『ワイバン』はただのマフラーではなく職人の魂がこもった“工芸品”だ
取材協力/Motor House ASANOr's gear  取材・写真・文/山下剛  構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
掲載日/2014年1月17日
リプレイスマフラーは数あれど『r's gear(アールズギア)』が手がけるマフラーは「存在感が違う」と、多くの人が言う。「価格は高いが、それ以上の価値がある」と言う人もいる。他のマフラーとはいったい何が違うのだろうか? その理由を探すべく、アールズギア製マフラーを試乗車にも装着しているというショップ『Motor House ASANO』を訪ねた。

INTRODUCTION

客観的評価を求めて
マフラー職人に話を聞いた

アールズギアの代表は樋渡治さんだ。樋渡さんはモリワキやスズキワークスに在籍、日本はもとより世界の1980年代ロードレースで活躍したライダーである。レース引退後の1998年、マフラーメーカー『アールズギア』を立ち上げ、現在までマフラーの他、シートやアルミビレットパーツ製作を手がけている。樋渡さんに直接、マフラー製作の哲学を聞くことも考えたが、アールズギア製マフラーの評価を知るには、製作者本人よりも第3者の客観的な視点こそ貴重だ。

 

そこで、今回はアールズギアのマフラーをよく知る1人である、モーターハウスアサノ代表の浅野公一郎さんを訪ねた。モーターハウスアサノは1925年創業という日本のオートバイ史を牽引してきたショップのひとつで、オリジナルマフラーの製作も行っている。浅野さん自身マフラー職人であり、だからこそ良いマフラーが何であるかを熟知している。

 

自らもマフラーを製作する立場、いわば商売敵でありながら、なぜショップの試乗車にアールズギア製のマフラーを装着しているのか…。

INTERVIEW

血が通ったマフラーを体感して
思わず鳥肌が立った

「仕事柄、いろいろなメーカーのマフラーを装着して、それがどんなマフラーであるかを知ることは大切です。そうしたなかで感銘を受けたのがアールズギアのワイバンマフラーでした」

 

浅野さんはそう前置きしてから、さらに続ける。

 

「理想のマフラーとは、トータルでバイクのパフォーマンスを上げることです。軽さ、パワーとトルク、そして音。それらはバランス関係にありますから、どれかを優先すればどれかが落ちてしまう。けれどアールズギアのマフラーはすべてが高次元でバランスしていて、どこにも妥協点が無いんです。私もマフラーを作る人間ですが、正直に言うと“これは敵わない”と思わされたんです。これは血が通ったマフラーだ、と。人間の思いが詰まっていて、きちんと作られているんです。初めてそれを知ったときは鳥肌がたったほどで、そこまで感じさせられたのはアールズギアのマフラーが初めてでしたし、後にも先にもありませんね」

 

そんな浅野さんに、カワサキ W800のリリースとともに転機がやってきた。

 

「W650用のワイバン・クラシックでアールズギアマフラーのよさを体感していましたし、W800用マフラーを作れるのは樋渡さんしかいないと思いました。マフラーを作る者の1人として恥ずかしい話ですが、プライドを捨てて樋渡さんに会いにいき、W800用マフラーの製作を依頼したんです」

 

それから2ヶ月が経った頃、樋渡さんから完成したという連絡があり、加速騒音試験に立ち会った。

 

「音を聞かせてもらったとき、思わず“何だこれ!?”と笑ってしまうしかないほどの衝撃でした。パワーとトルクの向上はもちろんですが、私が求めていたのは乾いた重低音だったのです。と言うのも、圧縮が高いW800では、完全燃焼させようとするとどうしても甲高い音になってしまうんです。これは構造上しかたないことで、ノーマルはもちろん、社外マフラーでもそれを解消できているものはありませんでした。それなのに樋渡さんのマフラーは、スロットルを開けていっても乾いた重低音のまま、高回転まで回せるんです」

 

どうやら樋渡さんも苦労したようで、2ヶ月もかかったのは理想の音を作り出すためだったようだ。詳細は企業秘密だが、管楽器を参考にして内部構造を何度も作り直したのだという。

 

「低?中回転域でしっかりとパワーがあるから、ノーマルよりスロットルを開けずに済むんです。高回転まで回しても音がうるさくならないので、ナビの音声案内やインカムの声もしっかりと聞こえます。とにかく乗りやすいし、走らせていて気持ちがいい」

 

その素晴らしさはとにかく乗ればわかると浅野さんは言う。だから試乗車のW800にワイバン・クラシックを装着し、ユーザーに体感してもらっている。

 

「W1やW3を知っているベテランの方々は、W650やW800を軽く見る傾向がありますが、そうした方でも試乗すると“これ、車検通るの?”と確認されて、そのままご購入いただいたこともあります」

 

その効果は抜群で、モーターハウスアサノはW800販売台数で日本一を獲得。カワサキから表彰を受けただけではなく、その理由を探るべくリサーチが入ったというから驚く。

 

「そうした実績があったので、ZX-14Rが発売されたときも樋渡さんにマフラー製作を依頼したんです。ZX-14Rは自分で所有していたのでしばらくノーマルで乗っていて、これでも十分と思ってたのですが…ワイバンを装着したら激変しました(笑)。音は静かだけど、低音がしっかりと効いていますし、サイレンサーが軽くて小さくなったから取り回しも楽ですし、すり抜けでも気を遣わずに済むようになりました。ハンドリングもいいですね。切り返しが楽です。もちろんトルクも向上してるので、スロットルを余計に開けなくなるし、スッキリと走らせられます」

 

また、ZX-14Rはハイオク仕様だが、ワイバンに換装するとレギュラーを入れてもノッキングしなくなるという。

 

「納車前に装着するのもいいですが、ノーマルでしばらく乗ってから装着すると、その違いがよくわかると思います。バイクが持っている本来の性能をしっかりと引き出してくれて、走ることがもっと楽しくなる、もっともっと走りたくなる。それがアールズギア製マフラーのすばらしいところだと思います」

 

アールズギアでは通販も受け付けているが、装着に際してはモーターハウスアサノをはじめとするプロショップに依頼することをお勧めしたい。取付精度の高さは言うに及ばず、メンテナンスを含むアフターサービスも任せられるから安心だ。

 

「アールズギアの素晴らしいところを最後にもうひとつ。距離を乗(走)っても、音や性能が変わらないんです。パーツの経年変化についてはあまり言及されることがありませんが、製品管理や製造精度が飛び抜けて高い証拠だと思います」

 

マフラーひとつで、バイクの性能だけでなく乗り手の価値観すら変えてしまう。アールズギアのマフラーはそんな力を秘めている。

取材協力店

モーターハウス アサノ

住所/東京都江戸川区一之江 3-24-3
TEL/03-3656-2657
営業時間/10:00-19:30
定休日/水曜、第2木曜

1925年(大正14年)に自転車店として創業。終戦後からオートバイの取り扱いをはじめ、1975年に江戸川に移転して業務を拡大。2004年からはカワサキ専門ショップとしてリニューアル。マフラーをはじめとしたオリジナルパーツの製作も行うほか、KSRワンメイクレースなどにも参戦。アフターサービスを含めたバイクライフの充実をテーマに活動している。

BRAND INFORMATION

アールズギア

住所/三重県鈴鹿市加佐登4-17-10
TEL/059-375-7878

ワイバンをはじめとするマフラーのほか、カスタムシートやアルミビレットパーツを製作。製品開発については代表の樋渡さん自らテスターとなり、ときには数万キロにおよぶ走行を経て生み出されるパーツは、高性能かつ高品質と、ユーザーはもとより業界内でも定評がある。