YOSHIMURA STEP KIT “X-TREAD”
抜群の剛性感とフィット感で、マシンとの対話が楽しくなる

掲載日/2020年1月14日
取材協力/ヨシムラジャパン
写真/井上演 取材、文/中村友彦
構成/バイクブロス・マガジンズ
“X”は無限の可能性を示す言葉で、“TREAD”には、踏み込む、事を進める、追求する、などという意味がある。ヨシムラ独自のノウハウが投入されたステップキット、X-TREADには、スポーツライディングの可能性を大幅に広げる資質が備わっているのだ。

開発者に聞く、X-TREADの誕生経緯

アフターマーケット用の量産モデルからヨシムラレーサー用のワンオフ品まで、川口さんと名島さんは多種多様なヨシムラパーツの開発に携わっている。ここ最近は、世界中から熱心なラブコールが寄せられる新型KATANA用パーツの開発で、多忙を極めているそうだ。

X-TREADの詳細を紹介するにあたって、取材に対応してくれたのは、ヨシムラ設計部の川口裕介さんと、名島皓貴さん。誠にベタな質問になるものの、本題に入る前に聞いておきたいのが、ステップを変更する意義だ。

川口:ステップを変更する一番の目的は、乗り手に合ったライディングポジションを作るためです。車両メーカーが構築したライディングポジションは、不特定多数のライダーを対象にしていますが、ステップを乗り手の体格や好みに合った位置に設定することで、マシンとの距離がグッと縮まって、ライディングが楽しくなる。もちろん、これはハンドルやシートにも言えることですが。ちなみに、レーサーの開発でもライディングポジションは非常に重要で、ステップはライダーに合わせたワンオフ製作が通例になっています。

名島:位置と同じくらい大事な要素が、剛性、踏みごたえですね。バーが可倒式で、車両によってはプレートがラバーマウントのメーカー純正品は、構造的にはフローティングですから、アグレッシブな荷重移動を行うと、頼りなさを感じることがあります。その問題を解消するのがリジッド構造への変更ですが、X-TREADの場合は各部の素材や肉厚、取り付け精度などに徹底的にこだわった結果として、純正とは一線を画する剛性が得られ、抜群の踏み応えを実現しています。また、ペダルの基部に圧入した2つのベアリングや、シフトリンケージ両端とリアブレーキロッドの下部に備わる高品質なピロボールのおかげで、操作時にカチッとしたタッチが得られることも、体感的な剛性向上には一役買っているでしょう。

新型KATANAの純正ステップ。素材・製法はアルミ鋳造、バーは可倒式で、アジャスト機構は装備しない。なおツーリング指向の車両では、バー上面にラバーを設置するのが一般的で、車両によってはステッププレート自体がラバーマウントというケースもある。

※写真はBAZZAZ等のオプション装着品です。実際の商品とは異なります。
新型KATANA用のX-TREAD。素材・製法はアルミ削り出しで、バーは固定式。純正を基準にすると、ステップバーの後方/上方への移動量は、12.5/15mm、12.5/27.5mm、25/15mm、25/27.5mm、25/40mmの5ヶ所から選択可能で、調整は簡単に行える。

スムーズな作動性を追求した結果として、X-TREADはシフト/リアブレーキペダルの基部に2つのボールベアリングを圧入。シフトペダルのリンケージ取り付け部に刻まれた5ヶ所の雌ネジは、オーナーに好みでストローク感を追求してもらおうという配慮だ。

ただしX-TREADは、他のヨシムラパーツのように、同社がゼロから開発したわけではなく、この分野で定評を得ているベビーフェイスとのコラボモデルである。そのコラボは、どういった経緯で実現したのだろうか。

川口:そもそもの話をするなら、ベビーフェイス代表の佐藤さんとは、我々の上司が昔からの知り合いで、以前から機会があったら何か一緒にやりましょうという話をしていました。X-TREADはそれが具現化した製品で、実際の開発では、ベビーフェイスさんのステップに関するノウハウと車両データの豊富さに、大いに感心することになりました。いずれにしても、発売開始からわずか1年で、X-TREADの対応車種を10種類以上にまで増やすことができたのは、コラボというスタイルを選択したからだと思います。

もちろんコラボというスタイルであっても、X-TREADにはヨシムラならではの思想が随所に投入されている。その代表例と言えるのが、3面加工が施されたヒールプレートだ。

ヨシムラが2016年型GSX-R1000レーサーに採用したヒールプレート。ベースは一枚のアルミ板で、かなり複雑な曲げ加工と溶接による補強が行われているけれど、表面からその気配はまったく伺えない。

GSX-R1000レーサーのデザインをオマージュする形で、X-TREADは3つの面でヒールプレートを形成。軽量化に貢献する肉抜きを手間のかかる長穴としているところも、GSX-R1000レーサーと同様だ。

