ヤマハ TY250Z スコティッシュ(1994)

掲載日:2014年12月19日 絶版ミドルバイク    

文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)

記事提供/ロードライダー編集部

※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです

YAMAHA TY250Z SCOTTISH(1994)
トライアルの楽しさをひとりでも多くのライダーに知らせたい。
スコティッシュは、そんな熱い思いで競技専用車から派生し、それを貫いた。

ツートラバイクの頂点

この連載では’80年代前半の車両を紹介しているが、今回はそのレプリカ時代にルーツを持ちつつ、最後までそのスタイルを貫いた1台を、特例ということで最終型から振り返ってみたい。それは、ヤマハのTY250Zスコティッシュだ。

TYはヤマハのトライアルモデルに冠された名称で、古くは’70年代の空冷2ストエンジン+2本サスのTY175(今のワイズギヤ製トリッカー用外装キット、TY-Sはこの形がベース)。’80年代に入ってリヤにリンク式モノクロスサスを採用した市販車のTY250等、名車と言っていいモデルが輩出した。今回紹介するTY250Zのペットネーム、スコティッシュも、初めは市販型TY250に付けられた。

競技用市販車TY250Rに必要最低限の保安部品を装着したTY250スコティッシュは、まさにトライアル界のレプリカ。鋼管ダイヤモンドフレームにサス、エンジンは共通で、エアクリーナーとサイレンサーが違う程度。重量も9kg増ながら、市販車で乾燥90kgは、十分な戦闘力を持っていた。スコティッシュとは、トライアルの最高峰、SSDT=スコティッシュ・シックスデイズ・トライアルにちなみ、そこに挑んで十分に走れるという意味があった。市販車だから公道も走れて、ツーリングしながら行き先でトライアルをする“ツートラ”にも多く使われた。

競技車のTY250Rはリヤサス改良やFディスク化などの進化を受けるが、スコティッシュは変更を受けていなかった。そこへ’94年末、TY250Zスコティッシュが登場する。ヤマハとしてはTT250R/レイドという、2ストDTに代わる“走る”4ストトレール車が好調で、その流れだったのだろう。スコティッシュの名は引き継がれ、公道用だが、内容は一新されていた。

ベースは先代同様にトライアル競技専用車TY250Z。本場と言える欧州のトライアル車がアルミツインチューブフレームを採用し始めた時代。サスやタイヤなどの進化によってより走破すべきセクションも高難度へ変化していて、そのためによりスリム軽量コンパクト、低回転からパワフルで、かつタフでなければならない。ヤマハはその要素をアルミツインチューブフレームと、水冷2ストエンジンでクリアする。トラクション性能アップのための吸気系改良とステップ位置変更を行ったところで、そのレプリカとしてTY-Zスコティッシュが生まれた。

メディア向け試乗会の会場はヤマハのオフロード専用テストコースだった。そこに颯爽とスコティッシュで現れたのは、’92年から2年連続で全日本チャンピオンに輝いたヤマハワークスのパスカル・クトゥリエ選手。彼の華麗なデモ走行を見学しつつ、記者は試乗するという流れだったが、乗った人は異口同音にその乗りやすさを強調した。欧州の本格マシンはエンジンレスポンスだけではなく、車体もブレーキもシャープ過ぎて乗りにくいことが多かったが、スコティッシュはエンジンが極低速から粘る上に吹き上がりも滑らか。路面を掴むエンジンをテーマに徹底議論と改良を重ね、結果的にグリップするエンジンになったと開発関係者は自負していた。

実際に急斜面でも路面を捉えるが、それでいて前輪がまくれ上がりにくい特性。ワインディングでの操安も穏やかで高速走行も100km/h維持が可能でありつつ、林道走行も快適にこなす。ブレーキも過敏過ぎずに初級ライダーが安心して楽しく操れる、まさに万能型軽量オフロードバイク。当時のセロー225と競技用TY250Zの中間というのは、的を射た説明かもしれない。

価格は66万円と、先述のTT250Rレイドの48万9,000円より高く、数としてはヒットとは行かなかったが、この2世代で足かけ15年超。もちろん開発の熱意は先代当時のレプリカ、TY-Z当時のネイキッドという売れ筋モデルに勝るとも劣らず、とても熱かった。

カタログは時代の証明。カタログで知る名車の系譜…

「低速トルクがあるため加速騒音クリアが過去最も難しかった」とは関係者の弁だが、日本で開かれた世界最大のツートラ=イーハトーブトライアル・クラシック仕様と言えるほど最適な操縦性で完成。前と左右にそのイーハトーブ公式ゼッケンがセットしやすい配慮までなされた。平忠彦さんと女性トライアルの名手:萩原亜弥さんと私の3人1組+スコティッシュでこれに参加したことが思い出深い

MFことヤマハ・モーター・フランス向けのカタログはTY250Zのツインチューブフレームをアルミデルタボックスフレームと称し、優れたエンジン性能とともにポテンシャルの高さをアピール。フロントフォーク右のボトムケースには昔ながらの簡易型速度計がセットされる。リヤホイールはワイヤスポークだがチューブレスタイヤ対応だ

BikeBooksで雑誌・電子雑誌をチェック!

こちらの記事もおすすめです

この記事に関連するキーワード

新着記事

タグで検索