もっと「開けられる」マシンに変わる! ヨシムラのトルクマネージメントシステム

掲載日/2020年12月23日
取材協力/ヨシムラジャパン
写真/星野耕作 取材、文/伊井覚
構成/バイクブロス・マガジンズ
KAWASAKI Z900RSやSUZUKI KATANAなど、近年の大型マシンはやみくもに最高速度を追い求めるだけでなく、乗りやすさにも力を入れており、決して高いスキルを持っていないライダーでも楽しく安全に操れるようにできている。しかし、それゆえに、熟練のライダーやサーキット志向の高スキルライダーは少し不満に感じるところがあるのもまた事実だ。そこを解決してくれるシステムを、エンジンを熟知するヨシムラが、開発してくれた。

※TMS(Torque Management System):トルク特性を改善するシステムの総称。今回発売のKATANA用、Z900RSのTMSパーツがエアファンネルキット。

空気の脈動をコントロールし
トルク特性を予測しやすく

こちらはノーマルとヨシムラ製ファンネルの形状の違いがわかりやすいように撮影した比較画像だ。右2つの黒色がノーマル、左2つがヨシムラ製となっている。

今回「トルクマネージメントシステム」と名付けられたカテゴリーで発売されたのはZ900RSとKATANA用のエアファンネルキットだ。ファンネルと聞くとキャブレター時代に、より多くの空気を取り込むために、エアフィルターの代わりに取り付けていた物を想像してしまうが、こちらはちょっと別モノ。エアフィルターは外さないためエンジンに異物が混入するリスクはない。

例えば、上の写真はKATANAのエアクリーナーボックスの中身なのだが、4つあるエアファンネルの右2つの黒色がノーマル。左2つはヨシムラが開発したファンネルだ。キットでは4つ全てをファンネルに交換することになる。形状は左右対称で、中央二つが低く、両サイドが高い。KATANAの出力特性を考慮した上でテストを繰り返し、最も適したファンネルの形状やサイズを研究した結果、この形になったという。

ヨシムラのレーシングスピリッツが反映された
セッティングパーツ

KATANA用のエアファンネルのサイズは3種類用意されている。キットとして発売されているものの中に2種類。さらに自分好みにカスタマイズしたい人のためにオプションで1種類。

もちろん、このエアファンネルの形状やサイズにはヨシムラならではのこだわりやノウハウがたくさん詰め込まれている。まずエアファンネルキットをセッティングパーツとして捉えているため、容易に交換ができるようにファンネルがねじ込み式になっている。それを支えるアダプターも、エアクリーナーボックスに穴あけ加工を施してボルト留めに。加えてファンネルの先端には微小な穴があけられているのだが、これはワイヤーロック用のものだ。

さらに走行中にボルトが緩んでしまってエアクリーナーボックス内に落ちてしまい、エンジンに吸い込まれてしまうことがないように、外側からボルトを留める方式を採用。万が一の時でも自力でピットまで戻ってこられるようにと、ヨシムラのレーサー開発で蓄積されたノウハウがここに生かされている。

トロンボーンなどの管楽器をイメージしてもらえればわかりやすいのだが、管の部分が長くなると音が太くなる。つまり、空気が共鳴する場所が変わるのだ。ヨシムラでは幾度ものテストを繰り返した結果、この共鳴する場所を最適化し、「よりスロットルを開けやすい」トルクカーブを実現した。

さらにZ900RS用ではファンネルを変更するだけではなく、エアクリーナーボックスに穴あけ加工も施すことで空気の流れをコントロールし、より効率よくエンジン内に空気を取り込むことができるようにした。

中級〜エキスパートのライダーに推奨
より自信を持ってスロットルを開けられるマシンへ

※写真は公道試乗の様子(スタンダード仕様)

今回試乗したのはZ900RS。そもそもの前提として、このトルク・マネージメント・システムはヨシムラ製フルエキゾーストを装着した状態を想定してテストされている。そのため、ノーマルマフラーやヨシムラスリップオンが装着されているマシンでは、よりベストなセッティングがあるのかもしれない。

ヨシムラフルエキゾーストマフラー装着時のスタンダード(青線)とトルクマネージメントシステム(赤線)のトルクカーブ比較図。赤丸をつけた部分が5500〜6000回転に相当し、トルクが急に上昇していることがわかる。

ノーマルにヨシムラフルエキを装着することで全体的な出力は向上するのだが、ここで問題になるのは「トルクの急上昇」だ。例えばZ900RSでは、5500回転から6000回転付近で急激にトルクが上昇するところがある。人は無意識のうちにエンジントルクの動きを予測してスロットルを開いているため、この時の予測しないトルクの上昇に戸惑い、ライダーはスロットルを戻してしまう。