MCフライスによる削り出しで製作されるX-TREADのヒールプレートは、車両に応じてさまざまな形状を開発。写真のTYPE-1/2に加えて(下段は3Dプリンターで製作した樹脂製のプロトタイプ)、現在はTYPE-3~5が存在する。

名島:一般的には注目度が高い部分ではありませんが、レースの世界では、実はくるぶしに接するヒールプレートにこだわるライダーが非常に多いんです。この部分のホールド感次第で、バイクに対する印象はガラリと変わってくると。それで、当社がJSB1000や鈴鹿8耐で走らせているGSX-R1000のヒールプレートをベースにして、いろいろな形状をテストしてみたところ、やはりレーサーと同様の3面加工が最も感触がよかった。もちろんコストを考えれば、平面のほうが安く抑えられますが、現代のヨシムラならではのステップを生み出すにあたって、3面加工のヒールプレートは必須だと思いました。

川口:ヒールプレート以外の当社のこだわりとしては、1985~1987年の全日本TT-F1選手権で3連覇を飾った、油冷GSX-Rレーサーをモチーフとするスレートグレーのカラーリング、ベビーフェイスさんではオプション扱いとなる、通常であればローレット加工の部品が、オール切削加工によるレーシングタイプのバーを標準装備していることが挙げられます。また、各ステップは、一度ヨシムラにて取付確認され車種によってはヨシムラ基準に沿うように部分変更及、設計変更されています。

モトクロス用タイヤを思わせる、オール切削加工によるステップバーは、ブーツのソールに対する食いつきが抜群。このバーを介して、現状のバンク角やトラクションが明確に感じられる。

実際にX-TREADを開発するにあたって、ヨシムラはどんなユーザーを想定していたのだろうか。

名島:それはやっぱり、ワインディングやサーキットでスポーツライディングを楽しみたいライダーですね。ステップの位置と構造が変わるだけで、こんなに安心して荷重できるのか、こんなに車体の反応がよくなるのかという感じで、X-TREADの美点を満喫していただけると思います。

川口:世の中にはアフターマーケット製ステップに対して、レース指向の速く走りたいライダー用……というイメージを持っている人がいるようですが、X-TREADはそういう限定的なパーツではありません。例えば街中を走っているだけでも、純正とは一線を画する安心感が得られるし、ツーリングという場面では、良好なコントロール性とタッチが有効な武器になる。だから我々は1人でも多くのライダーに、X-TREADを体感して欲しいと思っているんです。

操縦装置の一部にして、乗り味に多大な影響を及ぼすパーツ

フルカーボン外装をまとった試乗車はヨシムラのデモ車で、往年のGSX1100Sカタナを思わせるハンドルやスクリーン(商品名はウインドアーマー)、バナナタイプのB-77スリップオンサイクロンなどを装備。リアフェンダーレスキットは名島さんが開発を担当。

ヨシムラが準備してくれた試乗車のKATANAは、X-TREAD以外にも数多くのオリジナルパーツを装着していた。そんな中で僕が最も大きなインパクトを感じたのは、かつてのGSX1100Sカタナを彷彿とさせる、低く構えたハンドルだったのだが……。ハンドルを含めるとややこしくなりそうなので、今回はステップに限った話をしたい。いずれにしても、ステップがノーマルだったとしたら、僕がヨシムラKATANAの乗り味に感動することはなかっただろう。

ステップを中心にして考えると、ヨシムラKATANAは下半身を使った車体のコントロールが、ものすごく行いやすいバイクだった。逆に言うなら、X-TREADのガッチリ感や荷重&抜重に対する反応のよさ、バンク角調整の容易さなどを知ってしまうと、装着位置が意外に低く、フローティング構造の純正ステップでは、KATANA本来の潜在能力は発揮しづらいのでは? という気がして来る。さらに言うなら、粗めのローレットが刻まれたステップバーのハイグリップ感、3面加工が施されたヒールプレートのホールド感も絶妙で、この2つのパーツの効果なのだろうか、ヨシムラKATANAはノーマルより車格が小さくなったかのように思えた。

もっともそういった印象の背景には、前述したハンドルやシートの位置関係が絶妙だったことや、僕自身の体格と乗り方が現状のヨシムラKATANAに合っていたという事情もあるのだが、X-TREADを体感した僕は、ステップが操縦装置の一部であること、そしてハンドリングに絶大な影響を及ぼすパーツであることを、今さらながらにして、しみじみ痛感することになったのである。

INFORMATION

住所/神奈川県愛甲郡愛川町中津6748

営業/9:00-17:00
定休/土曜、日曜、祝日

1954年に活動を開始したヨシムラは、日本を代表するレーシングコンストラクターであると同時に、マフラーやカムシャフトといったチューニングパーツを数多く手がけるアフターマーケットメーカー。ホンダやカワサキに力を注いだ時代を経て、1970年代後半からはスズキ車を主軸にレース活動を行うようになったものの、パーツ開発はメーカーを問わずに行われており、4ストミニからメガスポーツまで、幅広いモデルに対応する製品を販売している。