じつは数年前まで、250cc (ニーゴー)クラスにはほとんど興味が無かった。いやいや、僕だって中免を取った 20 数年前には興味津々で、雑誌だのカタログだの、穴の開くほど眺めてはワクワクしていたものだ。ただ、大型免許を取ってからというもの、その興味は急速に薄れていった。ラインナップがドンドン少なくなっていったということもあるし、「やっぱりでかいほうが面白い!」という理由もあった。
しかしそれをもう一度見直すことになったきっかけが、自身でライディングスクールを始めたことだった。高性能化するモーターシーンのなかで、“ライダーがバイクに乗せられてしまっている” という状況を数多くみてきた。そんなときに、どんなマシンをお薦めするか?「乗りたいバイクに乗れば良い!」のは正解だけれど、テクニックが備わっていないのでは面白さも半減するし、なにより危険だ。やはりパワーは使いきれるくらいがいい。でも、少な過ぎると、ステップアップしたときにリンクするものが少ない…。ということで “250(ニーゴー)” なのだ。
初心者が臆することなく接することができることは大前提。でも、そこから先に進むには、操る楽しさや適度なスポーツ性が不可欠だ。しかしそこでビギナーに薦められるマシンが、あまり存在しなかった時代が長かった。ところが今では、各メーカーが基本性能をしっかり備えたリーズナブルな価格帯のモデルをリリースし始めた。別に20数年前のあの状況を望んでいるわけではない。あの頃に比べれば、今は大型免許が簡単に取れるようになっているし、大排気量モデルのラインナップは20数年前に比べて圧倒的に魅力的なのだから、そこは “ステップアップのひとつ” と考えてほしい。
250クラスのパワーは確かに少ない。でも、僕が免許を取ったときに初めて乗った中型バイクは、先輩の VT250 だった。NSR でも FZR でもないが、当時の鈴木少年はその加速にすらビビッた。たかだか40馬力で、異次元の世界に連れて行ってくれたのだ。
200馬力近いモンスターマシンに誰もが日常的に乗ることが出来る現在、250クラスのバイクを「遅い!」の一言で片付けがちではあるが、そんなことはない。乗り易いだけでなく、スリルはいっぱしに持っている。バイクデビューが遅かったライダーも焦る必要は全くないし、見栄で乗るものでもない。この250ロードスポーツモデルから始めるバイクライフは、結果的に長く、豊かに出来る可能性は高いと思う。今注目すべきニーゴーロードスポーツをご紹介しよう。
鈴木 大五郎
Daigoro SUZUKI
全日本選手権、鈴鹿8耐などのレースにも参戦する国際A級ライダー。歴代の愛車は大型バイクがメインだが、「ライディング技術向上には250ccがベスト!」と、250ccクラスのレンタルバイクを使った『BKライディングスクール』を主宰。
チャレンジスピリットだとかオリジナリティ、それがホンダという会社そのもの。しかしそれが感じられにくくなって久しい。CBRと言えば同社のフラッグシップだ。250cc とは言え、海外で生産されるなどと聞くと、ちょっと寂しかったりもする。しかし「ちょっと待て」だ。徹底したコスト削減。グローバル化など、この CBR250R はホンダらしさの違った側面を見せてくれる。
安いのに結構走る。というのが第一印象。軽く、コンパクトで気負う感じは皆無。ライディングポジションも、スポーティーなスタイルから想像するよりもずっとアップライトでオーソドックスなもの。クラッチもアクセルも、非常に軽くて自然だ。なんだかとっても優しい。低中速域では “トコトコ” とフラットなトルク感。急かされることもなく、のんびり走るのにも対応するのが嬉しい。そしてアクセルを開けていけば意外な軽快さで回転上昇していく。かつてのシングルエンジンにはグングン加速するスポーティーなものも数多くあったけれど、最近のものは心地良い鼓動感だとかトルク感ばかりをうたっているようで、正直高回転まで回す気にならないエンジンが多かった。しかし、こちらはしっかり上まで回っていくから、純粋にスポーツできる。バイクの醍醐味を味わえるのだ。
車体はどうだろう。サスペンションの調整機構はリアのプリロードのみ、動きにも安っぽい印象は否めない。でもそれはマイナスポイントか? と言えばさにあらず。基本設計はしっかりしているし、マシンの状況が非常に把握しやすい。ブレーキングからリーン、そして立ち上がり。軽さやコンパクトさもあるが、マシンが手の内にあるようなコントロール感。一般道で威力を発揮するコンバインド ABS 仕様もラインナップされて、これはビギナーの多いこのクラスだからこそ有難味を感じる装備だ。ホンダの良心を感じる。安価でレースベース車もリリースされていて各地でワンメイクレースを開催するなど、モータースポーツの活性化にも一役買うCBR250R。“最初の1台” として間違いのない選択だ。