ヨシムラ トルクマネージメントシステムのエアファンネルキットとは、簡単に言えば、ファンネルの長さなどを変更することで、空気の共鳴する場所を変え、このトルクの急な上昇を解決してくれるものなのだ。上の図のようにトルクの上昇カーブをなだらかにすることで、ライダーはトルクの上昇を予測しやすくなり、結果としてスロットルを開けやすいマシンになる。

ヨシムラフルエキゾーストマフラー装着時のスタンダード(青線)とトルク・マネージメント・システムを導入した(赤線)パワーカーブ比較図。赤丸をつけたレブリミット直前のところで、ギリギリまでパワーが出ていることがわかる。

また、高回転域での伸びにも大きく影響する。スタンダードではレブリミットの手前で大きく失速してしまうのだが、トルクマネージメントシステムを入れることで、9550回転ギリギリまで伸び続けてくれる。

「そんな高回転まで使えないよ」と思うライダーもいるだろうが、中回転域でのトルクカーブがなだらかになっているおかげでスロットルが開けやすく、スタンダードでは使えないような高回転までしっかり有効に使えることこそが、このシステムのキモだ。

今回、テストライダーをお願いしたモーターサイクルジャーナリストの石橋知也氏は「やっぱりTMS(Torque Management System)を装着したマシンは、高回転域への伸びも、低~中回転までのスムーズな繋がりもまるで違いました。試乗車はカワサキZ900RS+ヨシムラフルエキゾースト(機械曲 チタンサイクロン Duplex Shooter 政府認証)で、TMSの装着/非装着(STD)で行いました。ヨシムラのフルエキマフラーが装着されているのでパワーアップされているのはわかります。それよりも驚くのはスムーズさと、6000rpm以上でのレスポンスの良さですね。特に2、3速を多用するようなシチュエーションだと、しっかりスロットルを開けて走れて、そのときのトラクションも抜群なのです。
また、減速特性も良くて急激にエンジンブレーキが強まるようなことがありません。STDのZ900RSのエンジン特性は中回転域にかけてトルクがやや急に立ち上がるような所があるのですが、あえてそこを削ってスムーズな繋がりを優先させています。その方が結果的に開けやすくなるので、回転上昇が早くなります。性能には関係ありませんが、吸気音はエアボックスを加工しているのにも関わらずSTDと変わりませんでした。
KATANAはフルエキ+TMSが試乗車で、これも低~中回転域がスムーズになり、6000~7000rpmから上も随分レスポンスがシャープになっています。KATANAではZ900RSとは逆で、外側2気筒が内側2気筒より長くなっています。爆発順番(#1-#2-#4-#3)は同じなのに「ヨシムラマフラーを取り付けて実際にテストしたら、結果このような形状となった」ということだ(エアボックスの形状の違いなのか?)。要は隣り合う気筒が空気を取り合うことがなければいいわけですから、どちらでも理想的なトルクカーブを得られればいいわけです。
吸気の慣性効果・脈動効果を使ったチューニングは少ないのですが、これなら文句はありません。快感パフォーマンスUPです。ただし、美しい“削り出しエアファンネル”の存在が、外からはまったく見えない所が残念ですね⁉」と語る。

さらにこのキットの大きなポイントは、販売されるのはあくまでヨシムラフルエキゾースト装着を前提に、ヨシムラが「最もスロットルが開けやすい」と導き出したシステムのベースである、という点。つまりこれはセッティングパーツであり、走る場所や使用するマフラーが変わっても調整すれば、常に最適なセッティングを探し出すことができるのだ。

かつてPOP吉村がチューニングを試行錯誤したように、現在のヨシムラスタッフが試行錯誤している。このキットを購入したオーナー自身にもその過程をトライしてもらいたい。

そんなバイクの楽しみ方を、ヨシムラからの提案としてオーナーにも味わってもらいたいというのが、トルクマネージメントシステムを発売した狙いなのかもしれない。

発売ラインナップ

YOSHIMURA
Z900RS トルクマネージメントシステム ファンネルキット
¥49,000(税抜)
適合:Z900RS(18-20)、Z900RS CAFE(18-20)

YOSHIMURA
KATANA トルクマネージメントシステム ファンネルキット
¥48,000(税抜)
適合:KATANA(19)

INFORMATION

住所/神奈川県愛甲郡愛川町中津6748

営業/9:00-17:00
定休/土曜、日曜、祝日

1954年に活動を開始したヨシムラは、日本を代表するレーシングコンストラクターであると同時に、マフラーやカムシャフトといったチューニングパーツを数多く手がけるアフターマーケットメーカー。ホンダやカワサキに力を注いだ時代を経て、1970年代後半からはスズキ車を主軸にレース活動を行うようになったものの、パーツ開発はメーカーを問わずに行われており、4ストミニからメガスポーツまで、幅広いモデルに対応する製品を販売している。