ホンダ NS250F/R(1984)

掲載日:2014年06月27日 絶版ミドルバイク    

文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)

記事提供/ロードライダー編集部

※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです

HONDA NS250F/R(1984)
4ストのホンダが2ストロードモデルに進出。その2作目は市販レーサーとの同時開発だった。
強烈な意志、明確な目標がここから始まった。

切り札! V型2気筒

2スト・レーサーレプリカ全盛期の代表格と言えば、ホンダNSR250Rだが、その前身がここに紹介する’84年発売のNS250RとカウルレスのNS250Fだった。’86年以降、2スト・レーサーレプリカ路線を引き継いだNSRが、’80年代後半から’90年代前期に至るまでベストセラーモデルとして君臨し、強烈な存在感を発揮したことを考えると、このNS2機種は今見返すとやや大人しくも見える。

だが、その作り込みへの姿勢は、当時のライバル他車に優るとも劣らないほど熱いものだった。例えばそれはHRCの市販レーシングマシン「RS250R」との同時開発。これは伊達ではなかった。

折りからの2ストバイクブームに乗り遅れまいと、ホンダは前号紹介の MVX250F で市場参入したものの、その目論見は外れ、販売成果は今ひとつだった。一方、当時のロードレースの現場では、ホンダは市販レーサーRS125Rで125ccクラスを席巻したものの、250ccでは国内外ともヤマハの独走を許していた。’70年代末期から’80年代初頭にかけて、ロードレース、モトクロス、トライアルのモータースポーツ全分野で巨額予算をかけていたホンダは、そんな抜き差しならぬ状況に、甘んじて身を置く訳にはいかなかったのだ。

そうした理由でNS250R/Fは、市販ロードレーサーRS250Rと同時開発という、かつてないほどレーサーと公道市販車とで近似値を持つ、独自の開発スタンスをとった。まさにレーサーレプリカを地で行く「公道を走る2スト・レーサー」だったのだ。

ホンダはサーキットを走る市販レーサー市場も、スーパースポーツを軸とした250ccの市場も、これから大きく成長する分野と睨んだのだ。そして同時に、ひとつの固い意志による選択がなされた。

それは水冷2ストV型2気筒エンジンの採用だった。量産車の2スト2気筒車で先行してきたヤマハ、スズキ、カワサキの路線と同じやり方では、単純に後追いとなるからである。加えて、市販レーサーとしてメジャーだった、ヤマハTZ250のレイアウトを踏襲したくもない。

ホンダにはすでに、ワークスマシンNRとNS500のV型エンジンがある。言えばV型はホンダのプライドの塊でもある。MVX250Fと、市販直前まで開発が進みながらも断念した幻のMVX400F(ともにV型3気筒)での失敗経験も踏まえて、ホンダはNSR500のエンジンを立てに割ったような、新しいV型2気筒エンジンを創造したのだ。

ちなみに、初代NSR500のデビューも’84年だったから、HRCとNS2車を開発した本田技術研究所・朝霞研究所は、エンジンに対する発想を共有していたと想像するのも、外れているとは言えないだろう。一軸90度V型2気筒。軽量・スリム・コンパクトなエンジンの誕生だ。

翌’85年には、GP史上初の500ccと250cc(こちらはワークスマシン・RS250RWだった)の2クラス制覇をフレディ・スペンサーと共に成し遂げたが、V型エンジンへの評はそれだけで終わらない。後にヤマハもスズキも、水冷2スト250クラスレプリカは、このV型の採用へとシフトしたのだから、ホンダの発想の合理性を証明している。

さて、そんな背景のNS250R/Fだが、Rはアルミフレーム。Fは一般的な鉄フレーム。ちなみにアルミフレームはホンダ量産車では初の試みであり、RS250Rと基本構成が同じ。ヘッドパイプとスイングアームピボット部には、より剛性の高い鍛造品を組み合わせた。

ちなみにFのフレーム重量は約3kgアップ。エンジンのスペックは変わらないがキャブレター形式は別。Fは外観もフロントカウルが外されて、ヘッドライトが丸形になっているばかりではなく、RのNSコムスター(星型)に対してFはブーメランタイプ、スイングアームの形状も異なる。そうした多くの差異を持ちながらも、FとRの乾燥重量は144kg、装備重量も161kgと、重量スペックが同じという点は面白い。

先に書いた’85年のF・スペンサーによる500cc、250ccクラスダブルタイトルを記念して、発売翌年の’86年1月に、NS250Rには外装をロスマンズカラーとした仕様も追加発売。レーサーレプリカ全盛時代の幕開けに相応しい、強い存在感をアピールしたのだ。

カタログは時代の証明。カタログで知る名車の系譜…

ホンダの2スト250スーパースポーツ第2弾は絶対に失敗できない……。斬新かつ合理性に優れるエンジン。それが1軸V型2気筒だった。同時期に販売されたカワサキのタンデムツイン車・KR250と同じくチャンバーとマフラーの配置は左右非対称となるが、その他は空力を最優先したスタイル。ニッケル+シリコン・カーバイドのNSシリンダー採用などは、最先端技術を全力投入した当時の象徴的な例だ

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