ヤマハ XS400 SPECIAL(1982)

掲載日:2014年05月23日 絶版ミドルバイク    

文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)

記事提供/ロードライダー編集部

※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです

YAMAHA XS400 SPECIAL(1982)
’80年代初頭。激しい技術革新の時代に生まれたヤマハのミドル級ニューアメリカンは、
意欲的なデザインと走り味への挑戦そのものだった。

新デザインへの挑戦

’70年代のヤマハならモノクロスサスのDT250、’80年代初頭ではRZ250、水冷VツインのXZ400、レアなXJ750A、そして今回ご紹介するXS400スペシャルとXS250スペシャル。海外モデルでは1973年(旧トライアンフ3気筒車)のハリケーンX75が、その典型的なモデル。

そこに共通するポイントは何か?燃料タンクとサイドカバーがひとつのラインとして流れるようなデザインになっている点だ。

例えば、’69年登場のCB750フォアはタンクとサイドカバーが独立したデザイン。’79年登場のCB750Fはタンクとサイドカバーが一体化して、ひとつの流れる形状。こうしたデザイン比較であれば、お分かりいただけるだろうか。

今となれば、この程度では大胆と思われないかもしれないが、世界市場を睨みつつ、そんな世界市場とは好みが異なりつつも、非常に活性化していた日本市場でも販売シェアを確保したいという、各社それぞれの思惑を抱えながらのデザイントライは、非常に勇気の必要なチャレンジであったに違いない。

そもそもバイクのスタイルの原点はタンクはタンク、サイドカバーはサイドカバーという、それぞれのパーツが独立したデザインにあった。ティアドロップ型タンクと別体のサイドカバーの組み合わせは、今もレトロ風バイクの定番形状としているが、上記以外にもその殻をなんとか打ち破ろうとして各社が、それぞれのジャンルや排気量でさまざまなバイクで挑戦してきた。このXS400SPECIALがデビューした’82年当時は第1次バイクブームの頂点間際。何度も書いたが、各社からニューモデル・ラッシュが続き、バイクは飛ぶように売れた時代だった。

そんな時代の、それまでのヤマハ製アメリカンといえば、’78年デビューのXS650スペシャルのように、極めてオーソドックスなスタイルにプルバック・ハンドルとキング&クイーンと呼ぶ段付きシートとショートタイプのメガホン型めっきマフラーという組み合わせだった。

当時はこれで強い存在感をアピールしたものの、車体構造的にもメカ的にも新しいチャレンジはなく、あくまでもロードスポーツの派生としてのアメリカンモデルだった。

そこでヤマハが取り組んだ新しいアメリカンへの挑戦は、ロードスポーツモデルを開発しながら、アメリカンモデルとしてもっと明確な独自性をアピールすることだった。

’70年代からヤマハが積極的に取り入れていたカンチレバー式モノクロスサスペンションをXS400スペシャルにも採用することによって、ステアリングヘッドから後輪軸まで一本の太いラインとしてつなげた。見方によっては変形ティアドロップ型でもあるのに、サイドビューはかつてない個性的デザインとして強い存在感を演出した。

エンジンもそれまでの極めてオーソドックスなSOHC並列2気筒ではなく、DOHCで高出力化しながら、バランサーを装備して低振動を促進。YICSというスワール状の吸入を生み出して低燃費まで狙った。

エンジンはヘッドまわりを大きく、シリンダーのウエスト部を細くして逆三角形のエンジン造形美をアピール。プレスバックボーンタイプのフレームだから、エンジン造形がより目立つという結果になった。

当時の250/400ccは、中型車クラスとして日本のバイク市場の中心だった。ということは両車を同時開発することがコスト的に有利になる。このXS400/250スペシャルは、サイドのエンブレムとナンバープレートを見ないと違いが分からないほど同一ディテールとした。ここまで徹底的に差別化しなかったモデルは、実はありそうでない。

ホイールはRZ250同様のスパイラル状のキャストとして、これまでの重いイメージを払拭。並列2気筒180度クランクならではのドルルーンとくる躍動感と、ほど良く抑えられた振動で実に心地よく市街地やワインディングを走った。400の方がやや鼓動感が強いという程度で、250もロードバイク並みに走り、曲がった。カンチレバー式サスならではの高い乗車一体感と長めのフロントサス・ストロークによって、優れた乗り心地とスポーツバイクとしての魅力の両方を味わうことができる、とてもレアなバイクだった。

カタログは時代の証明。カタログで知る名車の系譜…

バランサー装備で快適性アップとパワーアップという両立のためにDOHCの新規エンジンを開発。この時代は4気筒、V型2気筒、並列2気筒、単気筒など4スト400ccエンジンのバリエーションが充実していた。この背景には国内のバイク市場活性化があるのだが、一方で各車の開発期間は短く、その多くは短命に終わった。このXS400/250スペシャルもそのひとつだが、振り返れば強い個性を持った1台だった

大きく手前に引いたアメリカンモデルならではのプルバックハンドルのライディングポジションをアピールしつつ、造形美についてもこだわりを見せた。400と250同時開発で、各部を同じ仕様・作り込みにして格上、格下という概念を取り払ったことも新しいトライだった

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