第5回 ライディングで視野を広げる! とくに目線より上と下の視野の関係 コラム『医学でコーナリングを極める』

『医学でコーナリングを極める』

第5回 ライディングで視野を広げる! とくに目線より上と下の視野の関係

Column #443  掲載日:2015年12月14日

Text/Toshiaki YOSHINO

コラム『医学でコーナリングを極める』 

よく教習所などで「バイクは視野が縦、クルマは横。だから、横からの車の進入や歩行者に気付きにくいので、とくに注意しなさい」などと習います(下図)。

このように、同じ道でも背もたれにもたれかかる姿勢で運転するクルマと違って、バイクの方が視点がある程度高く、かつ縦長になると言われています。また、バイクは路面状況によって転倒することがあるので、道の凹凸やマンホール、またアスファルトの表面性状などを見極めながら走っており、「面」より「点」で見る傾向があることや、またさらに、ヘルメットによって視野を遮られているので、より視野が狭くなる、と言われています。

…本当にそうでしょうか!?

わたしは4輪も2輪も乗る派、いわゆる「6輪ドライダー」です。4輪も大好きですし、国産ではスカG、Zなどを乗ってきました。フェラーリも2台乗り継ぎました。

で、結論から言えば、視野の世界の話はコーナリングに関しては全てウソ!! 4輪は死角だらけです。

そもそも路面状況は、4輪では(軽のワンボックスなどを除いて)どんなに近くても2メートルくらい先、Zの様なFRのロングノーズになったら3メートルくらい先でないとわかりません。横方向は、4輪ではフロントピラーが邪魔しますし、シートベルトでシートに固定されていますから、側方を見るのも首を動かすレベルでしか見られません。

でも2輪にはピラーなどありませんから、視界は完全開放状態!! しかもシートには固定もされていませんし、その気になれば運転しながら後ろを見ればよいので、後方視界も100%ミラーを使わずに直視出来ます!!

こんなに視野の広い乗り物は無いのです!!

つまり、バイクのシートに座ったまま横にも振り向かず、当然肩越しや後ろ向きの姿勢も取らないで、まるで正座しているような姿勢であれば視野は縦に長くなるかもしれませんが、みなさんの様に「コーナリングを楽しみたい!!」というライダーに、リーンウィズで頭も全く動かさず、固まったようなライディングをする人はいないでしょう。むしろ積極的に、自由に姿勢を動かすことによって、楽しくライディングをスポーツしているわけです。

バイクには左右方向の視野の問題が無いから、レーシングマシンにはバックミラーが無いのです。4輪では、F-1などフォーミュラーカーですらバックミラーがあるのはその為なのです。

というわけで、実はことコーナリングに関しては、横方向の視野の問題はありません。むしろ、定説とは異なり、縦方向の問題の方が重要なのです!! それには、視野の世界に関する医学的な問題があるからです。

まず、人間の視野には「視野角」というものがあります。これには上下の視野角と左右の視野角があります。さらに、「静視野角」と「動視野角」というものがあります(下図)。

動視野とは、左右の目をきょろきょろ動かして見える視野で、当然動視野の方が広くなります。先ほど言ったように、人間は首も動かすことが出来ますし、振り返ることも出来ますから、ことコーナリングに関しては、左右の視野はあまり問題になりません。大事なのは上下です。

ライディング中にウンウンうなずく様な動きをしている人はいません。実際は縦の視野を上手く使って、出来るだけ広く路面状況を得ることが必要なのです!!

さて、視野角の図をもう一度見てみましょう。上の視野角は50度、下が75度です。つまり、上の視野は意外と狭いのです。しかし、ライディングにおいて空を見る必要はほとんどありません。むしろスリップすることで転倒の恐れがある2輪では、路面の情報のほうが圧倒的に大切です。ですから、ネイキッドのような上体が直立する姿勢では下の視野が狭くなり、路面の情報量が少なくなります。前傾姿勢をとるレーシングマシンの方が、より路面状況を把握し、それをライディングにフィードバック出来るのです。

よく、スポーツバイクで背筋を伸ばして顎が上がっている悪いライディングフォームの人がいます。背中を曲げることでブレーキングのGをクッションのように受け止めるのですが、背筋が伸びると両腕に直に負担がかかります。加えて視野も、路面が見えなくなって極めて危険です。むしろ下を強く向くくらいの方が、上の視野をライディングに取り入れることが可能なわけですから、安全です。

この図は、コーナーの先を観るのみならず、かなり顎を引いて上の視野を路面状況の把握向上のために、下を向く様な頭の位置でライディングする塩森選手です。医学的には合理的な頭の角度です。これは一流のライダーであれば、程度の差こそあれ基本的には頭が下向きになっている、共通のフォームです。

それからもうひとつ、左右どちらの目が「利き目」なのか、ということです。人間の脳は、両眼からの情報を均等に処理しているわけではありません。左か右か、どちらの目が見るのか、必ず闘っているのです。これを「両眼視野闘争」と言います。

これを確かめる方法があります。下の図をみてください。 左眼で左の画像を、右眼で右の画像を見てください。立体視をする要領で、赤の点が一致するように、遠くを眺めるように見てみましょう。

さて、どうですか? どうしても斜めの縞模様の片方しか見えませんよね? そして、それが時々入れ替わりますよね? 一瞬ぼんやりと両方の縞模様が見えているときもあります。これが両眼視野闘争の状態です。左右の眼が互角に闘っている状態です。つまり人間の脳は、片目からの情報のみを処理するのです。

さきほど簡単に言いましたが、人間は「立体視」という能力を持っています。下の図を同じように見てください。3Dで立体的に見えるはずです。

このように、両目は闘争する一方で、協力し合って立体感も作り出しているのです。4輪はTVやパソコンなどのような、平面の画面のシミュレーターでトレーニングを行うことが多いのに対し、2輪ではコースを覚えること以外、あまり使いません。これは、ある時は片目で、そしてある時は両目で路面の細かい情報を得る、2輪ならではの特性に他なりません。

ですから、左右で視力が極端に異なる、またガチャ目などは、当然ライディングには良くありません。メガネやコンタクトレンズ、レーシックなどで補正すべきです。

さらに、利き目がどちらかも自分で知っておくべきです。利き目で状況を総合的に把握し、両目で細かい路面情報を認識する、そして出来るだけ視覚情報を正確に、大量に得るため、頭の角度をやや下向きにする…これが、医学的見地から見たライディングフォームなのです!!

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