レーシーなスタイリングながらツーリング寄りのライディングポジション。走りの性能もひと昔前のユルキャラ的のんびりさで、全然尖っていない。いわゆる普通のマシン。それって褒め言葉? 実はそうなんです。
レーシングイメージのまま走りもレーシーだったら、それは乗る人を選ぶということ。そんなマシンも魅力的だけど、多くの人から支持されるとは言えない。このマシンのデビュー当時。僕は刺激をうけて「ライバルメーカーがドンドンこのクラスに参入してくれたらうれしい」と、何かの記事に書いた。そして現在、このクラスには各メーカーがニューモデルを投入し、ちょっと賑やかになってきた。そんな状況にしてくれたニンジャには大感謝だ。デビュー当時でも古臭く感じた走りは、ライバルの出現でさらに古さを感じさせるようになっている。では、このマシンのお役はご免となってしまうのだろうか? いやいや心配はご無用。そのアナログさが実に楽しい。低速トルクはさほどないものの、高回転での元気の良さは一番! とは言っても驚くようなパワーではない。だから楽しみながら、ガンガン回すことが出来る。
倒しこみでやや遅れて旋回力が立ち上がってくる感触も、マシンの動きに感覚を合わせ易い。勝手にバイクが曲がっていってしまうのではなく、ライダーがその操作を積極的に作り出す。バイクではなく “ライダー主体の走り”。ちょっと古めのバイクとか、より大型のマシン的な操作方法に似ている。
カッコ良さも色あせず、人気に陰りも出ていない。ライバル車の出現で割安感が無くなってしまったのが残念だが、2013年のモデルチェンジによって、また話題をさらいそうな雰囲気である。個人的には、スタイリングは現代風でも、走りは先鋭化され過ぎない適度なダルさを持つ、現行モデルの走りを引き継いでもらいたいと願っている。
スズキは研究熱心なメーカーである。よって、マシンをリリースするのは最後発となる場合が多い(後出しじゃんけんとか言わないで~)。事実それは乗ってみれば、さすがにライバルメーカーを研究しているだけに良いマシンが多い。名車と呼びたくなるマシンも数多い。ただ、これが裏名車になることも…。その要因がスタイルのように思われる。この GSR250 も、そこがちょっと心配された。しかし実車は写真よりもカッコ良かったから一安心(?)といったところ。
ライバルモデルがフルカウル装備でスポーティーなイメージなのに対し、オーソドックスなネイキッドスタイルのマシンは、より気兼ねなく乗ることができる。座る場所を固定されてしまいがちな、スモールバイクらしからぬ大柄な車体は自由度が高く、ゆったりしたイメージ。これはアジア諸国の定番乗車スタイルだ。3人、4人乗りは当たり前の? 乗車状況をも考慮したものなのだろうか? もしかすると走行性能は…。などと疑ってみたものの、そんな心配は全く無用だった。
コーナーリング性能はいたって素直。とくにフロント周りが良い仕事をしていて、安心感を得られる。ライダーがもっとも神経を使う、使ってもなかなか感じ取れないフロント周りの仕事具合を、豊かにライダーへフィードバックしてくれる。だからコーナーの倒し込みに自信が持てる。別に攻めの走りではなくても、ちょっと交差点を曲がる程度の、何気ない操作にも安心感が付きまとうのだ。
また、やや重いながらもしっかり感のある車体が頼もしく、小さいマシンにありがちな神経質さはまったく無い。重さが良い方向に働き、動きのリズムも緩やかになっているのかもしれない。結果、疲労度も低減。青春のツーリングに旅立つ相棒候補に推薦したくなる。エンジン特性ものんびり走れる低速トルクが充実していて、しかも滑らかに回せる高回転域も使えるから楽しい。ネイキッドスタイルが、より走りのステージを広げてくれそうだ。
HONDA CBR250R | KAWASAKI NINJA250R | SUZUKI GSR250 | |
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価格(消費税込み) | 49万9,800円 | 53万3,000円 | 43万8,900円 |
型式 | JBK-MC41 | JBK-EX250K | JBK-J55D |
