2台の並列4気筒車でナイトロンの美点を実感!
掲載日/2018年11月06日
取材協力/ナイトロンジャパン
撮影/渕本智信  レポート/中村友彦  構成/バイクブロス・マガジンズ
※この記事は『ロードライダー Vol.436』(2018年5月24日発売)に掲載された内容を再編集したものです。記事の内容は雑誌掲載当時のものです。
純正(STD)のショックを社外品に交換することで、車体の持つ良さはそのままに、より高いパフォーマンスを得られることがある。それを検証するためのカスタムバイクツーリング。今回はナイトロン製ショックを装着する2台の並列4気筒車で、群馬/長野のワインディングを巡る旅に出かけてみた。

STDの資質を伸ばして
高級仕様となったCB!?

本題に入る前に前フリをしておくと、今回のテスト車に関して、僕がSTDの前後ショックに違和感を持っていたのはZ900RSのみで、CB1300SFにコレといった不満は感じていなかった。とはいえ、リアのみをナイトロンに変更したZ(同社のデモ車)と、前後ショックをナイトロンに履き替えたCBで、2日間に渡って群馬/長野の峠道を走って、各車各様の変貌ぶりに大いに感心させられた。具体的には、Zはいい意味でSTDとは別物、CBはSTDの資質を伸ばした高級バージョン、という印象を抱いたのだ。

まず、CBの印象から書くと、ナイトロン仕様で興味を引かれたのは、不要なピッチングが抑えられ、フラットな車体姿勢が維持されていることだった。と言っても、コーナーでは前後ショックがよく動くし、車体姿勢のコントロールは容易になっている。乗り心地は明らかにSTDより上質。

普通に走っている状態でも、いわゆるバネ下がいい仕事をしてくれるので、車体姿勢と乗り手の身体が安定しているのだ。だから疲労をあまり感じないし、悪条件下でも安心して走り続けられる。

このあたりはSTDとは一線を画する感触なのだが、だからと言ってナイトロン仕様がCBらしくないかと言うと、まったくそんなことはなかった。あくまでも路線としてはSTDの延長線上で、もしホンダがCBの上位機種を作るなら、ナイトロン仕様と同じような特性になるんじゃないだろうか。

今回のテストにはナイトロンジャパンの羽柴秀人さんが同行してくれて、途中で何度かセッティングを変更したのだが、その頻度が多かったのはCBの方。と言うのも、今回試乗したCBは、それまでの前後タイヤの磨耗によって、標準設定のままでは微妙にフィーリングが悪かったのだ。でも羽柴さんが調整を終えると(最終的には圧側ダンパーをかなり抜いた)、乗車感が劇変。前後ショックのアジャスターには、タイヤのマイナス要素の補正という使い方もあったのか……と、今さらながら感心させられた。

STDとは一線を画する
しなやかな特性を得たZ

ここからはリアのみをナイトロンに変更したZ900RSの話題。最初に純正ショックの話をしておくと、スポーティに走った際の感触は悪くないけれど、ツーリングでは硬さを感じる、というのが僕の印象だった。もちろんプリロードを緩めれば、多少は改善できるが、日本の道路事情では車体が欲する荷重を与えづらいような……。

ところが、話はそういうことではなかったようだ。Z900RS用を開発するにあたって、純正リアショックを解析したナイトロンジャパンでは、スプリングの素性とダンパーの利かせ方に問題があると判断。そのあたりを踏まえて生まれた製品は、必ずしもSTDより柔らかい訳ではないそうだ。

ただし実際の印象は、明らかにSTDより柔らか……ではなく、しなやかだった。ありきたりな表現になるけれど、ナイトロンのリアショックはSTDより作動性が良好で、動きの予測が立てやすい。興味深かったのは、リアに影響を受ける形で、フロントの動きもしなやかになったこと。結果的にナイトロンのZ900RSは、硬さとは無縁の乗り味を獲得していた。

もちろん、ナイトロンの美点はそれだけではない。凹凸を通過した際の収束は、明らかにSTDより早くなっているし、低中速コーナーが続く峠道での車体の挙動は、1クラス軽やかに思えるほど。とはいえ、それ以上に感心したのは、コーナーで感じるハンドリングの質が変わったことだった。

あくまで私見だが、僕は倒立フォークを採用するバイクは、コーナー進入時に前輪にしっかり荷重をかけないと、気持ちよく曲がれないもの、と思っていた。事実、STDのZ900RSには少なからずそうした雰囲気があって、場面次第では操作が難しく、あるいは味気なく感じた。でもナイトロン仕様は、どんな場面でも、そして荷重のかけ方を意識しなくても、リアを主軸にスパスパ&ヒラヒラと曲がって行くのである!

