取材協力/キッズガレージ  取材・文・写真/モリヤン  構成/ストリートライド編集部

掲載日/2014年12月1日

ヤマハSRを長きにわたって扱い続ける、関西の老舗店舗でもあるキッズガレージ。現在の社長である尾崎裕也さんは、2代目のショップオーナーである。数々のカスタムバイクを製作し続け、このお店に集うファン層は様々な年代に広がっているが、1970年代から長く生産され続けているSRにこだわり続けるのはなぜか。尾崎さんに、その真意を尋ねて見ようと思う。

OWNER’S VOICE

長い歴史と共に
SRのカスタムも進化する

ヤマハのSRがデビューしたのは1978年である。基本構成とデザインの変更なしに36年間生産し続けられている脅威のロングセラーロードスポーツだが、歴史が長いだけに、カスタムバイクとしてのスタイルも、様々なものが存在する。キッズガレージは、先代の近藤氏がオーナーだった時代にいわゆるトラッカースタイルの先駆的な存在として脚光を浴びていた。現社長の尾崎さんは、元々はこのショップの常連客でもあり、自身は他のヤマハショップでメカニックとして修行していたという人なのである。やはりこのSRが大好きだったことが、キッズガレージに足を運ぶきっかけとなった。

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「自分の仕事が終わった後でも、夜中になっても店の明かりが消えないのがキッズガレージでした。だから時々仕事を手伝うようになっていくうちに近藤さんに誘われて、正式なメカニックとして働くようになったんですよ。普通のメカニックとしてただメンテナンスだけやっているより、カスタムがメインのショップだから自分のスキルアップにもつながるし、やりがいがある。数年でほとんどの仕事を僕が引き受けるようになりました」

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近藤氏はメカニックであると同時にアイデアマンでもあったので、氏がそちらに注力している間は尾崎さんが主に作業を担当した。そして、メカニックとしての実績を積み、どんどんと自らのスキルを上げていくなかで、「いつかは自分で店を持ちたい」という夢を近藤氏に語る機会があった。すると、話しの流れからそのままキッズガレージを譲り受けることになったという。

「かなり驚きましたが、決断は早かったですね。外に出て一から始めるよりも、じぶんのやりたいことは実現できると思いました。それにすでにキッズガレージには大勢のお客さんがいたので、お店が分解してしまっては申し訳ない。それで最初はあまり大きな告知をしないよう、自然な成り行きで僕がオーナーになったんです」

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尾崎さんの考えるSRの楽しみ方。それは、スタイルを特定しないということだという。超ロングセラーのSRには様々なカスタムが施されてきて、そのスタイルは、古くは英国車系のレプリカに始まり、カフェレーサーやトラッカー。少しオフロード系も取り入れたスクランブラーや、チョッパーまでと実に幅が広い。大阪にはキッズガレージの近くにも、SRカスタムが得意なショップが他にもあるので、一定のスタイルを誇示するのではなく、ユーザーの求めるスタイルを共に製作していこうという考え方なのだ。制作されるカスタムでそのショップの個性は決定的になる。その幅を広げておくことが楽しいSRライフになると尾崎さんは考えているのである。

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「SRというバイクの魅力は、なんといってもそのシンプルなところにあるので、ちょっとしたことが性能アップにつながります。長いバイク歴があるライダーが、リッターバイクや外国製バイクで散々遊んだあげく、SRに戻ってくるということも多いですね。ベーシックなバイクって、やっぱり楽しいんですよ。ノーマルでももちろん楽しいですけど、ちょっと塩コショウを振ると、さらに楽しくなってしまう。だから、大げさなバイクはやめられても、SRはやめられない。そんなバイクだと思いますよ。同じような理由で、ヤマハもやめられないんでしょうからね」

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尾崎さんが代表になった新生キッズガレージも、今年で10年目を迎えることになった。SRに乗るユーザーは、一台のバイクを長く乗り続けて、徐々にカスタムする人が多いという。最初からお金をかけてフルカスタムしても、人はしばらくすると飽きてしまうが、飽きないバイクをベースに少しずつモディファイを加えていくと、長いバイクライフが楽しめる。SRに乗るユーザーは、自分のスタイルを固定せずに楽しむ術を身につけているのだろう。そんなユーザーを全面的にサポートしていくことがショップの役目。尾崎さんはやはり生粋のメカニックとしての目線で、このショップを運営しているのだ。

PICKUP PRODUCTS

ユーザー5人による
それぞれのカスタムSR

新生キッズガレージとして10年目。お店を訪れるお客さんの年齢幅は広いが、今は30代のライダーが多いという。彼らはとても長いスパンでSRを楽しむべく、様々なカスタムを施しているが、やはりかなり時間をかけてコツコツとSRライフを楽しんでいるようだった。バイク歴はそれぞれだが、一番好きなのはやはりヤマハのSRであることは間違いない。自分の長い人生の中にうまくバイクライフを定着させるためにシンプルで発展性のあるSRを選んでいるのである。ここに、それぞれの個性的なカスタムを紹介しよう。各モデルそれぞれ個性的な仕上がりだが、パフォーマンスアップされているところが共通点。走りにうるさいオーナーたちなのだ。

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1ベース車両はSR400でオーナーは10年乗り続けている。トラッカーシートや前輪に19インチのノーマルキャストホイールを使用するなど、長いカスタム遍歴を伺わせる1台だ。

