【Page2】エンジンチューニング

掲載日:2010年05月14日 特集記事2010カスタム最前線    

記事提供/2010年1月24日発行 月刊ロードライダー 3月号
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Photo/富樫秀明 Text/中村友彦

今年やりたい最新カスタム

エンジンチューニング

 

内燃機関の可能性を追う
最新加工技法とその効果

既にチューンの手法が出尽くした、と言われることもあるカワサキ・ニンジャ系エンジン。だが15年以上に渡ってその魅力を追求してきたTGNの中川さんは、さらにその先を追い、ユーザーレベルで使えるようにしていた。その内容と効果とは?

   

鋳肌そのままのざらっとしたSTD(①、使用済みのためカーボンが付着)とNCによる機械加工が行われたマシニングヘッド(②および上大写真)の違いは歴然だ。マシ二ングヘッドの燃焼室形状のベースとなったのは、中川さんの手作業による加工燃焼室だ。写真はGPZ900R用だが、今後はZZR1100やZRXシリーズ、ゼファーシリーズなどにも対応機種を拡大していく予定。価格は4気筒車で6万8000円~

 

年々厳しくなる排出ガス規制の影響や、新型車へのニーズの少なさ(必要性を感じるユーザーが少ないということのようだ)もあり、近頃のカスタム業界では、エンジンチューンに対する需要が以前より低くなっているようだ。だが'84年初出のGPz900Rから最新のZRX1200DAEGまで、いわゆるニンジャ系を得意とするトレーディングガレージナカガワ=TGNにはこれは当てはまらないようで、常に数基以上のエンジンがチューニングを受けているし、そんな状況に呼応するように、代表の中川さんは常に新しい手法を考案・公開している。

 

「チューニングは時代とともに進化していますから“ある程度いじったら終わり”じゃなくて、数年前は難しかったけど今ならできる、ということがたくさんあるんです。僕は以前からそういう“今だからできること”を随時取り入れてきたつもりですし、その中で技術的な確証が得られた手法は“今度はこういう方向性でいじってみましょうか”という形でお客さんに提案していきたい。そうすることでお客さんは1台のバイクを、長く、飽きずに楽しめると思うんです」(中川さん、以下同じ)

 

そんな中川さんが今最先端として推すのは、'09年7月号で第一報をお伝えした“マシニングヘッド”だ。

 

従来は手作業で行っていた燃焼室加工をNCマシニングで行うこの技術に、どんなメリットがあるのか。

 

■マシニングヘッド
「シリンダーヘッドに手を加えるそもそもの理由は、燃焼室形状を理想形にすること、気筒ごとのばらつきを抑えること(ニンジャ系に限らないが、鋳造で製作される量産車の燃焼室には、公差内だがバラツキがある) の2点です。そのための手法として、従来はリューターで削り、ビューレットで容積を量る等、手作業でやっていたわけですが、かなりの時間も要りますし、厳密には気筒ごとのばらつきを0にすることはできない。燃焼室容量のばらつきが0になったとしても、手作業でやっている以上、加工形状は微妙に異なるんですね。ところがNCを使って機械加工を行うと、僕の理想を、すべての気筒でまったく同じ形に掘り込んでくれるわけです。4気筒のほぼ完全な均一化が図れるんです」

 

とは言え、燃焼室に機械加工を行えば、アルミが掘り込まれた分は燃焼室容積が増え、エンジンパワーの要となる圧縮比は下がってしまう。そういったマイナス要素を中川さんはどう考えているのだろうか。

 

