ナイトロン/テクニクスのカスタムバイクでツーリング
取材協力/ナイトロンジャパンテクニクス  取材・文/中村友彦  写真/富樫秀明  構成/バイクブロス・マガジンズ
掲載日/2017年3月15日
世の中には前後ショックのカスタムに対して“効果がよく分からない”、“速さを求めている訳じゃないからSTDで十分”などと言う人がいる。でも、今回の素材であるナイトロンジャパンのデモ車を体感する機会があれば、誰もがショックに対する認識を改めるはずだ。

前後ショックの刷新で
旅はもっと楽しくなる

2日間に渡って茨城県各地を走り回り、車両返却のためにナイトロンジャパン/テクニクスに向かっている最中、同社の2台のデモ車を総括する言葉として僕の頭に浮かんだのは、“すこぶる快適”だった。いや、カスタムマシンのインプレで快適性を筆頭に挙げるのは、我ながらちょっとどうかと思うものの、同社が手がけたDAEGとMT-07は、STDとは雲泥の差と言いたくなるほどの快適性を身に付けていたのだ。

などと書くと、DAEGとMT-07のSTDショックはそんなにダメなの? と感じる人がいるかもしれないが、僕個人の印象としては、そんなにダメではないけれど、決して良くはない……というのが正直なところである。具体的な話をするなら、両車とも標準設定ではダンパーの効きが甘く、ダンパーが調整可能なDAEGでは特に、安易にアジャスターを締め込むと、一気に動き出しが悪くなる傾向。そういう特性だから、過去にこの2台で出かけたツーリング試乗では、帰路で予想以上の疲労を感じることが多かった僕だが、今回は身も心も元気いっぱいの状態で、約700kmを走り切れたのである。

ちなみに快適性と言えば、誰もが一番に思いつくのは乗り心地で、ナイトロンジャパン/テクニクスのデモ車は、まずこの点において完全にSTDを上回っていた。路面の凹凸を通過した際の衝撃の収束=車体の落ち着きが早いだけではなく、そもそも路面の凹凸による衝撃がほとんどライダーに及ばない。だから走行ライン上に多少の凹凸が存在しても、乗り手は余裕で走れるのだが、今回の試乗で僕がその乗り心地以上に感心したのは、距離が進むにつれて、同社のデモ車の車格感が徐々に小さくなってきたことだった。

その原因は、ショックを介して前後輪から伝わってくる濃密な接地感だ。減速時には前輪、加速時には後輪の接地圧が高まり、バンク時にタイヤのラウンド形状を感じるというのは、どんなバイクにも言えることだけれど、同店のDAEGとMT-07の場合は情報の鮮度が素晴らしくピチピチで、脳内で接地面の状況がイメージできるものだから、何度か前後ショックのストロークをきっちり使って特性を理解すれば、以後は実際の車格よりマシンが小さく思えて来る。言ってみれば、マシンが手の中にあるという自信が得られるわけで、その感覚は快適性だけではなく気軽さや安心感、さらには速さにもつながるものだと僕には思えた。

凍結に注意すれば冬場でも楽しめる茨城のワインディングと観光スポット

霞ヶ浦

日本で2番目に大きな湖沼として知られる霞ヶ浦を、ツーリングスポットと考える人はめったにいないだろう。だが、約100kmに渡って爽快な景色と緩やかなカーブが満喫できる外周路は、なかなかの快走ルートなのだ。とはいえ、基本的には2/4輪も走れるサイクリングロードという位置づけなので、休日は避けたほうがいいと思う。もちろん平日でも飛ばし過ぎは厳禁だが

筑波山スカイライン

メインルートとなる表筑波スカイラインが早くから2輪通行禁止な上に、東西からアクセスする県道42号にも交通規制が設けられているため、筑波山はライダーにはちょっとハードルが高い観光地だが、山頂から眺める関東平野は一見の価値がある。写真はロープウェイの発着場所となる、つつじヶ丘レストハウスに向かう県道236号で、名称は“表”が付かない筑波スカイラインという

小山ダム

平成18年に完成した高荻市の小山ダムは、茨城県内最大にして最新のダムなのだ。構造はオーソドックスな重力コンクリート式。ダム好きを自認する僕には、見た目の面白さをあまり感じられないけれど、放水路下からの景観は相当な迫力(ダムの高さは65m)。なお、北茨城地方はダムが非常に多く、小山ダムの半径50km圏内に限っても、水沼/花貫/竜神/十王と計5つのダムが存在

久慈浜海水浴場

日立市の南部に位置する久慈浜海水浴場は、すぐ近くの道の駅・日立おさかなセンターと並んで、夏場には大混雑する観光スポットだ。晴れていれば素晴らしい朝日が拝めるものの、残念ながら撮影日はドン曇りで、こんな感じ。遠くにぼんやりと見える日立灯台は、'67年から稼働を続けている働き者で('00年に改築されている)、デザインは日本のローソクをイメージしたものらしい

グリーンふるさとライン

茨城県には知る人ぞ知る……的な広域農道が数多く存在する。グリーンふるさとラインは、そこまでレアな存在ではないものの、この道路とビーフライン/アップルラインなどを上手くつなげれば、休日でも快適なツーリングが満喫できる

中城通り

岡山県の倉敷・美観地区の規模には及ばないけれど、土浦市内の亀城公園・中城通り周辺には、江戸~明治時代の風情を感じる町屋建築や蔵が随所に残されている。なお、土浦市周辺は、縄文時代の遺跡を展示する上高津貝塚ふるさと歴史の広場や、第2次世界大戦の記録を今に伝える予科練平和祈念館など、歴史絡みの施設が意外に多い

前後の足に備わる強靭かつ柔軟な筋肉が上質なハンドリングを実現している!

