『バイク乗りの勘所』

整備はネジに始まりネジに終わる(その2)

掲載日:2012年01月23日 タメになるショートコラム集バイク乗りの勘所    

Text/Nobuya YOSHIMURA

どれくらいの力でネジを締めるか(工具を使ってボルトやナットを回すか)は、慣れないと非常に難しい。ボルトを回す力のうち、約40%がネジ部分の摩擦、約50%が座面の摩擦に奪われ、残る約10%だけが締結力に変換されるということは知っていて損はないが、その “変換” によって、工具にかけた力(便宜上、ネジの軸心から1mのところにかけた力の大きさで表す)の何百倍もの大きさになっている。前回書いた “クサビ” の効果によるものだ。

軽く締めたつもりが、ボルトの軸は強大な締結力を発生しているわけだから、工具にかける力のわずかな違い(バラツキ)によって、締結力には大差が生じる。そのバラツキを、できるだけ小さくしようというのが締めつけトルクの管理であり、それに使う工具がトルクレンチである。だが、トルクレンチというのは、締めつけトルク、つまり、ボルトを “回す” 力を管理することはできるが、ボルトが発生する “締結力” を管理することはできない。

最初に書いた、ネジ部分の摩擦や座面の摩擦に変化があっても、それはトルクレンチで管理したあとの力の配分に変化があるということで、それらの摩擦の大小による締結力の変化には、トルクレンチでは対応できない。そこで、サービスマニュアルなどには、締めつけトルクとともに潤滑条件が指定されている。だから、締めつけトルクの値だけマニュアルに従っても、潤滑条件が違えば、ボルトが発生する締結力には大差が生じることもあるのだ。

ネジ部と座面を、最低でもオイル、一般的には二硫化モリブデングリス、マニアックな人はスレッドコンパウンドなどで潤滑する。締結力の安定、錆やカジリの防止などに効果があるからで、整備の基本とも言える作業ではあるが、マニュアルに書かれた締めつけトルクが無潤滑時の値だった場合は、その値で締めつけたのでは締まりすぎになるから注意が必要だ。スレッドコンパウンドを用いた場合は、無潤滑での指定値の2~3割減程度が目安となる。

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