「確かに、圧縮比はわずかですが下がります。でもその分は面研で十分取り戻せるし、エンジンをトータルで見れば、ごく微量、圧縮比が下がることより4気筒の均一化が図れるほうが、メリットは大きいと僕は思うんです。言わば燃焼室の均一化は、ウチが今までやってきたピストンやコンロッド等の重量合わせの延長線上にあって、パワーアップはもちろん、燃費や耐久性の向上、さらには振動の低下や熟引けの良さにもつながる。考えてみるとF1やモトGPのエンジンって、燃焼室はみんな総削りですからね。もちろん、ファクトリーのようにシリンダーヘッドもオールビレットでとはいきませんし、市販品は気筒や個体によって鋳造時の中子の位置ブレ等もあって、その補正も必要になりますけど、オールビレットに近いことが僕らのレベルでできるのは、今だから、ですね」

 

気筒間バランスは詰めればすべてが良くなっていく

①面取り・重量合わせ(ピンボス周辺にその痕跡が窺える)後にWPC加工が施されたGPZ-R用コスワースφ78mmピストン。GPZ-R用にはワイセコピストンを使うことも多いTGNだが、最近ではZRX1200用φ79mm鋳造品を加工流用するケースもあるそうだ

②今回はシリンダーヘッドの中でも燃焼室の話題が主となったが、TGNには吸排気ポート加工などにも独自の理論があり、それらを組み合わせることで大幅な馬力向上や耐久性向上を実現

③④コンロッドは精密重量合わせを行った後に、鏡面加工やWPC(③は双方を施し、④は鏡面までには至らないが近い効果を得るヘアライン仕上げを施し応力分散等の処理を行う。馬力を徹底追求したエンジンの場合は、ロッド部表面の均質化は必須

⑤燃料噴射/点火マップを変更できるDAEG用HIRは、ライト/ヘビーチューン用の2段構えになる予定(ともにスピードリミッター機能を内蔵)。後者にはフルコンに近い制御幅が備わる

 

 

■相性も考えたい各種表面処理
「表面処理はこれまでにいろいろなやり方を試していますけど、現時点でお客さんに自信を持ってオススメできるのは、表面強度が上がって摺動抵抗が減らせるWPC(目的によって選んだ素材の微粒子を対象物に高速衝突させて、靭性に富む緻密な組織を作る。表面が強化され、摩擦摩耗特性が向上する加工)ですね。ピストン、コンロッド、クランクジャーナル、ミッション、シフトドラムといった大物パーツへの効果は以前から実証できていたんですが、最近はバルブにも有効だと分かってきました。特にインテーク側は、ディンプル効果で混合気の流れがよくなる上に、ステムのフリクションロスが低減され、ガイドに対しての耐摩耗性が向上する。たとえば0/H時にチューニングパーツを使わなくても、WPCをかけた上で組むとフィーリングが激変するくらいですね。

 

また、最近はめっきシリンダーの表面加工にもトライしてます。一般にめっきシリンダーは鋳鉄ライナーと違って、手の入れようがないって思われていますが、めっき表面部に手を加えるだけでも吹け上がりのフィーリングがガラッと変わってくる。これはもっとテストを重ねてから、ウチのメニューに加える予定です」

 

■インテークプロテクター
TGNが吸入口からの異物混入を防ぐインテークプロテクターを発売したのは'09年で、第1弾のFCR用は既に100セット以上を販売し、今回TMR用が新作された。だがこのパーツ、パワーダウンにつながる可能性もあるが、その辺はどうか。

 

「そうなんですよ(笑)。ネット付きファンネルは、ほとんどの場合、パワーが5%近くは下がりますし、場合によっては負圧でネットが前後に動くことで吸気脈動が乱れることもあるので、僕としては積極的に勧めては来ませんでした。でも異物侵入の対策をしたいというお客さんももちろんいらっしゃるので、考えに考えた末に、このインテークプロテクターを市販化しました。プロテクター設置位置がファンネルの外ではなく中(スロットルバルブの直前)で、素材が網ではなくレーザーカットで切り出したステンレス製なのがポイントです。特に重要なのは位置で、“吸えば大丈夫”とでも言うんでしょうか、この位置だとほとんど抵抗にならないんです。損失馬力は、ファンネル仕様で140ps前後の車両で、2%以内。このくらいなら、マイナス要素より異物侵入防止のプラス要素の方が大でしょう」

