ホンダ NS400R(1985)

掲載日:2014年07月04日 絶版ミドルバイク    

文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)

記事提供/ロードライダー編集部

※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです

HONDA NS400R(1985)
楕円ピストンのNR500で2スト全盛のGPシーンに衝撃を与えた
ホンダがみせた次の一手。それは過去にない匠の技によるものだった。

NRに劣らぬ革新車!

2ストだろうが4ストだろうが、3気筒エンジンには、2気筒でも4気筒でも成しえない独特の滑らかな回転フィールがある。それは昔も今も変わらない。今回紹介するNS400Rは先行販売していたMXV250Fの兄貴分にあたり、ホンダ市販車で過去最大の2スト・ロードスポーツだった。

62万9,000円の価格でのデビューは、レーサーレプリカブームが本格化した1985年のこと。RZV500Rのヤマハ、RG500Γ/400Γのスズキと真っ向から対決するGPシーンそのままの状況で、市販市場の熱い戦いに挑むためにNS400Rは生まれてきたのだ。

NS400Rに搭載される水冷2スト90度V型3気筒エンジンは、ホンダのワークスマシンNS500の基本設計思想を強く受け継いだものだ。そもそもNS500は優れたパワーウエイトレシオ、車両重量の絶対値低減、マスを集中した低位置前方慣性モーメント設定という高度な融合を目指して生まれたものだった。

しかも「最高出力という絶対値を求めない発想」による。それまでのホンダならパワー最優先の発想から高回転・高出力の4気筒を選択したかもしれない。だがそれは、極論すれば4スト楕円ピストンのNR500と変わらぬもので、4ストから2ストへの練り直しに終わるものでしかなかったのだ。2スト4気筒路線では多くの経験を持つヤマハやスズキに追いつき追い越すことは容易ではなく、まして同じことをやるのはホンダの望むところではない。

そのように根本からアプローチを変えて'82年のGPシーンに2スト3気筒で挑み、GP500クラスで「14年ぶりの1勝」を飾って以来、確かな手応えを得たホンダは、続く'83年に、フレディ・スペンサーとともに悲願のタイトル奪取を叶えた。

その’83年のGPシーンは、今も熱く語り継がれているF・スペンサーが操るNS500と、キング・ケニー・ロバーツのYZR500による激戦が続いた。GP史に残る名シーンとも言われるこの戦いは、まさに対照的な走りだった。華麗に舞うようにYZRを操るロバーツに対し、スペンサーはあたかもワンサイズ小さく見えるバイクを俊敏かつアグレッシブに操って見えた。「軽量コンパクトで扱いやすい」という基本に立ち返りながら果敢に邁進、4ストNRで多くの辛酸を舐めたホンダの意地と底力がそこにあった。

マシンを一気にバンクさせながらのクイックな初期旋回、コーナー出口までの変幻自在のライン選択と、ブラックマークを路面に色濃く描き残しながら強烈な立ち上がり加速を披露するスペンサーの、これまでにはないまったく新しい走り方と、NS500の画期的な作り込みが見事に合致したこともあったろう。

そんな名シーンを背景に、一般ライダーの手に届くように作り込まれたのがNS400Rだった。ただNS500と同じ90度V型3気筒エンジンといっても、NS400Rは後方シリンダーが1気筒のレイアウトで、これはMVX250Fと同じ。ちなみにNS500では、より深いバンク角を得るために前方シリンダーが1気筒という配置だった。

いずれにせよ、GPチャンピオンライダーが、直系の市販車に実際に乗ってカタログでの走行シーンを披露するのは、極めてレアなケース。しかも、いかにもスペンサーらしいフォームで表紙を飾っているのだからファンにはたまらなかったはずだ。

そんなNS400Rに実際に乗った印象は、ライバルたちの2軸クランクに対してNS500と同じく1軸クランクの90度V型3気筒としたことで、軽量でコンパクトな車体が明確だった。250ccと400ccの中間のサイズ感といえばいいか。

走り出せば低中速回転域からのトルクが厚く、コーナー立ち上がりからの加速もクラストップを実感できた。高回転維持が難しいシチュエーションでも、すぐにほしいだけの加速が得られるという意味で、実用的な速さを誇っていた。実はMVX250Fも、気が付けば速いペースだった……というのが持ち味。3気筒エンジンならではの、滑らかな回転フィールも、実に忘れ難い味だった。

カタログは時代の証明。カタログで知る名車の系譜…

ライバル同様の4気筒路線を敢えて追わず軽量コンパクトを求めた結果、V型3気筒を選んだNS500の発想を市販車に還元したのがNS400Rだ。NS400RのベースはMVX250Fの兄弟車として市販化直前で開発中止となったMVX400F。エンジンだけでも高耐久性を誇るNSシリンダー、デュアル・エレクトリックコントロールの排気デバイスATAC、3連フラットバルブキャブ採用など、最先端技術満載だった

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