ホンダ MVX250F(1983)

掲載日:2014年06月20日 絶版ミドルバイク    

文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)

記事提供/ロードライダー編集部

※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです

HONDA MVX250F(1983)

右は’83年1月印刷の初期カタログ。左はF・スペンサーがライドした’83年4月製。ほかに新色追加時に製作されたが同年9月製も存在。フレディ仕様は独特の腰ずらしと起きた上体のフォームが印象的

’80年代後半に始まるレーサーレプリカ全盛期への前哨戦で、ホンダが発売した
初の2スト・スポーツはユニークなV型3気筒250ccだった

あなどれない俊足マシン

’70年代末期から’80年代初頭にかけて、ホンダは大胆なレース活動を展開した。その筆頭は、GPの世界なら楕円ピストン+モノコックボディの4ストレーサー・NR500がそれ。2スト4気筒のライバルに挑む果敢な姿勢は、他の分野にも伝播。モトクロス部門では並列2気筒やV型2気筒エンジンに加えて、プロリンク式フロントサスに挑み、トライアルでも2スト全盛期にあえて4ストマシンでトライして世界タイトルを獲得するなど、その勝敗以上にレース界に大きなインパクトを与えた。

そんな常識やぶりの展開ができたのは、’59年代のマン島TTレース初参戦からわずか数年で、サイドカーを除く全クラス制覇という快挙で得た、既存の価値概念打破こそ真実! という確信と自信がそこにあったからだろう。

先のNR500で多くを学んだホンダが次世代マシンとして用意したのが、2ストV型3気筒エンジンのNS500だった。2スト4気筒で先行するライバルと同じエンジンレイアウトで勝負に出て、よしんばすぐに勝ててもそれは企業規模の違い、ライダーの違い、などと揶揄されるかもしれない……と思ったかどうかは定かではないが、少なくとも「他とは決定的に異なる手法」を選択する気概が、強すぎるぐらいに当時はまだ残っていたことは事実だろう。

多気筒化すればピークパワー値は上げられることを知っていたはずのホンダが、何故あえて2ストエンジンで3気筒を選んだのか? それは「曲げやすさ」だったかもしれない。

3気筒は4気筒よりも軽量・スリム・コンパクトにできる。しかも3気筒なら最低重量制限規則でも有利。ピークパワー値では不利でもパワーカーブが穏やかであれば、バイクは扱いやすい。それはレースだけではなく通常のバイクでも同じ。そのための排気デバイスも開発した。

そしてそのNS500で勝つためにホンダが用意したライダーは、フレディ・スペンサーだった。天才と称された彼の走りとNS500は見事に合致した。誰も見たことがないほどの黒々としたタイヤ痕を残してコーナーをクリアしつつ、マイナス10馬力のハンデをモノともせずライバルに打ち勝った。NS500登場からわずか2年目に、ホンダは16年ぶりにGPタイトルを奪取した。

このGPでの躍進とともに、’83年1月デビューを飾ったのがMVX250Fだ。カタログライダーは、そのスペンサーという豪華キャスト。当時のカタログは以外も、CB250RS+片山敬済、VFR400R+ワイン・ガードナーなどトップライダーを起用していたが、とりわけこのスペンサー+MVX250Fのイメージ的なつながりは濃く見える。

さて、肝心のエンジンはNS500(V型112度3気筒:前1、後2気筒)というレイアウトではなく、MVXはV型90度の前2気筒、後1気筒のレイアウトを採用。振動防止のバランサーを付けると重量が大きくなるため、前側2気筒と後側1気筒のピストンまわりの重量を均等化しようと、わざわざ後側1気筒のピストンピン径を大径化(前12→後18mm)して振動対策を施した。

一方でホイール、ブレーキなどの足まわりのほか、さまざまな外装品は先行販売してビッグヒットを飛ばしたVT250Fからの流用が多く見られた。例えばそれは、インボード式フロントディスクブレーキ、16インチの前輪、コムスターホイール、プロリンク式リヤサスなどだ。NRイメージのVT250Fであり、そのNRの技術があったからこそ、NS500の開発速度も驚異的に速かったわけで、この点でもMVX250FはNS500のレースイメージにつながる、と言ったら言い過ぎか。

実際に乗っても、低中速回転域から十分なトルクが出ており、速度のノリはすこぶる良く、車体の剛性バランスとリヤサスの動きの良さで軽快だが高い接地感を発揮していた。当時の前輪16インチバイクとしては操縦性も良好。3気筒ならではの滑らかな吹け上がりも大きな魅力だったし、3気筒特有のサウンドで一部の熱烈なファンを痺れさせた。

だが、さらにパワフルかつレーシーなライバル車の登場も相まって、ホンダは急遽、VツインのNS250R/Fをリリース。MVX250Fは短命に終わった。それは同時に過激なレーサーレプリカ黄金時代の幕開けを告げていた。

カタログは時代の証明。カタログで知る名車の系譜…

他と同じことをやらないホンダのワークスマシンの精神をMVX250Fにも注入。250ccで前例のない90度V型3気筒。しかも後方シリンダーのピストンピンを大径にして前方シリンダーとの回転質量差を減らすというレアな発想もあった。実際にエンジンの回転は滑らか。ホンダらしく低域からトップエンドまでパワーが出る特性で、実際は侮れない速さだった。VT250F流用の足まわりによる安心感も魅力だった

MVX250Fのオリジナリティをアピールする豊富なオプションパーツも用意された。センターカウルとアンダーカウルのセットで一気にレーシーなイメージへ。リヤシート用のスポーツカウルは一般的だが、ビキニカウルにセットするナックルカウルは今となってはかなりレアなアイテム。社外品では4本マフラーに見せるダミーマフラーもあった!

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