ナイトロンジャパン/テクニクスがこれまでに手がけたデモバイクは、基本的に前後のショック以外はノーマル状態を維持していたが、今回試乗したDAEGでは前後タイヤとフロントブレーキディスク+キャリパー、マフラーなどを、アフターマーケット製に変更している

絶大に感じる包容力と
節度のあるピッチング

前ページではSTDショックに対する異論を述べたけれど、僕はそもそもDAEGとMT-07が大好きで、ナイトロンジャパン/テクニクスの作業に対する感動の度合いはほぼイーブンだった。とはいえ同社が手がけた2台のデモ車で、僕が感動したポイントは微妙に異なっていた。

まずはDAEGに対する印象を述べると、基本的にこのモデルのシャシーは、よく言えばしなやか、悪く言えば落ち着きがいまひとつで、例えばコーナリング中に路面の凹凸を通過すると、車体に入った衝撃が余韻となって残り、その余韻が落ち着くまでは次のアクションが起こしづらいことがあるし、急加速や急制動を行う際は、シャシーにそこはかとない不安を感じることもある。

でもナイトロン製φ43mmフォークキット+リアショックを導入した同社のデモ車は、強靭かつ柔軟な筋肉を備えた前後の足が、衝撃を瞬時にシュタッと吸収してくれるので、いろいろな面で無理が利くのだ。もちろん、その特性をどう活かすかは、乗り手の意識や走る環境次第だが、STDしか経験したことがないDAEGオーナーがこの車両に乗ったら、包容力の高さに驚くに違いない。逆にこの車両を体験すると、STDは“能ある鷹は爪を隠す”仕様だった気がしてくるのだけれど、コスト抑制という意識がなければ、カワサキだってナイトロンのような特性を構築したかったのではないだろうか。

一方のMT-07に関して僕が過去の試乗で気になったのは、スロットルとブレーキの操作でピョコピョコ動きすぎの感がある車体(半日~1日の試乗ではそういった印象は持たないのだけれど、2日以上のツーリングになると、ピッチングにもう少し節度が欲しくなってくる)と、ロングランの後半で感じる尻の痛さだった。そしてこういった問題を解決するには、スロットルレスポンスを改善するサブコンの投入や、ドリブンスプロケットの小径化+ホイールベースのわずかな延長、シートウレタンの肉厚化などが必要になる、と以前の僕は考えていたのだが……。

フロントにTASC、リアにナイトロンのレースシリーズを投入したMT-07は、前述した問題を見事に解決していた。僕としては少々アテが外れた気分だが、まさか前後ショックの刷新だけで、MT-07の乗り味がここまで上質になるものとは。いずれにしても今回の2台を通して、前後ショックが乗り味に及ぼす影響力の強さを、僕は改めて認識することになったのである。

なお今回の試乗では、車両借用時に同社のテストライダーである中木さんから、冬場のサスセッティングの傾向を聞き、そのアドバイスに従って2台のダンパーをいじってみたのだが、実際にセッティングを進めていく中で僕が特に感心したのは、1クリックの変化が利きすぎず利かなさすぎずの絶妙の塩梅で、調整前後の変化が非常に分かりやすかったこと。何と言ったらいいのか“話の通じるヤツ”というのが僕のナイトロン/TASCに対する印象で、試乗後半ではサスセッティングが、楽しみのひとつになってしまった。

NITRON JAPAN/TECHNIX CUSTOM MACHINES

Kawasaki ZRX1200 DAEG

本来の資質を維持しながら、問題点を解消!

フロントフォークはナイトロンが独自に開発したφ43mm正立式だ。単体価格は32万4000円で、サンスターφ320mmディスクやブレンボ4Pキャリパーなどを加えたキット価格は48万6000円。なおナイトロン製前後ショックのダンパーは、いずれも工具を使うことなく調整することが可能だ

リアショックは同社製フロントフォークと共通の、3ウェイダンパー調整機能を備えるR3シリーズで、価格は17万8200円。'15年からはボディ全体をブラック仕上げとしたステルスツイン:20万4120円も販売されている

YAMAHA MT-07

ミドルの枠を超えた、上品で優雅な挙動

STDのφ41mmフォーク内には、ダンパー機構を昔ながらのピストンロッド式→積層バルブ式に変更するTASC:テクニクス・アドバンスド・スマート・カートリッジが投入されている。このダンパーキットは部品単体での販売は行っておらず、分解・組み立て工賃を含んでの価格は9万7200円

リアショックはナイトロンのR3シリーズ:19万5480円。リザーバータンク(手前に見えるダイヤルは2系統に分離した圧側ダンパーアジャスター)はシート下左、油圧式プリロードアジャスターはシート下右に設置する

中木亮輔さんに聞く、冬場のサスセッティング法

本文で述べたように、同社のテストライダーである中木亮輔さん(左)から、冬場のサスセッティングの傾向を聞いている。ここではその概要を紹介しよう。

「基本的に冬場の前後ショックは、ダンパーもプリロードも弱くする傾向ですが、どうして弱くするのかと言うと、一番はタイヤを温めるためです。そもそもタイヤが温まらないと、バイクは本来の性能が発揮できませんからね。だから前後ショックの前に、タイヤの空気圧を調整するのは大いにアリで、冬場は指定値より10%ほど下げたほうが、個人的には良好な感触が得られると思います。それを踏まえた上での前後ショックの調整ですが、まずは全ダンパーを出荷状態から3ノッチ緩める、あるいは全ダンパーを最弱にする、という状態から始めるのが、冬場のテストとしてはいいんじゃないでしょうか。そこから少しずつ各アジャスターを締めていけば、愛車と自分にとって理想的なダンパー特性と各ダンパーの役割が、よく分かると思いますよ」