『バイク乗りの勘所』

リターンについて思うこと

掲載日:2014年09月22日 タメになるショートコラム集バイク乗りの勘所    

Text/Nobuya YOSHIMURA

私のオートバイ整備の師匠であり、整備だけでなく乗り方についてもいろいろ教えてくれた先輩が、このほどライダーとして復帰した。30年ぶりのリターンである。その彼から「うまいこと乗れへんから、いっしょに走って、引っ張ってくれや」と電話があり、近々、いっしょにツーリングに行くことになった。以前とは立場が逆転し、今度は私が教える番。こんな日がやって来ようとは夢にも思わなかっただけに、ちょっぴり嬉しい気分なのは確かである。

いっぽうで、知り合いから「弟がバイクで事故って入院した」との連絡が…。こちらもリターン組で、25年ぶりくらいに新車を買い、近所の山道をひとっ走りしてから職場に向かうといった生活を半年ほど続けていたそうだ。単独の自損事故ではあるが、左右の鎖骨が折れ、肋骨にヒビが入る重症を負ったそうである。かつての、いわゆる“ローリング族”だった彼がリターンしたと聞いて、こうならなければいいが…という、悪い予感が的中してしまった。

リターン組が危ないのは、オートバイの世界に限ったことではないようだ。山登りでも同じく、長期間の中断を経て復帰した熟年登山者の事故が多発していると聞く。加齢による体力の衰えや判断力の鈍りがあるにもかかわらず、若い頃と同じような計画をたて、初心者(同年代の非リターン組)とは違うんだ…と言わんばかりの無謀な山登りを開始する。ここでの問題は、本人たちが、自分らの行為が無謀だなどとは、これっぽっちも思っていないことだ。

オートバイに話を戻すと、リターン組に必要なのは、自分は初心者なのだという自覚である。できれば、実際に走りだす前の、バイク選びの段階でそのことに気づき、今現在の自分の能力に見合った機種を選ぶべきである。そこから先の上達は、昔の経験をうまく生かせば、決して遅くない。短くていいから、今の自分とそれを取り巻く状況を把握するための期間を設ければ、リターンライダーの無謀運転による悲惨な事故の多くは防げるのではないだろうか。

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