1977年にモトクロス用サスペンションを開発すると、その高性能ぶりはたちまちヨーロッパMX界を震撼させた。一流選手たちがこぞって採用し、好成績を収めると誰もがその名を知ることとなったのが「WP」だ。現在ではMXにとどまらず、SBK(世界スーパーバイク選手権)でもチャンピオンを獲得する高性能サスを作るまでに至っている。その実力はレースのみならず、BMWがOEM採用するほか、KTMが全車種に正式採用する実績を持っている。
そんなWPの良さを熟知し、数多くのバイクに取り付けた実績を持つプロショップ「ACヨシノ」代表・吉野富三郎さんに、WPの優れた性能と魅力について聞いてみた。
ACヨシノではゼファーを中心としたツインショックのバイクのチューンナップにWPを採用している。きっかけは些細なことだったというが、実際に装着してテストしてみると、その性能に驚かされたという。
「WPを使いはじめたのは10年ほど前からです。ゼファーのカスタムを依頼してきたお客様から『すべてのパーツを一級品で組んでもらいたい』という注文を受けまして、そのときに装着したのが初めですね」
当時、サードパーティ製サスペンションというと、一も二もなくオーリンズという時代だった。しかも新製品が販売されたばかりで話題となっていたが、吉野さんが目をつけたのはWPだった。
「レースを通じて付き合いのあるTSR(注:鈴鹿8耐優勝経験もあるホンダ系プライベーター。世界選手権や全日本選手権で活躍中)がWPを使っていたこともあって興味があったんです。そこで目をつけたのがWPでした。その頃のリプレイスサスペンションの風潮は硬いほうがいいというもので、サーキットならともかくストリートで一般的なライダーが走らせるには扱いにくいものでした。でも、WPは特別なチューニングをしなくても、セッティングだけでストリートでも十分使いこなせる性能を持っていましたね」
もちろんどんなサスペンションであっても、シムをはじめとする内部構造のチューニングでいかような特性にも合わせられる。しかしそれにはプロフェッショナルの手間がかかるし、当然工賃も発生する。しかしWPは本体をバラすことなくダイヤルを合わせるだけで、サーキットからストリートまで十分な性能を発揮することができるのだという。
「たとえばサスペンションの性能を10とすると、WPなら一般的なライダーでも8?9くらいまでその性能を引き出せるんです。WPをバラしてみるとわかるのですが、ペースを落とした走行でも、ダンパーやロッドのストロークをしっかりと使ってるんです。他メーカーのものだとそうはなりません。なぜかというと、WPのサスペンションはフリクションロスが少なく、サスペンションの動きが速いからです。だからストップ&ゴーが多いストリートでもその性能を発揮できるし、サーキットのようなハイスピードかつ高荷重にも対応できるんですね」
その高性能を支えているのは、モトクロスで培われたノウハウとテクノロジーだ。吉野さんによれば、サスペンション内部のオイルの泡立ちが少なく、ダンパーガスの劣化も少ないのだという。
「削り出しアルミによるサスペンションボディの、剛性と工作精度の高さも大きいと思います」
カスタムチューニングの手腕をモリワキ代表である森脇護さんに買われ、ゼファーでプロダクションレースに参戦。パーツ開発の第一線で活躍してきた吉野さんだけに、サスペンションの役割とその重要性は骨身に叩き込まれている。ワークス仕様のサスペンションの構造や性能も知っている吉野さんにして、「WPは精度が高い」という。
CNCマシニングによるアルミ切削の精度をはじめ、性能を重視したスクリュータイプのオイルシール・ブッシュアダプターを採用するなど、上質で高性能を求めるクラフトマンたちの妥協なき設計思想が随所に散りばめられている。落ち着きのある色合いにアルマイト加工されたアルミボディは自己主張しすぎず、どんなバイクにもさりげなくフィットする。性能だけでなく、外観デザインのセンスもいい。
「2本サスでコンプレッションアジャスターが高速・低速のデュアルタイプになっていることもWPの特徴ですね」
それぞれ16段階に調節可能なコンプレッション・コントロール(圧側調整)は、完全独立設計となっており、機能と役割を分離している。そのためセッティングの幅が広く、ストリートはもちろんサーキットでのハードな走行にも対応できる。
「日本のストリートでの楽しさと高性能のバランスを図るためのチューニングを施した『ACヨシノSP』を扱っています。これはゼファー1100専用ですが、その他のモデル、CB、XJRはもちろん、WやSRといったバイクにもWPは最適です。高性能サスペンションを必要とするのは、0.01秒でもバイクを速く走らせたいと思っているライダーだけではありません。ライダーが思ったようにバイクを走らせられることこそ、サスペンションの大きな役割ですから」
カスタムパーツというと、購入して装着しただけで満足してしまう部分があることは否めない。しかし吉野さんは「付けてからが本番」と話す。リプレイスサスペンションの魅力は高性能だが、高い耐久性とフルオーバーホールによって長い間使えることも挙げられる。もちろんWPも例外ではなく、装着後のチューニングからメンテナンスまですべてに対応する。そうしたアフターサービスの充実も、WPの高性能のひとつといえるだろう。
住所/千葉県柏市今谷上町65
TEL/04-7174-0336
営業時間/10:00?18:00
定休日/水曜
代表の吉野富三郎さんはホンダ学園を卒業後、ホンダ二輪東京東(現・HMJ)入社。エンジンをはじめとするチューニングを得意とし、カムギア化したCB400SFの速さと完成度の高さをモリワキに認められる。シャシーチューニングも完成度の高さにも定評がある。ゼファーチューニングを得意とするが、モデルを問わずカスタム・チューニングを受け付けている。
株式会社エムシー・インターナショナル(WPサスペンション正規輸入販売元)
創始者のヴィム・ピータースはMXライダーで、練習中のジャンプ着地でクラッシュ、大怪我を負った。その原因は純正サスの性能限界にあったことから、独自でサスペンションを研究し、改良を重ねた。ピータースが作るサスは次第に話題となり、1977年にチューニングショップからメーカーへとして創業。現在ではSBKチャンピオンを獲得するなど、世界にその実力を知らしめるメーカーだ。(WPサスペンション正規輸入元ブログはコチラ)