ヨンフォア用の幻のカムが削り出しのST-1Mで復活。これがシリンダーヘッドの神器の画像

幻のカムが削り出しのST-1Mで復活。これがシリンダーヘッドの神器

  • 取材協力/ヨシムラジャパン  写真/柴田直行  取材・文/石橋知也  構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
  • 掲載日/2017年1月18日

CB400FOURエンジンチューニングの三種の神器のなかで、最初に手を付けるならキャブ、そして次がカムだ。ヨシムラの現行品は、従来のST-1カムをクロモリ材からNC総削り出しで復活させたもの。最新技術がヨンフォアファンの夢を繋いだ。

丸棒から削り出すことで自在なプロファイルを可能に
ST-1Mの「M」は「削り出し」を意味する

1970年代、つまりCB400FOURが現役だった頃、ヨシムラはロードスペシャルカムシャフトを発売していた。それを生産中止からずっと後年になって、ST-1カムとして再発売した。両者はカムプロフィールが若干異なる。ロードスペシャルはIN:BTDC15°~ABDC45°/EX:BBDC45°~ATDC15°で、ST-1はIN:BTDC14°~ABDC36°/EX:BBDC47°~ATDC11°だ。最大リフトも違い、ロードスペシャルはIN:6.4mm/EX:6.15mm、ST-1はIN:7mm/EX:6.8mmだ。いずれも鋳造素材から研削して製作されていた。

この鋳造されたカム素材はメーカー純正品を研削する前の素材で、ジャーナル(軸受)も仕上げていない「だいたい」カムの形をした半加工品だ。この素材は簡単には入手できない物(純正品)で、その素材を入手できるチューニングパーツメーカーは珍しい。それだけヨシムラは、カム製造に関して特別な存在なのだ。

そのカム素材は製品である車両が生産中止となり、補修部品供給期間が過ぎると入手が難しくなる。ヨンフォア用もそうで、素材が無くなった。そこでクロモリの丸棒からNC機で削り出す製造方法に切り替え、登場したのが新設計のホンダCB750FOUR用などだった。

鋳造素材(ダクタイル鋳鉄=FCD)は適度な強度・硬度を持ち、油持ちが良いのが特長だ。鋳造なので表面には微細な凸凹があり、ここにエンジンオイルが保持され、潤滑性に優れ、素材の持つ黒鉛が球状になっているので自己潤滑性も高く、高速回転するカムには最適なのだ。

一方クロモリの丸棒から削り出す方法だと、純正鋳鉄素材と違ってカム山の大きさに制限がなく、自在なカムプロファイルを製作できる。純正素材はSTDカム用なのでカム山はそれほど高くない(バルブリフト量に限界がある)。クロモリは鋳物よりも強度が高く、レース用には最適だ。なによりメーカー純正素材が無くなっても作れる。けれども潤滑性は鋳鉄素材より劣るので、カム駆動系の潤滑構造によっては不向きな場合もある。

ヨンフォア用は表面処理などの工夫の結果、カムやロッカーアームのカジリなどの問題をクリアしている。現在ヨシムラでは、新たな製法として両者の良さを併せ持ち、自在な設計を可能にするため、独自で丸棒のカム専用鋳造材を製造し(組成から専用)、鋳造削り出しカムをリリースしている。これでヨシムラのカムは純正鋳造素材の加工品、クロモリ削り出し、鋳造削り出しの3種類となり、用途によって使い分けている。

また、カムを研削するのも昔の手動機械式ではなく、コンピュータ制御のNCカム研削機になっていて、高精度で仕上げられる。カムの設計も加速度から最適なプロファイルを導き出すなど、昔とは大きく様変わりしている。もちろんカム製作の長年の経験・データ・解析方法があってこその最新設計なので、ヨシムラならではのカムが生み出されるのだ。

ヨンフォア用の幻のカムが削り出しのST-1Mで復活。これがシリンダーヘッドの神器の画像

ヨンフォアはSOHCで1本のカムが吸気側と排気側のロッカーアームを介してバルブを開閉させる。したがって直打式DOHCと違い、ロッカーアームの形状(支点、力点、作用点の位置、ウデの長さ)によってもレバー比が変わり(リフトカーブが変わる)、カムとの当たり面(スリッパー)でもバルブを押すタペットアジャストスクリュー先端のアールも重要だ。CBナナハン用ではレバー比を最適にするため、先端のアール違いのタペットアジャストスクリュー(同梱)に交換するが、ヨンフォア用はSTDをそのままで使える。ただし、常識ではあるが、カム交換時にはタペットアジャストスクリューを含むロッカーアーム(シャフトも)を同時交換したい。従来使っていたカムの当たりが付いているし、摩耗もしているだろうから、新たなカムには新たなロッカーアームを合わせること。バルブスプリングはST-1クラスなのでSTDが使える。バルブスプリングが強過ぎるとフリクションが増えるので、バルブジャンプの危険性さえなければSTDを使いたい。ST-2やST-Rなどリフト量が大きい場合は、仕方なく強化バルブスプリングを使う。ST-1MはSTDバルブスプリングで充分なのだ。

このST-1Mの登場で、強化バルブスプリングなどを使わず、それこそカムをドロップインするだけで、要の吸排気系をレベルアップさせられる。しかも耐久性は高いから安心して使える。キャブからカムへとチューンが進めば、ヨンフォアの眠っていたパフォーマンスを引き出すことが出来、さらに魅力あるエンジンになる。やっぱりカムなのだ。ヨシムラには今後、従来品を最新設計の新作も含め、新たな旧車用カム製作にも期待したい。

高性能なST-1MはタコメーターもバルブスプリングもSTDでO.K.

ヨンフォア用の幻のカムが削り出しのST-1Mで復活。これがシリンダーヘッドの神器の画像

ヨンフォアはSOHCのロッカーアーム付きなので、カムプロファイルはオープン側とクローズ側が非対称形になる。これが直打式DOHCなら左右対称形だ。なので、ロッカーアーム付きではカムの形だけでその特性を判別できない。

ヨンフォア用の幻のカムが削り出しのST-1Mで復活。これがシリンダーヘッドの神器の画像

#3と#4の間にあるのが純正の機械式タコメーター駆動用のギア。じつはこのギア形式は現在使われないもので、切削加工も出来なくなっていた。このギアはSTDタコメーターに合うように、新規に作り直された。鋳造の鋳肌に見える部分は熱処理の跡だ。

ヨシムラジャパン

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1954年に活動を開始したヨシムラは、日本を代表するレーシングコンストラクターであると同時に、マフラーやカムシャフトといったチューニングパーツを数多く手がけるアフターマーケットメーカー。ホンダやカワサキに力を注いだ時代を経て、1970年代後半からはスズキ車を主軸にレース活動を行うようになったものの、パーツ開発はメーカーを問わずに行われており、4ストミニからメガスポーツまで、幅広いモデルに対応する製品を販売している。

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