ホンダ CBR400R(1986)

掲載日:2015年12月04日 絶版ミドルバイク    

文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)

記事提供/ロードライダー編集部

※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです

HONDA CBR400R(1986)
カウルによる空力の恩恵はレプリカだけのものではない。それを新作水冷直4エンジンと組み合わせた新思想モデルがCBR400Rだ。

新思想のフルカバード車

時代は常に新しいものを切望する。バイク界ももちろんそうだ。この連載で取り上げている1980年代中盤は、そうした動きが特に活発だった頃。バイクブームによって、新しいものはいいものだという風潮も強かった。水冷エンジン、アルミフレームや各種の新デバイス。ディスクブレーキやモノサスもこれに入る。

その後押しをしていたのは、これも何度も出てきた、レーサーレプリカ路線。前述の“新しいもの”はそこからのフィードバックという意味合いも強かったからなおさらだ。1982年夏に国内認可されたカウルもそうだった。だが今回紹介するCBR400Rは、新しくこそあったが、レプリカとは一線を画していた。

意外とも思えるホンダの行動。CBR400F/F-III/エンデュランスといった空冷4発スポーツ群ではレプリカ路線を汲み、カウルもレプリカ的に装着された。でも、水冷となり、名称はCBRを継いだCBR400Rは、レプリカの流れにない。V4があったからだ。1982年のVF750F、その後のVF400F登場時にホンダは、V4をレースの軸に据えると明言した。それゆえ、直4は別の流れにしたのだ。

1986年3月に登場したV4のVFR400Rではカムギアトレーンを採用し、スタイルも当然のようにレプリカ。同年7月に登場した直4のCBR400Rは、カムギアトレーンなどの新機構を装備したが、スタイルはレプリカではなかったのだ。

足まわり以外をすっぽりと包み込んだ、国産初のフルカバードボディ。ヘッドライトも異型1眼。ホンダはこれを「近未来フォルム」と呼んだ。確かに見たことのない近未来。鉄フレーム+通常カムチェーンで同時期に展開した輸出車のCBR600Fや、1987年登場のCBR750スーパーエアロ、やはり輸出車のCBR1000Fも同じようなフルカバードボディを採用し、直4エンジンに新しい形のスポーツを提案する。

このカウルは、単に外側の空気を整流するだけではなかった。ボディの内側を流れる空気にも気を遣い、スイングアーム上側にインナーフェンダー(ハガー)を装備し、ボディ内の空気を積極的に車体後方へ流す。これによってエンジンが必要とする新気の取り込み効率を高め、エンジン熱を素早く逃がすことでライダーへの負担軽減機能を持たせた。こうした機能をインターアクションと命名。事実、エンジンの熱風が低減され、フレームの熱による低温火傷などのリスクが激減。カウル内側の乱流低減など、4気筒スーパースポーツとしては異例の快適性を確保した。

そんなボディの中にあったのは、ホンダらしい作り込みの車体とエンジン。目の字断面材フレームにはアルミスイングアーム、17/18インチのS字断面3本スポークホイール。タイヤは扁平で、既に他社はラジアル化を始めていたが、CBRではバイアスをセット。信頼性とバランスによるもので、実際にもどの速度域でもクセのない上質なハンドリングを見せてくれた。

ホンダらしいのは前傾35度シリンダーの採用だった。45度前傾シリンダーで低重心や高効率化の「ジェネシス思想」を提言したヤマハに対し、ホンダは前傾35度とし、カムギアトレーンをセット。高回転時の正確な弁作動と摩擦抵抗低減を図り、車体のコンパクト化も可能とした。

ただレプリカ以外の先鋭スポーツというルックスに時代が追い付かなかったのか、CBR400Rは翌1987年に色変更、1988年初頭にはバルブを直打式にこそしたがほぼ同じ構成でデュアルヘッドライトのレプリカスタイルとしたCBR400RRにモデルチェンジし、こちらは高い人気を得ることになる。

冒頭では新しいものを切望と述べたが、その新しさにも受け入れられる時流がある。CBR400Rが見せた新しさは、少し早かったようだ。

カタログは時代の証明。カタログで知る名車の系譜…

CBR400R用に新設計された直4エンジンはシリンダーが35度前傾、ロッカーアームバルブ駆動、カムはギア駆動。後にいくつかの変遷を経てCB400SF/SBのルーツともなった。それ以上に、徹底して空力を追求したボディワークが重要視されていた

外装/エンジンの先進性が高い一方で、アルミツインチューブフレームやプロリンクリアサスペンションなど、手堅い車体構成を持っていた。風洞実験ではライダー込みの風の流れを徹底検証。エンジン出力の確保とエンジンの熱風低減だけではなく、乱流による頭部の振れも最小限に抑えられる形状とした。近似形状の1987~CBR1000Fはベストセラーになったほどだから、少しだけ時代が早かったのだろう

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