『バイク乗りの勘所』

薄暮ランのすすめ

掲載日:2013年06月17日 タメになるショートコラム集バイク乗りの勘所    

Text/Nobuya YOSHIMURA

先日、所用で、滋賀県大津市の瀬田から高島市の今津まで、湖畔の道~湖にかかる橋~湖を見下ろすバイパスのルートを、日没直後に走った。朝練やデイツーリングで走り慣れた道にもかかわらず、眼前や眼下に広がる景色は、明るい時間帯はもちろん、夜間ともまったく異なり、パノラマ写真の中に飛び込んだみたいな印象を与えてくれた。コントラストと彩度が低く、近くの物体はあいまいなのに、遠くの山々の稜線や街の明かりはくっきりと、手が届きそうに錯覚する。

薄暮(はくぼ)とは、日没後、完全に暗くなるまでの時間のこと。これが1年中で最も長いのが、ちょうど今ごろ、夏至の前後である。太陽が沈んだあとも、空は明るく、油絵みたいにギラギラだった景色が、徐々に水彩画的になり、やがて水墨画のようなグレーの濃淡を経て、最後は夜景に変わる。“つるべ落とし” と形容される秋の空とは異なり、昼と夜の間にある1時間から2時間のたそがれどき。移ろう景色にどっぷり浸る、この時期の薄暮ランもまたオツなものだ。

せっかく、四季のはっきりした、それぞれに風情のある国に住んでいるのだから、暑い時期も寒い時期も、明るいときも暗いときも、いろんな環境の中を走り、そのときどきの自分を取り巻く景色を味わいたい。そのためには、とにかくバイクに乗って走りださなければ始まらないが、ただ、いつも同じように走っていたのではダメである。薄暮ランにおいては、遠くへ行こうと欲張らないこと、決して速く走ろうとしないこと、車間距離を十二分にとることなどが必要だ。

で、行き先は…? どこだっていい。空がきれいに見えるところとか、海・湖・川などが見下ろせるところとか、夜景の美しいところとか、こだわりだせばきりがないが、そうじゃなくても全然かまわない。ただ、山の中のワインディングロードってのは感心しない。走りそのものを楽しむのではなく、自分とバイクを取り巻く薄暮の景色を楽しむわけだから、道端にマシンを止めて佇んでいるだけでも O.K. 。真夏だと、まだ暑い時間帯だから、今が決行のチャンスである。

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