第6回 動体視力を上げる!! コラム『医学でコーナリングを極める』

『医学でコーナリングを極める』

第6回 動体視力を上げる!!

Column #444  掲載日:2016年03月08日

Text/Toshiaki YOSHINO

コラム『医学でコーナリングを極める』 

さて、前回は視野を広げるお話でした。これは、体で言えば柔軟性のような物です。今回のテーマは動体視力とそのトレーニング方法です。

動体視力とは、ズバリ「筋力」です。実際、動体視力の「動」の部分は、目をいかに筋肉で動かすか、とうことです。モーターサイクルのスポーツライディングに動体視力は極めて重要です!!

目の動体視力にはふたつ要素があります。ひとつは眼球そのものを動かす筋肉の能力です。もうひとつは、目のピントを合わせる筋肉の能力です。

前者は「外眼筋」と言って、目玉を上下左右に動かす6本の筋肉です。

上の図は右目の眼球を動かす筋肉を示したものです。6本の筋肉が各々拮抗するように働きます。例えば、下の図のように、各々ふたつの筋肉が一緒に働いで目玉は動くのです。

そして足が速いのと同じように、目の動きの速さもこれら6つの筋肉がどれだけ速く動かせるか、ということなのです。これによって、目玉がどれだけ速く、大きく動かせるかが決まるのです。

さて、もうひとつの筋力である、目の「ピント」を合わせる能力ですが、これには、カメラで言えばレンズの厚みを変える「毛様体筋(もうようたいきん)」と、絞りを調整する「虹彩筋(こうさいきん)」があります。じつは外眼筋よりも内眼筋である毛様体筋と虹彩筋の方が、遥かにライディングにとって重要なのです。

毛様体筋とは、レンズである水晶体を調節してピントを合わせる筋肉です。近くを見るときは筋肉が緊張して水晶体が厚く膨らみ、遠くを見るときは緩んで水晶体は薄くなります。これらの筋力が衰えると、いわゆる老眼になり、ピント調節が上手くいかなくなるのです。多くは近くが見えない、あるいは見えづらくなります。

もうひとつの内眼筋が虹彩筋です。カメラで言うところの「絞り」の働きをします。猫の目は縦に絞りが閉じるので、明るいところでは目は縦目になりますよね? 人間の絞りは円形ですから、目が大きくなったり小さくなったり見えます。虹彩筋はこのピントを合わせる筋肉の総称で、「瞳孔括約筋(どうこうかつやくきん)」と「瞳孔散大筋(どうこうさんだいきん)」からなります。

暗い場所で多くの光が必要なときは虹彩筋が縮み、瞳孔が大きく開くので光を多く取り込みやすく、多量の光を水晶体に送る事が出来る一方、絞りが開くのでカメラで言う被写界深度(ピントを合わせる距離)が浅くなり、ピントが合わせづらくなります。すなわち、暗くなると1点でしかピントが合わなくなります。夜のライディングで、スピードメーターを見ると前の車のナンバーなどが読みづらくなるのはこの為です。

一方、明るい場所では光が少なくて済むので、虹彩筋は伸びて瞳孔は小さくなり、水晶体に送る光も少なくして眩しくないようにします。このとき、被写界深度は最大になります。明るいと運転しやすいのはこの為です。とくに老眼になっている人は顕著です。

また、自律神経にもこの虹彩は影響されます。自律神経は感情に強く影響を受けます。簡単に言えば、緊張していると瞳孔は閉じ、リラックスしていると瞳孔は開きます。ですから、何か問題が解決した時に「目の前がパっと明るくなった!」という表現がありますが、本当にリラックスすると自律神経の副交感神経が働き、目の前は事実明るくなるのです。

ところで、近眼や遠視なども視力の要因ですよね? この近眼などは動体視力とどの程度影響するのでしょうか?

