ヤマハ MT-09トレーサーABS
ヤマハ MT-09トレーサーABS

ヤマハ MT-09トレーサーABS – MT-09をベースとしてユーティリティを拡張

掲載日:2015年04月16日 試乗インプレ・レビュー    

取材協力/ヤマハ発動機株式会社  取材・撮影・文/山下 剛

ヤマハ MT-09トレーサーABSの試乗インプレッション

ヤマハ MT-09トレーサーABSの画像

ファンライドを楽しみながら旅の醍醐味を味わえる
優れたトータルバランス

MT-09はミドルクラスのネイキッドとしてコンパクトな車格だが、MT-09トレーサーは大型化された燃料タンクとハンドガードを装備しているため、跨った際に受ける印象は大柄だ。とくにテーパードハンドルの幅が広いうえにハンドガード装着部が長いため、全幅がかなりある(そのぶんバックミラーのはみ出しは少なく抑えられている)ので、まるで大型オフロードマシンのように感じる。

しかし、サイドスタンドの停車状態から車体を引き起こす動作は意外と軽い。MT-09トレーサーのシート高は845mm(ローポジション)で決して低いわけではないが、身長が170cmあるライダーなら両足のつま先が接地し、片足だけならカカトまで接地する。シート座面は前方がくびれているため足を出しやすく、この車格としての足つき性と取り回しは良好だ。

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シート高をロー、ハンドル位置を標準に合わせると、グリップ、シート、ステップの位置関係はナチュラルでリラックスできる乗車姿勢だ。着座面のほぼ真下にステップが位置し、ヒザの曲がりにはゆとりがある。グリップは自然と手を伸ばした位置にあり、長時間のクルージングでも疲労は少ない。

シート高をハイに合わせると相対的にグリップ位置は低めとなるが、これはモタードマシンの乗車姿勢に近く、幅広のハンドルを生かしてダイナミックに車体をリーンさせ、走らせることができる(あるいはそういう気分になれる)ポジションとなる。握り位置をハンドガード装着部まで広げれば、タイトなワインディングでのファンライドがかなり楽しいし、直角ないしは鋭角に曲がることが多い街乗りでも有効で、トレーサーを振り回すようにして走られる。

今回の試乗ではハンドル位置を標準に固定したままだったが、ライザーの取付方向を前後逆にすることでグリップ位置を手前に10mm寄せ、やや低くすることができる。こちらは場面や用途により変更するというよりは、ライダーの体格に合わせてセットしたままという使い方が適しているかもしれない。

また、セパレートタイプのシートの着座位置は前後に幅があり、さまざまな体格のライダーが合わせやすいだけでなく、ライディングポジションを積極的に変えて走るスタイルにも適応する。

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エンジンは構成パーツをはじめ最高出力と最大トルクもMT-09と同一だが、燃調マップはMT-09トレーサー専用にチューニングされている。全体的にマイルドなった印象ではあるものの、決しておとなしいセッティングではない。低回転から高回転までよどみなくスムーズにトルクが絞り出され、アスファルトを蹴りつけて加速する楽しさはMT-09と同じだ。

「STD」「A」「B」の3種から出力特性を選べる「D-MODE」も搭載されている。STDとAは最高出力は同じだが、STDよりもAのほうが素早い加速特性となる。すなわちAモードではスロットルワークに繊細さが求められる。ツーリングでの巡航や混雑した街乗りといった、交通の流れに乗って走る場合はとくにギクシャクしやすい。反面、自分でペースを作れるシーンでは想像どおり、あるいは想定以上の加速曲線となるため、うかつにスロットルを開けると上半身が置いていかれそうになるほどの俊敏さがある。

対してBモードは最高出力が抑えられ、さらに加速曲線が緩やかになるため、郊外の幹線道路で流れに乗って走るときや雨天時、悪路といった場面で有効だ。110psものエンジンパワーはいらないというライダーにも適している。

STDはその中間の特性となっていて、モードの違いによる出力特性の違いははっきりと体感できる。好みや場面に応じて使い分ければ、トレーサーの万能性をより発揮できるだろう。

D-MODEは走行中でもスロットルをオフにすれば切り替え可能だが、イグニッションオフでリセットされ、オンにしたときはSTDにセットされる。安全性を考慮した設計とは思うが、イグニッションをオンにするたびに好みのモードに切り替えるのは不便だ。

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一方、MT-09トレーサーのハンドリングは直進安定性を重視した落ち着いた味つけとなっていて、コーナリングでもスパッと切れ込んでいく印象はない。前後17インチホイールとロングストロークサスペンションを持つバイクとしては、やや重めだ。ヤマハによれば、MT-09と同一形状のホイールだが加工方法を変えることで重量を増やしているそうで、初期の動きが柔らかい前後サスペンションのセッティングと合わせて実現したハンドリングだという。

荒れた路面での安定性については前19インチホイールに軍配が上がるものの、おおらかで扱いやすいハンドリングはそれに近く、巡航時の乗りやすさと長距離走行時の疲労軽減に大きく貢献している。また、TCSは濡れた路面や未舗装路で頼もしい。試しに砂利道でTCSを効かせてみたところ、挙動に唐突さはなくニュートラルにグリップを維持してくれた。ABSの介入はやや早めの印象で、キックバックはわかりやすい。これらにより、たとえ積極的にダートへ踏み込まずとも、砂利の駐車場などでも安心、かつ安全だ。

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レイヤー構造を採用したエクステリアは、デザイン性と機能性のバランスがいい。スタイルの格好よさと空力性能、どちらも損ねることなくまとめられていて、激しい向かい風を切り裂きながら走り、一息入れようとMT-09トレーサーを停めた後、ぼんやりとその姿に見惚れてしまう。

総じて、MT-09トレーサーはバランスに優れたスポーツツーリングバイクだ。ダイナミックに楽しむこともできるし、穏やかに旅に没することもできる。バイクを単なる旅の道具としてだけではなく、バイクらしいファンライドを味わいながらツーリズムに身も心も浸すことができる。趣味としてのバイクツーリングを存分に楽しめるトータルバランスは、「スポーツ・マルチ・ツール・バイク」というヤマハが掲げたコンセプトを実直に体現している。

利便性と趣味性、どちらも高次元で満たしてくれるバイクだ。

ヤマハ MT-09トレーサーABSの詳細写真は次ページにて

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