掲載日:2016年04月21日 試乗インプレ・レビュー
レポート/鈴木 大五郎 写真/KTM Sportmotorcycle AG 記事提供/ロードライダー編集部
※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『New Model Impression』を再編集したものです
都心部のオフィスで仕事をする男。いかにも仕事が出来そうな彼(部長以上とみた)に友人から誘いのメールが…。ライディングスーツに着替え、そのままオフィスの地下ガレージからGTを駆り、国境を越えて仲間の元へ。待っていたのはスーパーデュークRに乗る友人。パニアケースを外し、ふたりでワインディングをランデブー走行する…というのが試乗会で観たGTのプロモーションムービー。快適性を持ちつつ、スポーツマインドは忘れない。そんなイメージを短い映像で表現していたが、乗ってみたGTはまさにそのままのキャラクターであった。
あのビースト=スーパーデュークRをベースとしたGTは、写真で見るよりもずいぶんスタイリッシュ。ややアグレッシブ過ぎると感じるライダーに向けてはパニアケースを常時装着するだけで、ジェントルに印象付けてしまうのも面白い。
そのエンジンパフォーマンスはRと変わらず、最高出力は173馬力(測定方法が変わり、Rモデルも発売当初の180から173馬力に変更された)。しかし、ヘッドまわりやエキゾースト、マッピングの変更で、GTはその出力特性をよりボトムから使えるようになっている。
そのほか、メインフレームやキャスター角、トレール量などもRと同じ、と兄弟モデルであることは間違いないのだが、ただ単にRにカウルを纏わせただけのツーリングバイクとはなってはいなかった。
今回の試乗が行われたのは、スペイン・マヨルカ島。試乗日は晴れから突然の雨。そしてまた晴れ間が差す…と、コンディションが目まぐるしく変わる。路面もドライからウェット、ハーフウェットとあらゆる状況で走行することが出来たのだが、そんなシチュエーション下でもリラックスしてライディングを心底楽しめたのは、このマシンの懐の深さからもたらされるものだ。まず、パワーデリバリーのスムーズさ。そして、3段階にライディングモードが切り替えられる恩恵も大きい。エンジンの出力特性だけでなく、トラクションコントロールの介入具合もRからは変更され、各状況に合った最適なモードを、走行中でも簡単なボタン操作で選択出来るメリットは大きい。
そして最後に、セミアクティブサスペンションの採用。これはRにはなかったもので、車体とサスペンションに装備されたセンサーで走行状況を常に把握。瞬時に最適な減衰力に調整するというものだ。設定は3段階あって、おおまかにコンフォート、ストリート、スポーツと選択したなかで、最適なダンピングを提供してくれる。
コンフォートとストリートでは、サスペンションの動き自体は非常に分かりやすく、弱減衰状態。ところが、ハードにブレーキングするとアンチダイブが効いて姿勢変化をあまり起こすことがない。これは、ツアラー的安定感を重視した走行では大きな安心感につながるが、キャスターを立たせて旋回性を上げたいような場面ではフロントが突っ張り、思ったようなコーナリングを妨げることにもなる。もちろんこれはハードにブレーキを掛けた時のことで、通常のブレーキングではしっかりストロークするのだが、Rの持っていたダイナミックな姿勢変化のイメージからすると少し違う。一方のスポーツモードでは、減衰力そのものが高まり、逆にアンチダイブは影を潜める。フロントのストロークを使って旋回性を上げるとR的走りが実現できるのだ。
ツアラー的走りからスーパースポーツ顔負けの走りまで対応する、GTのキャラクターは、最新の電子制御で一段上のレベルに達していた。もちろん、高速道路での快適性も見逃せない。調整式のウインドスクリーン。そしてボリュームある燃料タンクからつながるシュラウドが、下半身まわりの風をうまく遮ってくれる。グリップヒーターやクルーズコントロールなどの快適装備も嬉しいポイントで行動範囲が確実に広がる。
GTはビーストが嫉妬するほどの万能マシンに仕上がっていたのだ。
2014年デビューの1290 SUPER DUKE Rをベースとしたグランツーリズモマシン。デザインは、KTMグループ傘下のキスカ・デザインが担当した。快適性を高める様々な装備を備え、トラクションコントロールやABSは当然のこと、セミアクティブサスペンション、クルーズコントロール、クイックシフターなどなど、最新の電子制御も搭載。高次元の走りを実現した