ニッポンのロードスポーツ

掲載日:2008年12月15日 特集記事    

愛しきロードスポーツ ニッポンのロードスポーツ
クラブマン編集スタッフが綴る こころを感じるバイク

いつでもどこへでも、エスアールとダブルで

ピストンがひとつのみ。このシンプルな構成が生み出す達観した乗り味は、バイクの面白さや楽しさがパワーやハイテクだけに根ざすものではないということを教えてくれる。DOHCという複雑な仕掛けも、インジェクションというデンキ仕掛けも持たないSRは、とてもシンプルな作りなのに、乗っていていつまでも飽きることがない。タンタンタンと歯切れのいいリズムを刻むOHCエンジンを懐に抱えて走り始めると、これでいいんだよなぁ、と妙に納得させられてしまう。

 

対してW650はもう少し複雑である。ピストンが2つになることでスムーズさが生まれ、バーチカルらしい唸り声は懐かしさを伴うが、その乗り味は万能性を持つ現代的なものだ。見た目はノスタルジックだが、乗れば“いまのバイク”というのがダブルである。そのスムーズな走りが生み出す対応幅の広さは、より多くの乗り手の要望に応えてくれるから、ダブル像というものも様々にある。ノスタルジックな造形やカラーリングは、使う人、走る場所を選ばず、こちらも熟年ライダーのみならず20~30代に「カワイイ」とウケがいい。そこに排気量的な余裕、ツインらしいスムーズさ、そこから生まれる乗りやすさと、とてもフレンドリーだから、女性に人気が出るというのも頷けてしまう。

 

ともに性能的には飛び抜けたものを持つワケでもなく、メーカーラインナップ上ではノスタルジックなイメージを持つオーソドックスなツーリングバイクという扱いだが、どちらも乗って感じるのは「もうこれで十分」ということ。とくにSRは400ccで27psと、数字だけ見れば非力なのだが、乗ればパワー不足を感じたり、ハイメカニズムの恩恵を探したりすることもなく、妙に納得させられてしまう。キックオンリーのスタート方式、爆発の鼓動、身震いしながら前に進む様子、エンジンの回転に対し心地よく上乗せされていくトルクなど、それらすべてをひっくるめて「なるほど」と思ってしまう。これが、30年間生産され続けてきたバイクが持つ説得力なのだろう。

 

ロングセラーモデルというのは、ともするとラクして儲けているように思われがちだが、デビューイヤーが旧いエンジンは、時代毎の規制に合わせてその都度改良を加える必要があるし、周囲の物価は上昇するのにデビュー時の価格と比較されるため、大幅に値上げすることも難しい。加えてニューモデルのように爆発的な売れ行きもなかなか期待できない。そんな状況の中で出し続けることは、利益第一主義では無理である。その辺り、SRは作り続ける姿勢そのものにメーカーの想いが溢れている。

 

ダブルもまた、そこを目指したバイクであって欲しいと思う。プッシュロッドに見立てたベベルギアを介し、カムシャフトを駆動する巧みな造形を持つエンジンは素直に美しいと思うし、ベベルギアを使う独自性とこだわりには技術者の意地が見え隠れする。ひとつのモデルを永きに渡って熟成し、ユーザーが遊べる土壌を作るのはカワサキが得意とする展開だから、W650もこの先の規制に対応した仕様を出すことで、いつまでも傍らにいて欲しいと思う。

 

残念ながら現状では、SR、W650ともに生産終了となってしまっている。でも近い将来、きっとやってくれるハズ…。こんなときばかり都合がいいとは思うけど、ここはやはりメーカーの良心に期待をしたい。

SR400 & W650
クラブマン編集スタッフが感じた、定番バイクとは…
「いつだって深いところに響いてくる」YAMAHA SR400 + クラブマン編集部/小平

なんということもないスタイリングに、空冷単気筒2バルブエンジンの組み合わせ。88年式を個人的に所有していることもあって刺激は少ないが、思ったより軽快なハンドリング、そして柔らかな単気筒エンジンのフィーリングには、乗るたびに新たな気持ちにさせられる。そしていつだって、このバイクのフィーリングは僕自身の深いところに響いてくる。

 

