掲載日:2021年07月13日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
HONDA X-ADV
初代X-ADVは、NC750シリーズをベースに、745cc並列2気筒エンジンやフレームなど共通のプラットフォームを利用した新しいアドベンチャーモデルとして2017年に登場した。スクーターライクな外観ではあるが、リアサスは一般的なスクーターのようなユニットスイング式ではなくスイングアームを採用し、DCTとチェーン駆動を組み合わせた“モーターサイクル”だ。いわばスクーターとバイクのいいとこ取りを実現した独特の立ち位置にいるモデルだが、2021年にベースとなるNC750Xがフルモデルチェンジを敢行したのに合わせ、こちらも新モデルとなった。
外観デザインはキープコンセプトと言えるもので、ロボットのような近未来感あふれるイメージだ。新型ではボディパーツを一新し、よりエッジの効いた構成となったのに加え、車体色のパーツを車体の上側と前方に寄せることでさらに凝縮感を演出し、ダイナミックな印象となっている。ヘッドライトにはデイタイムランニングライト(DRL)を採用した。日中は前面の導光部が強く発光して車両の存在感を強調。夜間は自動的にロービームへと切り替わる仕組みだ
パワーユニットは水冷4ストロークOHC4バルブ直列2気筒745ccで前モデルを踏襲しているが、ピストン裏面の肉抜きなどによりエンジン単体で1.4kgの軽量化を実現した。最高出力は58PSで、エアクリーナーのダクト断面積拡大やスロットルのボア径を36→38mmに拡大するなど各部を見直し、従来モデルよりも4PSアップを達成している。また、ダイヤモンド形式のフレームは新設計となったNC750X用がベースで、スチールパイプの構成変更や板厚の最適化によりフレーム単体で約1kgの軽量化を実現したという。ちなみにフレーム形状の見直しにより、シート下のラゲッジスペースは従来より1Lアップの22Lとなった。
また、スロットル操作を電気信号に変換してスロットルバルブの制御を行うスロットルバイワイヤを新たに採用。同時にライディングモードを搭載した。これはスタンダード、スポーツ、レイン、グラベルなどシチュエーション別にエンジン出力やホンダセレクタブルトルクコントロール(HSTC:いわゆるトラコン)、エンジンブレーキ、シフトスケジュールなどを最適化するほか、任意のパラメーターを設定できるユーザーモードも備えている。このほか、メーターはフルカラー液晶、シート下ラゲッジボックスにはType-C USBポートとラゲッジライトを装備。また、スマートフォンとブルートゥース接続することでマップや音楽アプリの操作が可能となる機能を搭載するほか、ETC2.0車載器やグリップヒーターを標準装備とし、日常での使い勝手を高めている。
X-ADVを目の前にすると、さすがに750ccクラスだけあってボディは大柄だ。特に車両前部のボリューム感が強烈で迫力がある。シート高は790mmで、これは250ccクラススクーターのフォルツァより10mm高く、NC750Xよりも10mm低い値だ。座ってみると、シェイプされたシート形状のためか思ったよりも足つき性は悪くない。ただ、やはり一般的な250ccスクーターなどと比べれば着座部の幅は広く車両重量もあるので、信号待ちなどでは立ちゴケしないように緊張してしまう。
しかし、一旦走り出すとその軽快な動きに驚かされる。車両重量は236kgとNC750XのDCT仕様より12kgも重いのだが、ライディングモードをスタンダードにしてもそのダッシュ力はかなりのもの。当然ながら、250ccクラスのスクーターを楽々置いてきぼりにするだけのパフォーマンスを見せてくれる。車体幅が940mmもあるので渋滞する道路では小回りが利かないが、DCTのためクラッチ操作が不要なので左手が疲れることもない。高速道路ではスタンダードモードでも十分余裕ある走りが可能だが、追い越し加速の際にスポーツモードに入れるか、パドルシフトで1速落とすなどすれば、さらにキビキビとした走りができる。郊外から都市高速やバイパスを使って通勤する、といったシチュエーションでは毎日が楽しくなるだろう。
走りが楽しい……それは一般道やワインディングを走っても感じられる。何せこのX-ADVはフロントサスに41mm径の減衰力調整式倒立フロントフォーク、リアにはプロリンクでマウントしたモノサスを採用、しかも前後プリロード調整が可能。加えてフロントブレーキはアフリカツインと同じダブルディスク+対向4ポッドのラジアルマウントブレーキキャリパーを採用しているのだ。ライディングモードをスポーツにすれば、峠道でもグイグイと車体を引っ張り、キュッとブレーキングしてアクセルをガバッと開けるという、スポーツバイクのようなコーナーリングが楽しめる。アドベンチャー色の強い見かけの印象とは全く違い、舗装路でもかなり機動性の高い走りを見せてくれるのだ。
そうなると次に気になるのはダートでの走りだ。そこで未舗装の河原へと向かった。ライディングモードをグラベルに設定し、まずは土というより石がゴロゴロしているフラットダートを走ってみた。すると、前後のサスペンションがとてもしなやかに動き、座ったままのライディングポジションでもほとんど突き上げがなく車体が安定している。少し慣れてきたところでやわらかめの土の上を走って車体を倒しつつアクセルをあおってやると、テールがスッと流れてくれた。これも座ったままの体勢だったが、X-ADVは腰高に思えて意外と重心が低く真ん中に寄っているらしく、不思議と怖さがない。というより、むしろ楽しいのだ。
もちろんトレール車のように身軽な動きとは違うし、本格的な林道には適さないかもしれない。ただ、バイクまかせで気負わずにダートを走れて、ある程度慣れれば積極的に遊べるライディングができてしまうのだ。通勤通学から高速を使ってのツーリング、果てはダート走行まで、マルチな楽しみをもたらしてくれるX-ADVは、個性派モデルと呼ぶには余りある、唯一無二の存在かもしれない。