【KTM 1290スーパーデュークR 試乗記】 第3世代に進化した、KTM製オンロードスポーツの旗艦

掲載日:2020年05月28日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/中村 友彦  写真/井上 演

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KTM 1290 SUPER DUKE R

ライバル勢とは異なる手法で開発された
異色のハイパワーリッターネイキッド

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2020年から発売が始まる1290スーパーデュークR(以下1290SD-R)のキャッチフレーズは、THE BEAST 3.0。猛獣を名乗るようになってからは、2014~2016年型、2017~2018年型に次ぐ3代目なので、その表現は正しいものの、2005~2013年の990時代を含めると4代目、さらに990時代の仕様変更を併せて考えるなら、2020年型は5または6代目という見方もできる。いずれにしても、昨今ではKTM製オンロードスポーツの旗艦となったスーパーデュークRは、他社のリッタースポーツネイキッドを上回るハイペースで、緻密な熟成を重ねているのだ。

近年になって登場したハイパワー指向のスポーツネイキッドは、リッターSSやフラッグシップをベースに開発するのが一般的で、ドゥカティ・ストリートファイターV4はパニガーレV4、アプリリア・トゥオーノV4はRSV4、カワサキZ H2はH2、BMW S1000RはS1000RR、ヤマハMT-10はYZF-R1の基本設計を転用している。そんな中で、1290SD-Rは異色の存在である。もっとも初代の開発ベースは、2008~2015年に販売されたRC8/Rだったのだが、エンジンは当初から排気量拡大を筆頭する大幅刷新が行われていたし、シャシーは一貫して専用設計。つまり1290SD-Rは、ライバル勢とは素性が異なるのだ。あえて生い立ちが近いモデルを挙げるなら、直接的な開発ベースが存在しないという意味で、トライアンフ・スピードトリプルRSやインディアンFTR1200が該当するけれど、それらと比べれば1290SD-Rは格段にパワフルで、3代目となる2020年型は前述した5台のほぼ中間値となる、180psの最高出力を獲得している。

KTM 1290スーパーデュークR 特徴

車体パーツのほぼすべてを新設計し
エンジンと電装系もバージョンアップ

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一見しただけではマイナーチェンジ? と感じる人がいるかもしれないが、2020年型1290SD-Rの詳細を知れば、誰もがフルモデルチェンジだと理解できるだろう。中でも、開発陣の気合いを感じるのはシャシーだ。先代とはまったく異なる構造になったメインフレームとシートレール、片持ち式スイングアーム、ステアリングステム、前後ホイールなどはすべて新作で、リアサスにはシリーズ初となるリンク式モノショックを導入。外装やライディングポジション関連部品、灯火類なども、先代とは似て非なるデザインになっているし、ブレンボのブレーキとWPのショックユニットも見直しを受けている。

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一方の水冷75度Vツインエンジンは、108×71mmのボア×ストロークや1301ccの排気量に変更はないものの、主要部品のシリンダーヘッド、ピストン、クランクシャフト、クラッチなどは仕様変更を実施。現代のトレンドを取り入れる形で、ライダーをサポートする多種多様な電子制御もバージョンアップを敢行している。新世代6軸IMUの導入でABSやトラクションコントロールの精度は大幅に向上したし、スマホと連動できるKTM MY RIDEやスロットルレスポンスの感度調整など、先代ではオプション扱いだった機能のいくつかは標準装備になった。

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そういった仕様変更の結果として、価格は先代+18万円の217万9000円に上がったけれど、現代のリッターSSの基準で考えれば、新世代1290SD-Rの価格は決して高くはないのだ。

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KTM 1290スーパーデュークR 試乗インプレッション

刻一刻と状況が変化するストリートで
圧倒的な速さが安全に堪能できる

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835mmのシート高は先代と同様だが、新世代の1290SD-Rで市街地を30分ほど走った僕は、上半身の前傾度がやや強く感じたうえに、常用域ではリアサスの入りがあまり良くないと思えたので、車体右側に設置されたリモートアジャスターを使って、リアのプリロードを3mm抜いてみた。そしたら、なかなかフレンドリーな特性になったのである。ちなみに、“とりあえずリアのプリロードを抜いてみる”は、最近の僕がストリートでスポーツネイキッドを試乗する際によく使う手法で、すべての機種で有効と言うわけではないけれど、数ミリや1~2段の調整で好感触が得られることが少なくない。今どきのスポーツネイキッドのサス設定は、ワインディングロードやサーキットを飛ばしたときのフィーリングを重視しているので、常用域の快適性を欲しているライダーは、抜く方向でのアジャストを試してみるべきだろう。

