掲載日:2014年04月18日 絶版ミドルバイク
文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)
記事提供/ロードライダー編集部
※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです
ヤマハ初の4スト250オフロードバイクは1980年登場のXT250。カンチレバー式モノクロスサスを持つ車体とSOHCエンジンによる軽快な走りが魅力だった。
軽量コンパクトなため、オフのみでなくストリートユースでの魅力も上手くアピールできたモデルだった。だが、その’80年代初頭といえば2ストを中心としたエンジンの水冷化、リンク式リヤサス導入など各社とも高性能化の流れが急激になった時代。
そこでヤマハが新たに提案したのが、さらなる高出力と高い走破力を身に付けたXT250Tだった。
’83年に登場したこのXTは、オフ車初のDOHC 4バルブを導入した。しかもレスポンスに優れる強制開閉式と滑らかな吹き上がりとなる負圧式の、ふたつのキャブを使ったYDIS(ヤマハ・デュオ・インテーク・システム)を採用。ふたつの吸気ポートで流入速度を速めて充填効率を高めるだけではなく、そのふたつの吸入ポートによる、スワール効果も狙ったもの。
DOHCならではのセンタープラグ配置とペントルーフ型燃焼室との組み合わせで、燃焼効率向上も図った。
これらにより出力は前作XTの21馬力から27馬力へ大幅にアップ。実際には数値アップ以上に、メリハリのあるエンジン特性を得ることによって、乗って楽しく、回して速いバイクへと変身していた。
一方、速くなったエンジンを支える車体まわりも大きく変化した。それまでのカンチレバー式リヤサスからストロークするほど2次曲線的にレートが高まるリンク式となり、路面追従性が確実にアップした。
ホイールトラベルはフロント:255mm、リヤ:220mmとクラス最大値を実現。なお、フロントはフリクションの少ないDUメタルを摺動部に採用。セミエア式と合わせて乗り心地と走破性の両立を実現した。
さらにオフロードファンにとって大きな朗報は、後輪が17インチから18インチになったこと。タイヤの選択肢が増えることと、18インチ径ならではのグリップ力確保に貢献した。
そして’85年には細部をブラッシュアップ。外観的にはカラー変更の他にフロントフェンダーにオーバーフェンダーをセット。そしてフロントにディスクブレーキも採用した。
その’80年代半ばといえばオフ系モデルもオンロード系に続いてディスクブレーキ装着率が大幅に高まった時代だが、リヤはまだドラム式。ちなみにオフ系で世界初の前後ディスク化は同年のKX250だった。
こうしたブレーキのディスク化は、エンジンと車体および前後サスの進化による高速化対応にも、欠かせぬこと。エンデューロレースなど、水溜まりや川を渡るコースでは、どうしてもブレーキドラム内に水が入り、制動不能になることもしばしば。こうした、ブレーキのディスク化への動きは、全天候で確実な制動力確保が必要なオフ車では朗報であった。とりわけレースに使うヘビーユーザーに大きなメリットとなった。
27馬力から28馬力にアップしたXTは、カムのリフト量やバルブタイミングの変更、エキパイとマフラーの見直しなどで同時に燃費も改善。当時はカタログにこそ掲載しなかったが、広報データの参考値として公表された最高速度は、初期型XT-Tの130km/hに対して、マイチェン型の同車は135km/hへとアップしていた。
リヤサスはクッションユニット下部に5段階のダンピングアジャスターを新装備。この時期の直接の4スト・ライバルはXLR250R、水冷のKL250Rなどだが、ライバルがいてこそオフロード分野が盛り上がる、という図式は昔も今も変わらない気がする。
マイチェンしたXTはスペック上では最低地上高を5mmアップしながら、シート高は5mmダウン。悪路にひっかかりにくくするために、エンジン下のクリアランスをアップしつつ、足着き性を改善していた。戦闘力アップと商品性アップへの執念の断片が、ここに見えるのだ。