じつはあのイチロー選手は、我々がいわゆる視力と表現する静止視力が0.4しかありません。それにも関わらず、数々の好成績を残しています。それはなぜかと言うと、眼球が動いている物に向けるスピード、つまり動体視力が優れているからです。

静止視力そのものは動体視力と関連しません。静止視力はコンタクトレンズやメガネで簡単に矯正出来ますし、今はレーシックなどでも矯正出来ます。あのフレディー・スペンサーはコンタクトレンズで視力を矯正していました。世界GP350ccクラスで、カワサキのKR350で世界チャンピオンを獲得し、500ccクラスでも活躍していたコーク・バリントンはメガネをかけていましたよね。

やはり、重要なのは動体視力なのです。

イチロー選手は小さい頃、クルマに乗ると対向車のナンバープレートの数字を見て、その瞬間に足し算したり、バッティングセンターではハイスピードボールを打つ練習を重ねて動体視力を鍛えていました。生まれつきの才能だけでなく、動体視力を鍛える努力があったからこそ、老眼が出始める40歳を超えた今も輝かしい成績を残していると言えるのです。

動体視力は加齢と共に衰えます。現在はリターンライダーが多いので、ここが重要ですね。現代の異常とまでに思える進化したモーターサイクルでは、ライダーの限界以上にライディング出来てしまうからです。

発育中の8~20歳の期間に、いかに動体視力を鍛えておくかが、後々の動体視力を維持するためのポイントと言えるのですが、我々はプロレーサーではありません。それに「いまさら8歳のことを言われても!」となりますので、ここでは動体視力を鍛える方法をお伝えします。

もっとも簡単な方法は、遠くと近くを交互に見ることです。それによって疲れて凝り固まった毛様体筋をほぐし、ピント調整力を鍛えることになります。ごく簡単に出来ますが即効性は無いので、パソコンを見ている時に外の景色を眺めるなど、日常にこの方法を取り入れると良いでしょう。

次に、これを片目別々に、同じ方法を取ります。より毛様体筋を積極的に鍛えられます。さらに、本や新聞などを読んでいるときに、1文字を見て、目を閉じた状態でも焦点を合わせ続けるイメージをします。毛様体筋は目を閉じると緩むので、そこを維持することがポイントです。目を閉じている時間が長いほど、難易度が高くなります。

わたしが長くやっていたトレーニングでは、ランニングしながら動体視力を鍛える方法があります。走るときは腕を左右交互に振りますよね? そのときに、指先を伸ばして視界の下から上がってくる中指の指紋を見るのです。これは瞬時に指紋を見る訓練です。

ところで、今回の動体視力に関して、元ヨシムラジャパンのチームで全日本TT-F1クラス、1985年、1986年と2年連続チャンピオン、デイトナ日本人最高位の2位や500ccなどでも大活躍された、辻本聡さんに取材をさせていただきました(写真は辻本さんのカフェ『PILOTA MOTO』にて)。

吉野「どのようにして動体視力を鍛えていたのですか?」

辻本さん「新幹線に乗っているときに、通過する駅名の看板の文字を読んだりしていました。アマチュア時代はサーキットで走る時間が無いので、高速道路で目を慣らしてからサーキットに行ったりしていましたよ」

吉野「僕らアマチュアからすると、プロは動体視力が極めて高くなっていろんなものが瞬間に認知・判断・動作出来るようなイメージがあるのですが?」

辻本さん「じつはそうではないんですよ。むしろゆっくりと時が流れている感じです。すべてのものがスローモーションのようになって、それを確実にこなしている感じです」

吉野「なるほど! 高速道路を走った後に一般道に入ると、アスファルトの石ころが見えるような感じが素人の僕でもあります」

辻本さん「そうです。実際のレースの世界では、スピーディに動いていると言うより“リズム”ですね。距離とか時間より、リズムの中で動いている感じです」

吉野「僕らがオペをするときに大事なのが、やはり動体視力と運動神経です。とくに、口腔領域のオペは反射で舌が上がってくるときに、治療用のタービンなどが絡みつくと大変な事故になります。タービンは毎分40万回転も回っています。やはり、オペがリズム乗ってくると時間の感覚が無くなって、気が付くと6時間経過していたことなどがあります」

辻本さん「デイトナのときですが、バンクでは縦のGがもの凄くかかって、サスペンションがフルボトムします。ヨシムラの最高スペックのマシンですから、バンクの最上段を走ることが出来ます。下位のライダーのマシンはスピードが出ませんから、バンクの上まで来ることが出来ません。ですから僕がバンクの最上段にいるときに、下位のライダーのマシンのマフラーが僕の左耳位の所にあるのでとてもうるさいんです(笑)。そしてやはり、その時もガードレールの継ぎ目がゆっくり見える世界でした。スローモーションのように、ゆっくり時間が流れている感じです」

吉野「…。プロはやはり凄い!!」

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