全長×全幅×全高 | 2,035×720×1,125mm | 2,085×715×1,110mm | 2,145×760×1,075mm |
ホイールベース | 1,370mm | 1,400mm | 1,430mm |
シート高 | 780mm | 775mm | 780mm |
最低地上高 | 145mm | 130mm | 165mm |
トレール | 98mm | 82mm | 105mm |
キャスター角 | 25°30′ | 26° | 26° |
総重量 | 165kg | 168kg | 183 |
サスペンション形式(前) | テレスコピック | テレスコピック | テレスコピック |
サスペンション形式(後) | スイングアーム | スイングアーム | スイングアーム |
ブレーキ形式(前) | ディスク | ディスク | ディスク |
ブレーキ形式(後) | ディスク | ディスク | ディスク |
タイヤサイズ(前) | 110/70-17 M/C 54S | 110/70-17 M/C 54S | 110/80-17 M/C 57H |
タイヤサイズ(後) | 140/70-17 M/C 66S | 130/70-17 M/C 62S | 140/70-17 M/C 66H |
エンジン型式 | MC41E | EX250KE | J509 |
エンジン種類 | 水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒 | 水冷4ストロークDOHC4バルブ並列2気筒 | 水冷4ストロークSOHC2バルブ並列2気筒 |
総排気量 | 249cc | 248cc | 248cc |
圧縮比 | 10.7 : 1 | 11.6 : 1 | 11.5 : 1 |
ボア×ストローク | 76×55mm | 62×41.2mm | 53.5×55.2mm |
最高出力 | 20(27PS)/8,500kW/rpm | 23(31PS)/11,000kW/rpm | 18(24PS)/8,500kW/rpm |
最大トルク | 23(2.3kgf・m)/7,000N・m/rpm | 21(2.1kgf・m)/8,500N・m/rpm | 22(2.2kgf・m)/6,500N・m/rpm |
クラッチ形式 | 湿式多板 | 湿式多板 | 湿式多板 |
変速機形式 | 6段リターン | 6段リターン | 6段リターン |
潤滑方式 | 圧送飛沫併用 | 圧送ウエットサンプ | ウエットサンプ |
燃料供給方式 | インジェクション | インジェクション | インジェクション |
燃料消費率 | 49.2km/L (60Km/h) | 40km/L (60Km/h) | 40km/L (60Km/h) |
始動方式 | セル | セル | セル |
点火方式 | トランジスタ | トランジスタ | フルトランジスタ |
燃料タンク容量 | 13L | 17L | 13L |
250クラスが熱い! とは言いつつ、僕個人としては「このクラスが最高!」と言うつもりはない。250cc ならではの面白さというのは間違いなくあるものの、ステップアップしていくなかで物足りなくなるのは自然な現象だ。多くのメーカーが大型のマシンに力を入れているのは疑いの余地が無い。
コスト的制約が多いクラスだけに、メーカーも妥協せざるを得ない面もある。しかし、だからといって 250 クラスのマシンがおろそかにされていいはずがない。バイクの楽しさをここで感じてもらえなければ、ステップアップしようなんて意識さえ生まれない。そんななかで、各社ともに頑張ってニューモデルをリリースしているから、自然と粒が揃ってきているように感じられる。
個人的に評価したいのが、適度なスポーツ性をこれらのモデルが持っている、ということだ。乗るだけで楽しかったものが、徐々に攻めたくなってくるのがライダーたるもの。その過程でバイクによる裏切りとか、怖さの発生原因が無い設計の確かさを感じる。安全に、少しずつレベル&ペースアップしていくことが出来るのだ。また、どれもパワーはさほど無いものの、頭打ちが早いとか、回りたがらないといったガッカリさも無く、スポーティーにしっかり回せる。この “回す” という行為を知るかどうかで、バイクの楽しさもコントロール方法も大きく変わってくると思う。どれを選んでも、その点は裏切られることはない。あとはエンジン型式やスタイル、値段など、総合的に見て自分が欲しいバイクは何なのか? と、悩む時間もまた楽しいものだ。