中村と相談しながらZのリアショックを調整するのは、ナイトロンジャパンの羽柴さん。ちなみに彼の愛車はゼファー1100で、前後ショックはもちろんナイトロン。

このフィーリングの変化はCBとは異なっていて、STDとは完全な別物。ただしSTDに不満のない人でも、この乗り味を体感したら、十中八九以上の確率で考え方が変わるはずだ。何と言ってもナイトロンのリアショックを装着したZ900RSは、親しみやすく、守備範囲が広く、さらにはリア主体で動きが軽快という意味で、ちょっと往年の空冷Zを思わせる感触を獲得していたのだから。

群馬県渋川市から長野原町経由で軽井沢へ向かう道は
絶好のワインディングと観光スポットが盛りだくさんだ

伊香保温泉
草津と並んで、群馬を代表する名湯と言われている伊香保温泉の外観の特徴は、街の中心部に作られた巨大な石段。写真は最下段となる場所で、この石段を昇って行くと温泉旅館やみやげもの屋、遊技場、飲食店などが軒を連ねている。現在の姿につながる温泉街が形成されたのは約400年前で、明治時代には夏目漱石や竹久夢二、徳冨蘆花といった文豪が訪れた。

県道33号 メロディライン
残念ながら試乗日は霧に包まれていたものの、榛名山を横断する県道33号線は、山頂付近に約1.5kmの直線区間が存在し、晴れた日にこの道を走ると北海道気分(?)が味わえる。ちなみにこの直線一部は、50km/hで走ると、タイヤと路面の摩擦が“静かな湖畔”を奏でるメロディラインになっているが、バイクの場合はかなり注意しないと聞き取れないかも。

榛名湖
高崎/前橋/渋川市と利根川を挟んで、東西に対称的に位置する赤城山と榛名山は、同時期に活発な火山活動を行った成層火山で、いずれも山頂のカルデラ(大きな凹地のこと)内は湖沼になっている。ちなみに榛名湖には、老若男女が楽しめる遊戯施設が整っているのだけれど、何度来ても観光客の数は赤城山より少なめの印象だ。

二度上峠
群馬県高崎市と長野原町の境に位置する二度上峠(名前の由来は、かつての草軽電鉄がこの地で2度のスイッチバックを行ったことだとか)は、できればオフロード車で走りたくなるハードなワインディング。しかもこの日は、霧で視界が約10mだったのだが……。ナイトロン仕様のZとCBは、そんな状況でもスポーツライディングが満喫できた。

落葉大道
旧軽井沢から北に向かって伸びる全長約2kmの三笠通り、通称“落葉大道”は、紅葉シーズンになると多くの観光顧客が訪れる軽井沢の名所のひとつで、新日本街路樹百景に選出されている。ただし、左右と中央に整然と並ぶカラマツは、第二次大戦後に植林されたものだそう。かつてのこの地域は浅間山の噴火の影響をモロに受けた原野だったらしいのだ。

万座ハイウェー
群馬県嬬恋村と万座温泉を結ぶ全長約20kmの万座ハイウェーは、雄大な浅間山や白樺林を眺めながら、標高1000m以上の高原道路を一気に駆け抜ける快走路だ。でも残念ながら今回の試乗では、ここの景色もやはり真っ白だった……。

草軽交通駅舎旧軽井沢
正面には“駅舎旧軽井沢”という看板があるものの、この建物は草軽電鉄を母体とするバス会社・草軽交通が経営するみやげもの屋で、昔ながらの建造物ではない模様。ちなみに、1939~62年に操業していた草軽電鉄には最盛期で22の駅が存在したが、現在でも当時の姿で残っているのは、国の有形文化財に指定されている長野原町の北軽井沢駅のみだ。

白糸ハイランドウェイ
白糸ハイランドウェイは旧軽井沢市街と国道146号線を結ぶ有料道路。かつては4輪の全日本ラリー選手権でも使われたというこの道は、なかなか攻めがいがあるものの、観光客(中間地点に設けられた峰の茶屋にいたお客さんは2/3近くが外国人だった)が多いので飛ばし過ぎは厳禁。2輪車の通行料金は片道200円、往復300円。

NITRON CUSTOM MACHINES

KAWASAKI Z900RS

リアショックみの変更で全体のバランスを改善

KYB製φ41mm倒立フォークや前後タイヤ(ダンロップGPR300)を含めて、現状のナイトロンのZ900RSは、リアショック以外はSTD。ただし今後は、フロントフォークのバージョンアップを実現する、TASCの開発を予定しているそうだ。純正フォークの調整機構を見る。トップにはプリロードと伸び側、ボトムには圧側ダンパーアジャスターが備わる。

Z900RS用として、ナイトロンジャパンでは3種のリアショックを販売している。試乗車が装着するのは、最上級モデルのR3シリーズで、3WAYダンパーアジャスターと、油圧式プリロードアジャスターを標準装備。価格は19万5,480円。ボトム部に車高調整機能と伸び側ダンパーアジャスターを備える点は、R2(18万4,680円)、R1(10万2,600円)も共通だ。

HONDA CB1300SF

上質な前後ショックがフラットな車体姿勢を構築

ナイトロンのCB1300SF用φ43mmフォークには、ステー/カラー類のみが同梱のホイールキット(33万4,800円)と、ブレンボキャリパー+サンスターディスクがセットとなるフルキット(51万8,400円)が存在する。インナー/アウターチューブは、ゴールド+ブロンズとブラックの2色から好みで選択できるダンパーアジャスターは、いずれも工具ナシで調整できる。トップが伸び側、ボトム部が2系統に分離された圧側だ。

試乗車が装着するR3(17万8,200円)に加えて、ナイトロンのツインショックには、シンプルな構造のR1(10万5,840円)、R3とR1のボディをブラックとしたステルスモデル(20万4,120円/13万1,760円)が存在するリザーバータンク上部に備わるのは、2系統の圧側ダンパーアジャスターで、ボトム部には伸び側ダンパーアジャスターと車高調整機能を装備。