掲載日:2019年07月08日 フォトTOPICS
取材・写真・文/山下 剛
6月30日、アメリカ・コロラド州にて「第97回 パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(以下PPIHC)」の決勝レースが開催された。PPIHCは1916年に第1回が開催された伝統のレースで、アメリカではインディ500に次いで2番目に長い歴史を持つ。
コースは標高4302mの「パイクスピーク山」の頂上へ至る有料観光道路の約20kmを使って行われる公道レースで、ヒルクライムという名称が示すとおりの登山レースだ。
2011年まではコースに未舗装路が残っていたためオフロードに分類されるレースだったが、2012年から全面舗装となりロードレースと化している。
レースは大別して四輪と二輪のクラスがあり、それぞれが排気量などで小分類される。今年のレギュレーションでは、二輪クラスは単気筒〜2気筒・500ccまでのライトウェイト、単気筒〜4気筒・850ccまでのミドルウェイト、単気筒〜4気筒・851cc以上のヘビーウェイト、それらに該当しないエキシビション・パワースポーツの4クラスが設定された。改造車やレーシングマシンをはじめ、電気バイクやクアッド(ATV)、サイドカーはこのクラスに分類される。
今年、日本からはヘビーウェイトクラスに井上哲悟選手(Z900RS)、エキシビションパワースポーツクラスに新井泰緒選手(KZ1000MK2)、岸本ヨシヒロ選手(韋駄天X改HC=電動バイク)の3組がエントリーした。
また、二輪クラスではマン島TTで19回の優勝経験を持つ若手トップライダーのマイケル・ダンロップ選手(BMW S1000R)が参戦を表明。ドゥカティはPPIHCで4度の優勝を果たしているベテランライダー、カーリン・ダン選手を擁したうえで、V4エンジンを搭載するストリートファイターのプロトタイプを投入。市販前のテストとプロモーションを兼ねた参戦となり、BMWとドゥカティという両者の優勝争いに注目が集まった。
しかしながらレースウィークがはじまると、ダンロップ選手は渡米前に参戦した四輪ラリーでの横転事故で負傷、PPIHCを欠場することになった。また、ダン選手は4日間の練習走行でも好タイムを記録していたものの、決勝レースのフィニッシュ直前でハイサイドを起こしてコースアウト、救急搬送中に死亡する事態となった。
日本勢は練習と予選を順調にこなし、コース習熟とマシンセッティングを煮詰めていった。今年の二輪クラスはレースウィーク初日が予選となるボトムセクションで、新井選手は17番手、井上選手は6番手、岸本選手は11番手につけた。その後の練習走行でも3選手ともに好タイムを記録し続け、決勝レースを迎えた。
決勝レースは6月30日午前7時30分、二輪クラスからスタートした。天候は快晴に恵まれたものの、最初にスタートした選手が転倒して中断しただけでなくその後も転倒リタイヤが相次ぎ、レースは序盤から荒れた。
そんな中、KZ1000MK2を走らせる新井選手は慎重かつアグレッシブな走りで見事に完走。二輪クラスで決勝を走った27台のうち唯一の70年代マシンでクラス3位、二輪総合12位、四輪も含めた総合(オーバーオール)で27位というリザルトを残した。さらに自己ベスト更新となる11分18秒220を記録した。
今年でPPIHC参戦にひと区切りをつけるという新井選手は、「目標としていた10分台には届きませんでしたが、自己ベストは更新できました。やれることはすべてやったし、マシンのセッティングはよく仕上がっていた。完走できてよかったです」と語った。
新井選手が属したエキシビションパワースポーツクラスは、高地の低酸素や低気圧に左右されない電動バイクやレーシングチューンされたプロトタイプなどがおり、40年前の空冷エンジンマシンという不利な条件ながらもクラス3位のリザルトを残したことはPPIHCの歴史に名を刻むレースだったといえる。
同じく条件面では不利なZ900RSというネイキッドバイクでヘビーウェイトクラスで出場した井上選手は、度重なったレース中断のため気温が上昇したことで選択したタイヤが路面温度に合わず、すぐに滑り出すリヤタイヤを制御しながらの決勝レースとなった。それでも前年コースアウトの雪辱を晴らすべく慎重にマシンをコントロールして156のコーナーと1440mの標高差を上り詰めてフィニッシュ。タイムは10分36秒884で、全面舗装化以降の二輪クラスで日本人最速を記録。クラス3位、二輪総合6位、オーバーオール19位とすばらしい結果を出した。
「目標タイムには届きませんでしたが、チームスタッフとともに全力で挑んだ結果ですし、クラス3位になれたことは素直にうれしい」(井上選手)
マン島TTのゼロエミッションクラス「TT-ZERO」で3位入賞を果たした「韋駄天X改」を、パイクスピーク仕様に改良して挑んだTEAM MIRAIの岸本選手は決勝レースの序盤で転倒、左足首を骨折する怪我を負い、リタイヤとなった。
二輪クラス総合順位は、1位レニー・スケイスブルック選手(アプリリア・トゥオーノV4 1100)、2位ルーシー・グロックナー選手(BMW S1000R)、3位コディ・バズホルツ選手(ドゥカティ・ムルティストラーダ1260)という結果となり、1〜2位は四輪も含めたオーバーオールでも10位以内という好タイムを叩き出した。
PPIHCでは全面舗装化以降、二輪クラスでの死亡事故は今回で3件となった(四輪クラスではゼロ)。主催者はレギュレーション変更などで対応しているが、毎年凍結によってバンピーになる舗装路面の改修を徹底することも事故防止の一案だ。来年以降、どのように改善していくかにも注目していきたい。