そのあたりを踏まえての話だが、リアのプリロードを抜いた新世代の1290SD-Rは、市街地の移動やツーリングに余裕で使えそうなバイクだった。スロットル開度が半分以下なら猛獣の気配はほとんど感じないし、乗り心地は至って良好だし、ブレーキを無造作にかけても姿勢変化に違和感は生じない。おそらくこの特性なら、KTMおよび外車初心者でもスムーズに馴染めるんじゃないだろうか。と言っても1290SD-Rは初代の時点で、990時代と比較すれば、従順なキャラクターになっていたのだが、3代目はその資質にかなりの磨きをかけているのだ。

高速道路で意外だったのは、独創的なヘッドライトとラジエターシュラウドの効果で、乗り手の身体に走行風がダイレクトに当たらないこと。もちろん防風効果という見方なら、兄弟車の1290スーパーデュークGTに軍配が上がるものの、1290SD-Rはスポーツネイキッドとしての整流効果をきっちり追求している。と言うより、スポーツネイキッドという分野で、ここまで空力を意識して外装と灯火類を設計しているのは、最高峰ロードレースのMotoGPに参戦しながら、現在のラインアップに本格的なSSが存在しない、KTMくらいなのかもしれない。

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さて、ここからはリアのプリロードを標準に戻してワインディングロードを走っての話だが、誤解を恐れずに言うなら、こんなに速く走れていいのか……? というのが、1290SD-Rに対する僕の率直な印象である。などと書くと、今どきのリッターSSのほうが速いじゃないかと、異論を述べる人がいるかもしれない。でもそんなことはないのだ。サーキットを前提とする現代のリッターSSとそのネイキッド仕様は、公道では車体が必要としている荷重を与えることが難しく、結果的に乗りづらさや物足りなさを感じることが少なくない。一方の1290SD-Rは走行状況の変化をモノともせず、極上の快走路でも見通しの悪いチマチマした峠道でも、路面に凹凸やウェットパッチがあっても、狙ったラインを確実にトレースして、思い切ってアクセルを開けて行けるのだ。

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どうしてそんなことができるのかと言うと、エンジンもフレームもサスもブレーキも、性能をフルに発揮することだけではなく、性能をフルに発揮しづらい状況を想定しているからだろう。具体的な話をするなら、エンジンは高回転域まで回さなくても、低中回転域から十分以上のトルクを発揮してくれるし(シフトダウンするかどうかで迷ったときは、たいてい現状のギアでイケる)、車体は不測の事態に素早く対応できるので、進路/バンク角の調整や危機回避が容易に行える。だから1290SD-Rは、怖さを感じることなく、安全かつ快適に、とてつもない速度でワインディングロードを疾走できるのである。

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なお先代との相違点として、僕が興味を惹かれたのは、スロットルオフとそれに近い状況での車体の挙動だ。先代はそういう状況だと、何となく落ち着きの悪さを感じることがあって、僕自身は“やっぱりKTMは、アクセルをガンガン開けてナンボだな”と思っていたのだが、新世代は車体に対する印象が、スロットルの開度で極端には変わらない。そういう特性だから、前述したようにさまざまな状況に自然に馴染めるし、場合によってはマッタリ巡航だって出来なくはない。このあたりは、フレーム剛性が先代の3倍になったことや、リアにリンク式モノショックを採用したことの効果のようだけれど、剛性向上=高速域重視と考えていた僕にとって、低中速域で感じた新世代1290SD-Rの安定感とフレキシブルさは、いい意味での誤算だった。