数値的には見るべきところは全く無いが、初めて乗ったときから今に至るまで、股の下で震えるエンジンの鼓動は、僕自身の何かと強く響きあっている。それがどういうことなのか、所有して8年たった今でも分からない。しかし、あえて知りたいとも思わない。簡単に分かるなら、わざわざSRというバイクに乗る必要も無いと思うからだ。人に聞かれれば、たぶん一生乗るでしょうなどと臆面もなく言ってしまったりするが、SRは、僕にとっていまだに魅力的な乗り物だ。SRのフィーリングが全ての人に訴えるとは限らないが、いい大人が一生乗ると平気で口にできるようなバイクは、そうないと思う。

YAMAHA SR400 SPECIFICATIONS

■エンジン形式 = 空冷4ストローク短気筒SOHC2バルブ
■総排気量 = 399cc
■最高出力 = 20kW(27PS)/7000rpm
■サイズ = 全長2085×全幅750×全高1105mm
■車両重量 = 168kg(走行可能状態)
■シート高 = 790mm
■タンク容量 = 12L

■タイヤ = フロント90/100-18
■タイヤ = リア110/90-18(前後チューブタイプ)
■生産期間 = 1978~2008年
■価格(最終型新車時・消費税込み) = 48万6150円
■カラー = ブルーメタリックC、ベリーダークレッドメタリック2、ヤマハブラック

「スポーツも含めたオールラウンダー」Kawasaki W650 + クラブマン編集長/高城

W650はよく走る。しかも扱いやすいから、1台あるとかなり重宝するバイクである。メッキを多用していたり、キャブトンタイプのサイレンサーやタンクパッドなどをつけているからオッサン臭く見えるかもしれないけれど、乗ると低回転からドルルル…と低音を伴い結構いい加速を見せ、それがかなり上まで伸びていくからストレスを感じることはない。エンジンのピックアップは俊敏とはいえないけれど、速度のノリは悪くなく、ひとつのギアで上まで引っ張りながら加速していくと、ロングストロークエンジンらしい息の長い加速を楽しめる。これならスポーツモデルでならしていた人も不足に感じないのではないだろうか。

 

「へぇ、ダブルってこんなに走るんだ」という第一声を聞く例が多いというのも頷ける話だ。

 

車重が乾燥で195kgというのも、気楽な一面だ。スリムな車体と大径のバイアスタイヤを使うことで、操作性にも鈍重さはない。ハンドル幅も余裕があり、なんとかなるだろうという安心感がある。安心感が現代的というのは、やはり嬉しいものだ。

Kawasaki W650 SPECIFICATIONS

■エンジン形式 = 空冷4ストローク並列2気筒SOHC4バルブ
■総排気量 = 675cc
■最高出力 = 35kW(48PS)/6500rpm
■サイズ = 全長2180×全幅905×全高1140mm(ローハンドル仕様)
■車両重量 = 195kg(乾燥重量)
■シート高 = 800mm
■タンク容量 = 14L

■タイヤ = フロント100/90-19
■タイヤ = リア130/80-18(前後チューブタイプ)
■生産期間 = 1999~2008年
■価格(最終型新車時・消費税込み) = 72万300円(クロームメッキ仕様は75万2000円)
■カラー = ルミナスポラリスブルー×アトミックシルバー、メタリックダークグリーン×メタリックチタニウム、クロームメッキ×エボニー

いつまでも、長く付き合えるものとして…

歴代SR400/500完全網羅ファイルSRもW650も、いまとなっては騒音規制や排気ガス規制の強化という時流のアオリを受け、現状のまま生産を続けることは出来なくなってしまいました。しかし長いバイクライフのなかで、いつまでも傍らにあってほど良いプレゼンスを主張するバイクに、いつの時代も根強いファンはあとを絶ちません。その代表格として、30年もの長きにわたり、現行モデルとして在り続けたSRは、日本が世界に誇るロードスポーツバイクと言っていいでしょう。「SRの火は絶やさない」というメーカーのコメントにいろいろと想像をめぐらせても、生まれ変わったSRがこれまでと大きく変わってしまうことは否めません。流通在庫が豊富な今のうちに、手元に置いておくのもひとつの楽しみかもしれませんね。

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