の安定性を持っていることだ。渋滞路でダラダラと低速で走り続けると、たとえ足つきのいいスクーターであっても疲れるもの。ところがトリシティはそんな状況でも車体がほとんどふらつかずに安定しているため、疲労感が少ないのだ。そして意外なことに、すり抜けも「けっこう行ける」のである。トリシティ125の全幅は750mmで、これはNMAXの740mmとわずか10mm、つまり1cmしか変わらないのだ。もちろん車の間を蛇のように身をくねらせて左右に抜ける、なんて場合は不利だが、直進で路肩を進む場合には、同クラスのスクーターと変わらない機動性を持っているのだ。

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「雨天や荒れた路面でも転びにくい」という3輪の安定性と2輪の軽快さという2つの要素をうまくミックスし、高い次元でバランスさせたトリシティ125は、乗り手を選ばず安全で楽しいライディングを実現した、新世代のコミューターといえるだろう。

トリシティ125 詳細写真

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ヘッドライトにはLEDを採用。ロービームでは上側の3灯、ハイビームではそれに加えて下側2灯の計5灯が点灯する。上部のポジションランプもLEDだ。

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フルデジタルのメーターは速度がかなり大きく表示される。時計や外気温の表示も大きめで見やすい。燃料計やツイントリップも装備し、オイルやベルトの交換時期も表示可能だ。

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ハンドルは黒の樹脂製カバーで覆われている。ナビ等を付けるにはミラー共締めタイプのステーを利用するのが良さそうだ。キーシリンダーはシャッター付きを採用。

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ハンドル左にはライトのハイ/ロー切り替え、ウインカー、ホーンスイッチを装備。かなり操作しやすい形状となっている。

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ハンドル右側はシンプルで、スタータースイッチのみとなっている。

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インナーパネル右側にはフタ付きの小物入れを装備。スマホなどの充電に便利なDC12Vソケットを内蔵しているが、スマホを収納するのは厳しい大きさだ。中央には格納式のコンビニフックも装備している。

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フットボードは乗り降りがしやすいフラットタイプ。足を前に投げ出すスペースはないが、かかと部分には余裕がある。

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メインシートの座面は広く、ヒップポイントの自由度は高い。適度な弾力があって座り心地も快適だ。ステッチが施され、高級感もある。

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シート下トランクの容量は約23.5Lで、SHOEIのJ-FORCE4は余裕で収納できた。内部にはLED照明も装備する。左上に見える銀色の丸いものは給油口のキャップだ。

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シートのヒンジ部にはピン状のヘルメットホルダーを左右2つ装備する。2人乗りでトランクが荷物で埋まってもヘルメットの置き場に困らないのは有り難い。

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トリシティ125はスタンドを掛けずに自立するチルトロック機構を持たないので、駐車する際には必ずスタンドを掛ける必要がある。センタースタンドのほか、ちょっとした駐車に便利なサイドスタンドを装備。

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折りたたみ式のタンデムステップはスタイリッシュで、なおかつ滑りにくい工夫がされている。たたんだ状態では車体と一体化するデザインだ。

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フロントはそれぞれ2本のフォークとディスクブレーキを備えている。タイヤサイズは90/80-14M/C 43Pのチューブレスだ。今回借りたマシンはABSも装備する。

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前2輪を傾けて曲がるLMW(リーニング・マルチ・ホイール)機構は、「パラレログラムリンク」と、「片持ちテレスコピックサスペンション」によって構成される。リーン機能とサスペンション機能はそれぞれ独立しており、それによって余裕あるバンク角とハンドルの切れ角を確保している。

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走りと環境性能を両立させたブルーコアエンジンを採用。最高出力は9.0kW(12PS)/7,500r/min、最大トルクは12N・m(1.2kgf・m)/7,250r/minとなっている。リアショックにはツインチューブ式を採用している。

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リアのタイヤサイズは130/70-13M/C 57P(チューブレス)で、初代モデルよりも20mm太くなっている。リアもディスクブレーキで、左レバーを握るとリア&フロントがバランスよく利く「ユニファイドブレーキシステム」を採用している。

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テールランプにはLEDを採用。ウインカーは通常のバルブタイプだが、一体化してすっきりまとまったデザインはスタイリッシュなものだ。

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テスターは身長170cm、体重73kgで足短め。片足ならかかとまでしっかりと足がつく。両足の場合は少しかかとが浮くが、車体を支えるのに不安は全くない。

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