2トラッカーシートの奥にはLEDを使用したテールライトが装着されていて、ほぼリアフェンダーレス。モノトーンのシックな色合いが、大人な雰囲気も見せている。

3エンジンは500のクランクを使用した534ccで、ワイセコのピストンとFCRキャブレターでチューニング。マフラーはキッズガレージのオリジナルだ。足周りはフロントフォークをスクーデリアオクムラでセットアップ。リアサスはオーリンズをベースに、やはりオクムラスペシャルとなっている。

4オーナーのKAZZ-KIDさんは原付きから徐々にステップアップしてきたSR乗り。バイクを手に入れてから少しずつカスタムを実施し、未だ途中という。次は外装のイメージチェンジを考えている。

5足周りの軽量化はオートバイの運動性を飛躍的にアップさせる。前後にFZR400用のパーツをふんだんに移植したこのモデルは、いかにもワインディングでその性能を発揮しそうである。

6大きく走りに振ったモディファイを行っても、SRらしいシルエットを捨てないところがやはりマニアなのだろう。しかしガソリンタンクやシートカウルなど、塗装にも手を抜かないカスタムである。

7同じヤマハ製バイクからのパーツ移植は常套手段。軽量化されパフォーマンスをアップする。タイヤはハイグリップラジアルを選び、リアサスにはホワイトパワーを選択。エンジンは595ccで、ヨシムラのハイカム(ステージ2)も組み込まれている。

8オーナーのNAOさんは、20代の半ばと若いライダーだが、すでにSRを5年乗り続けている。以前はホンダのGB250に乗っていたという根っからのシングルマニア。SRの魅力は「さわるほどに速くなっていくところ」だという。

9スポークホイールというクラシカルなシルエットのままで、現代的な走行パフォーマンスを追求するとこうなる。というお手本のようなSRである。フロントフォークインナーチューブの色に、オーナーのやる気がみなぎっているようだ。

10ホイールサイズは前後共に17インチ。スポークホイールながらラジアルタイヤを装着できる設定として、ハンドリングを追求する。オーソドックスなスタイルの中に、シャープなポテンシャルを秘めているのだ。

11エンジンは、トレッシャルのシリンダーを使用した595ccとして、キャブにはヨシムラ製のTMRを採用。FフォークはTZR250用で、フォークのインナーチューブにはチタンコートを施した。トップブリッジはアントライオン、スイングアームはベルトラン等、パフォーマンスアップのパーツが数多く使われている。

12オーナーは磯野カツオさん。SRは今年8年目で、これが自身3台目のバイクとなる。パフォーマンスを上げても、あえてクラシカルなスポークホイールとしているところがユニークである。

13ダークなカラーリングカスタムが多いSRだが、ホワイトをベースにして、かなりポップなカラーリングに仕上げてある。見た目の明るさにプラス、かなりのポテンシャルアップを図られたパフォーマンスマシンとしての実力も高い。

14足まわりにヤマハXJR400のものを流用するのは、SRカスタムの定番である。車体のモディファイはSRのポテンシャルアップに大きく貢献する。リアサスは、オーリンズのフルアジャスタブル。

15エンジンはデイトナ製のシリンダー&ヘッドを使用した546ccである。カムにはヨシムラ製ステージ1を使い、同じくヨシムラのTMRキャブを使用する。クランクカバーが赤い結晶塗装されているのがユニークだ。マフラーはキッズオリジナル。

1620年のバイク歴という波壁幸児さん。バイクは大小様々なモデルが好きだが、SRには特に大きい思い入れがあるという。美しく磨き上げられた車体からはオーナーの愛情が強く伝わってくる1台だ。

17さりげなくカスタムされたSRは、気兼ねなくバイクに乗るライダーを想像させる。ノーマルのカラーリングを残したまま、車体を少しモディファイしてコーナリングパフォーマンスを上げているのだ。

18サイドカバーを取り払い、バッテリーレス化やリアのフラットフェンダーなど、ストリート系カスタムのシルエットだが、足には定番のXJR用を移設する。今後もまだ発展性のあるカスタムである。

19薄いダブルシートはバイク購入時から装着されていたもので、基本的にはあまりパフォーマンスを追求するカスタムには見えないが、足周りの軽量化やラジアルタイヤの装着は、かなりのポテンシャルアップになる。エンジンはノーマルでオーバー製のマフラーを装着。

20オーナーの松井雅彰さんは、10代の頃には原付から400ccのスポーツバイクへとステップアップしたが、28歳でアメリカンタイプのドラッグスターに乗り換える。トラディショナルなバイクの魅力にも触れて、SRを購入。現在4年目となっている。

21キッズガレージは、SRだけでなく、もちろん他の車種も扱うが、やはり中古車も預かりバイクもSRが中心となっている。程度の良いベース車を探す上でも頼りになるショップなのだ。

22大型の加工機械も揃うサービスピットでは、スピーディに作業が行われていた。ワンオフパーツの製作や、キッズガレージのオリジナルパーツ製作も行われる。

23初代の近藤氏から尾崎さんへと受け継がれたキッズガレージの看板は、個性的なSRカスタムを製作し続けるという点で、そのポリシーは踏襲されているのである。

BRAND INFORMATION

キッズガレージ

住所/大阪府池田市城南3-2-10
Tel/072-750-5454
Fax/072-750-5455
営業時間/10:00-20:00
定休日/毎週水曜日

大阪国際空港(伊丹空港)からほど近い国道176号線沿いにあるキッズガレージ。マンションの1階が店舗で、ショップには中古車や整備待ちのSRがずらりと並んでいる。店長の尾崎さんはじめ常連客の笑い声が絶えない店内には、お宝パーツや、思わぬ掘り出し物もあるようだ。