 

■現行直系、ZRXの可能性??
「ZRX系についてはこれまでにいろいろな仕様を手がけていますが、最近になって1100用ハイカムの入手が難しくなってきたので、1200用カムを1100ヘッドに搭載できるコンバートキットを開発しました。このあたりはウチの義務みたいなもの(笑)で、やっぱりニンジャ系チューンの可能性を狭めるわけにはいかないんです。純正のZZR1200用(ZRX1100/1200用よりリフト量が高く、作用角も異なる)の使用はもちろん、ヨシムラさんを筆頭とするアフター製にも対応できる体制を整えました」

 

ニンジャ系エンジンを搭載する最新機種のDAEGについては、'09年からウィズミーと共同でレース参戦を始め、エンジン内部のチューニングメニューは決定している(ST-1と2がある)。ただし、燃料噴射/点火マップの設定は現段階ではまだテスト中で、HIR(ハイパーイグニッションリーダー。GPZ-RからZRX1200Rまでの点火マップ変更ユニットとして定着しつつある。FIのDAEG用をこのように現在開発中)キットの完成までには、もう少し時間がかかるようだ。

 

「DAEGをいじり始めた頃は、本格的にカスタムするんだったらキャブ仕様のほうがいいんじゃないかと思ったんです。と言うのも、STDの燃料噴射/点火マップがすごくよくできていて、これをいったん崩して再構築するのは、けっこう難しい。絶対パワーは出せても、日常的に使う3000~7000rpmの領域でノーマルを超えられない。どのセンサーの情報をどう活かすか、マップのマス目をどう取るかでずっと悩んでいるうちに“キャブ仕様でウチのHIRを使えば、こんなに悩まなくていいのに”と思ったんですけど、ここで確かなノウハウを掴んでおけば、これから来てくださる、増えるであろうDAEGのお客さんにも、エンジンチューニングを楽しんでもらえるわけですからね。ようやく答えも見えてきたので、近いうちにHIRとして発売できると思います」

 

すべてはパワーを出し、かつ扱いやすく耐久力も増すべく

   
 

①ZRX1200用カムを1100用シリンダーヘッドに搭載するためのコンバートキットには、アルミ削り出しのカムホルダーも含まれる。価格はヨシムラ製カムを選んだ場合で13万9500円

②クランクシャフトにかけるWPCは、ピン/ジャーナルのエッジ部を重要視。この部分の強度を増すことで大馬力を長く楽しむことができるのだ。価格はクランク単体持ち込みで5万円前後。クランクについては、軽量加工やダイナミックバランスといったメニュー(作業工賃はいずれも3万1500円)も用意する

③取り付け部の形状が異なる2種のキャブレター用インテークプロテクターは、左がTMR用:1枚3990円で、右がFCR用:1枚3675円。開発時には装着位置やメッシュの大きさについて、多くの仕様を検討した。ステンレス材をレーザーカットで切り出していて丈夫なので、吸気脈動の影響を受けないし、経年劣化で網目がほつれるトラブルもない

●各気筒の完全均一化が図れるマシニングヘッド

●ノーマルパーツでも体感できるWPCの効果

●点火ユニットHIRでエンジンの潜在能力を引き出す

今回はGPZ-R~DAEG系エンジンを主に紹介したが、中川さんによればどのエンジンにも活用できるメニューとのこと。GPZ-R~DAEG系なら、これに合わせてHIRを装着して潜在能力をフルに引き出したいところだ(GPz750/900R、ZRX1100/1200S&R、ZZR1100C/D用HIRは販売中でDAEG用のみ近日登場)。FCR用とTMR用が準備されるインテークプロテクターは、今FCR/TMRを装着している車両にすぐ使える要注目パーツ

 

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