ヤマハ FZ250 フェーザー(1985)

掲載日:2015年02月20日 絶版ミドルバイク    

文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)

記事提供/ロードライダー編集部

※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです

YAMAHA FZ250 PHAZER(1985)
同排気量のまま4ストで2ストを超えるにはエンジン回転数を2倍にする。
それを250cc市販車で実現したのがFZ250フェーザーだ。

4スト250の超新星!

1985年春。ヤマハからFZ250フェーザーが発表された。ピークパワーは当時の2スト250cc並みの45ps。しかも発生回転数はその倍近い1万4,500rpm。1万7,000rpmまで回るとある。「’60年代のホンダ4ストGPマシンならまだしも、1万5,000回転以上回る公道走行車が出るのか!」と大きなインパクトを受けた。

プレス向け試乗会では’83年いっぱいでの引退間もないWGPライダー、ケニー・ロバーツが乗り、ジェット機を思わせる高周波サウンドを轟かせながら袋井テストコースのS字高速コーナーを猛烈な速度で駆け抜けた。そこでの走りはビタッと、まさに路面に張り付くような安定感に充ちたフルバンク走行。レーサーレプリカならまだしも、前後16インチの小径ホイールをセットした、スリムで小柄な車体からは想像できないほどのハイペース走行。参加者たちの目は釘付けになっていた。

フェーザーから降りたケニーは開口一番「エンジンもファンタスティックだが、何よりもGPマシンに一番近いハンドリング、これがファンタスティックだ!」と絶賛した。

レーシングライダーのインプレは別の場所でも聞かれた。GP500等に乗った当時のヤマハワークスライダー、河崎裕之選手は「本当に2ストローク的な加速を楽しめる」とコメント。’84年TT-F3チャンピオンの江崎 正選手は「8,000回転以上は4スト250ccとは思えないパワーを感じる。取り回しがすごく軽いし、身長160cmの私でも足着き性が抜群でUターンも楽」と。

このようにサーキットでレーシングライダーを唸らせながら、じつは一般道でビギナーが乗ることもしっかり視野に入れた乗りやすいバイク作りを目指したフェーザー。その開発の動機はまさに直球で、「打倒ホンダVT250F」だった。

遡ること5年。1980年にデビューし爆発的にヒットしたヤマハの2ストクォーター、RZ250。市販レーサーTZのレプリカとも位置づけされていた。対してホンダが’82年に送り出した刺客は、4スト90度V2のVT250F。こちらもWGP復帰のハイメカ4ストマシン、NR500がバックグラウンド。35psを1万1,000rpmで発揮。鋭さも持ち合わせながらVTは、裏に秘めた乗りやすさによって、RZ系とはまったく異なる新たなユーザーのハートを掴み、クォーターのベストセラーモデルとして君臨する。

フェーザーに話を戻そう。’80年代前半のHY戦争はH=ホンダ勝利のうちに終結していたが、ヤマハはVTへの対抗策を練っていた。2ストスポーツは魅力があるものの、より幅広い層にアピールするには4ストスポーツこそ本流、と捉えた。その上で、次世代スポーツに必要なエンジンは何かを、若い世代のエンジニアに検討させる。そこから出てきたのが前傾低重心エンジンだった。これが柔軟なパワーを生み出し、車体側にも重量配分を最適化し低重心化、ライディングポジション自由度の確保など、エンジンと車体を有機的に合体させるジェネシス(創世期)コンセプトに練り上げられる。

それまで直立か少し前傾程度だったシリンダーは一気に45度も前傾する。従来の燃料タンク部分相当スペースは排気量の28倍ともなる7Lの大容量エアクリーナーボックスに。ダウンドラフトキャブからほぼ真っ直ぐに燃焼室に新気が導かれるインレットストレートポートを組み合わせ、高回転時の充填効率をアップ。

さらにエンジン幅が広くなりがちな4気筒でもニーグリップ部のスリム化を可能とし、燃料タンクは通常のタンク部後方からシート下部に置き低重心化とマスの集中化を促進。

この思想=ジェネシス・コンセプトは、チームこそ違ったが同時期に開発が進められたヤマハ初の大型スーパースポーツ、FZ750でも採り入れられた。こうしたエンジン/車体トータルでの開発という手法は、他社にも少なからず影響した。

超高回転型4気筒250ccでありながらも乗りやすく作られたフェーザーの目論見は成功し、他社もこれを追う。ホンダは’86年後半に35度前傾シリンダー+カムギヤトレーンのCBR250Fをリリース。レッドゾーン回転数に限ればフェーザーの後継車FZR250は1万7,000を経て1万8,500rpm、CBRは1万7,000rpm、後継のRで1万8,000rpm、RRで1万9,000rpmに。カワサキZXR250も1万9,000rpm。従前からは異常とも言える超高回転エンジンの時代。それを当たり前にしたのが、このフェーザーだったのだ。

カタログは時代の証明。カタログで知る名車の系譜…

変化や発達の段階、時期を示す英語のphazeから、新しい変化を起こす者=Phazerと命名。一部の人だけが乗れる高性能ではなく、革ツナギを着なくても似合うスーパースポーツ、誰でも楽しめる「好」性能を主張。このためにジェネシスコンセプトが立てられ、扱いやすい高回転・高出力エンジンと車体、レプリカと異なる形のカウルを有機的統合し、安全&安心でシャープな操縦性を実現した

’85年秋にはヤマハ専門店=YSP(ヤマハスポーツプラザ)限定車が登場。黒×赤のツートンカラーを施し、リヤブレーキをディスク化。ピレリMT45ZETAタイヤを履きアンダーカウルやサチライトめっきサイレンサーも装備。シングルシートカウルはオプション。’86年のSTDマイチェン時に、STDもリヤディスク化し吸排気系の変更を行った

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