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近年のリッターSSやスポーツネイキッドの基準で考えれば、最高出力:180ps、乾燥重量:189kgという1290SD-Rの公称値に、驚きを感じる人はあまりいないだろう。とはいえ現在の僕は、ツイスティロード最速、あるいはストリート最強、という称号を、このバイクに与えたいと感じているのだ。

KTM 1290スーパーデュークR 詳細写真

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整流効果に貢献する左右分割式ヘッドライトは、先代のイメージを継承。中央にはラムエアインテークダクトを設置。ハンドル左右に備わるマスターシリンダーはいずれもラジアル式で、メーカーは、ブレーキ:ブレンボ、クラッチ:HCI。

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ブラックアルマイトが施されたアルミ製テーパーハンドルは、かなりのロータイプで絞り角も少な目。フロントフォークはWPのφ48mm倒立式。トップキャップ上に備わるダイヤルは、右:伸び側、左:圧側ダンパーで、調整時に工具は不要。

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角度調整機能を備える5インチTFT液晶モニターは、操安性への影響を最小限に抑えるため、ハンドルクランプ上に設置。左側面にはUSBポートが備わる。先代ではオプションだった、スマホとBluetooth接続できるKTM MY RIDEは標準装備。

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ライディングモードの設定画面。エンジン特性だけではなく、トラクションコントロールやコーナリングABSなどの利き方なども、モードに応じて変化する。基本設定はSports/Road/Rainの3種で、PerformanceとTrackはオプション。

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左側スイッチボックスは機能満載で、中央のジョイスティックは家庭用ゲーム機のコントローラーを思わせる。最初はちょっと操作に戸惑うものの、オーナーなったらすぐに慣れるはず。左下に備わる±ボタンはクルーズコントロールの速度調整用。

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右側スイッチボックスの機能は、ハザード、イグニッションオン/オフ、セル/キルスイッチ。上方のC1/C2レバーは、ウイリーコントロールやスロットルレスポンスなど、任意の要素の設定を変更するときに使うクイックショートカット用だ。

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ラジエターシュラウドとの“つながり”を考慮して開発された燃料タンクは、鉄板の厚さを見直すことで軽量化を実現。容量は近年のリッターネイキッドの平均よりわずかに少ない16L。スポーツライディング時のフィット感はすこぶる良好だった。

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新規開発されたシートは、運動性と快適性を高次元で両立している。従来はトラス構造のクロモリパイプ製だったシートレールは、アルミダイキャスト+プラスチックの複合素材に変更することで、1.5kgの軽量化を達成。

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極太ワイヤを透明の樹脂製カバーで覆ったタンデムベルトは、ピリオンシート下に収納されている。日本の車検はこれでクリアできるものの、実際のタンデムライディング時に役に立つかどうかは、なかなか微妙なところ。

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シリンダーヘッドやピストン、クランクシャフトなどの刷新を行った水冷75度Vツインは、先代+3psとなる180psの最高出力を獲得。大容量化が図られたエアクリーナーボックスや、極太エキパイを用いる排気系も新作だ。

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2003年に登場した950アドベンチャー以来、KTMのVツインは一貫してドライサンプを採用。エンジン左前方に設置されたオイルタンクには、残量確認用の長い窓が設置されている。

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数多くの楕円パイプを複雑に組み合わせていた先代と比較すると、新世代のフレームはかなりシンプルな印象で、メインパイプの角度は大幅に寝かされている。この構造変更によって、新世代は3倍の剛性向上と2kgの軽量化を実現。

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ブレーキキャリパー/ディスクは前後ともブレンボ。ボッシュ製ABSとの相性は抜群で、どんな状況でも安心して速度調整が行えた。フロントのラジアルマウント式4ピストンキャリパーは、先代用より軽量化が図られたSTYLEMA。

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F:3.50×17/R:6.00×17のホイールも新作で、スポークには驚異的な肉抜きが施されている。タイヤはブリヂストンS22。なおフォークのインナーチューブに備わる赤いリングは、スポーツ走行時の確認用として重宝するストロークセンサー。

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一見すると先代と共通と思えるものの、片持ち式スイングアームも15%の剛性向上を達成した新型。リアサスはシリーズ初のリンク式で、フルアジャスタブル式のWP製ショックユニットは、リモート式のプリロードアジャスターを装備。

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