掲載日:2020年10月09日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
VESPA PRIMAVERA 150
ベスパのプリマベーラは1968年に発表されて以来、実に50年以上にわたって名前が受け継がれ、人気を博しているモデルだ。まさにベスパのスモールボディレンジの象徴的な存在と言える。
まず注目したいのは、やはりそのデザインだろう。スモールボディらしいコンパクトな車体は、ボリューム感を抑えた繊細で優雅なボディラインとなっている。それもそのはず、外観デザインにはベスパのプレミアムモデルである「946」のエッセンスが盛り込まれているのだという。確かに、レッグシールド前面やサイドパネルなどを見ると、946の面影を感じることができる。デザインに際しては、ボディラインに反射する光まで計算に入れたというから驚きだ。それに加えて随所にクロームメッキパーツを散りばめることで、高級感と存在感を向上させている。
このプリマベーラ150、外観はレトロなイメージであり、フレームは伝統のスチールモノコックを採用しているが、中身は当然現代にマッチするようにアップデートされている。搭載されるエンジンは155ccのi-GETエンジンで、優れた燃焼効率により環境性能にも配慮。イグニッションキーにはイモビライザーシステムが内蔵され、盗難防止効果を高めている。フロントサスペンションは伝統の片持ち式リンクアームで組み合わされるタイヤは12インチ。フロントディスクブレーキにはABSを装備しており、安全性が高められている。また、ヘッド&テールライトにはLEDを採用し、高級感を増すとともに安全性にも配慮。グローブボックス内にはUSB給電ポートも備えるなど、利便性も高められている。現代のコミューターとしても、過不足のないアイテムをきっちりと装備していると言えるだろう。
プリマベーラ150の車体は125cc版と同じで、まさに原付2種サイズのコンパクトなもの。シート高は790mm、車両重量は130kgで、身長170cmのテスターだと停車時にふらつくこともないし、車体を多少斜めにしても不安なく支えられるレベルだ。
走り出すと、アクセルのレスポンスがよくスルスルっと車体が滑るように加速していく。決してパンチのあるダッシュではないが、気が付くと一般道の法定速度までストレスなくスピードが乗っている。特筆すべきは、その後の高速域にいたるまで、エンジンの振動がほとんど感じられない、という点だ。一般的にはどこかのエンジン回転数のタイミングでグリップなどに振動によるビビリが伝わるマシンが多いが、このプリマベーラ150に関しては全域にわたってほぼ振動がない、というのには驚かされた。マフラーからの排気音もかなり静かなので、優雅に流しているつもりが、いつの間にかけっこうなスピードに達していた、という感じなのだ。
車体の軽さもあるし、前後12インチというタイヤサイズもあってか、切り返しなどの動きはかなりクイックに行える。特にフロントはたまに入力に対する反応がクイックすぎると感じることもあった。では乗り心地がフラフラとしたものなのか、というとさにあらず。スチールモノコックボディが路面からの衝撃をうまくいなしてくれるためか、荒れ気味の路面でも車体は暴れることなく、むしろ安定して走ることができる部類に感じられる。クイックでキビキビとした操縦性と安定感が同居する、なんとも不思議な乗り味を実現しているのだ。
高速道路に乗り入れてみても、横風などの外乱に影響されることは少なく、思った以上に安定した走りをしてくれる。ただ、やはり12インチという決して大きくないタイヤ径のため、ハンドルバーに手を添えて車体を保持するという基本はきっちりと守りたい。スピードに関しては、合流などで怖い思いをすることはない程度の加速性能はあるものの、最高速度は100km/hプラスアルファどまりであるため、左側車線を優雅にゆったりと流すような走りが似合っている。
スピードと機能性を競い合う国産スクーターとは一味違う、秀逸なデザインと実用性を兼ね備えたプリマベーラ150は、乗るだけで気持ちに余裕が生まれ、所有欲をも満たしてくれる稀有でエレガントな1台と言えそうだ。