“白バイ流” 究極の安全運転テクニック
取材協力/千葉県警察本部交通機動隊

Lesson13/低速バランス

掲載日:2011年02月25日 公道スペシャリスト“白バイ流” 究極の安全運転テクニック    

「白バイ流」安全の極意を学ぼう!

常に沈着冷静で威風堂々とした走り。そしてひとたび事件が発生すれば疾風のように現場に駆けつける…。「白バイ」は誰もが認める公道走行のスペシャリスト集団である。その極意とはいかなるものか。2009年度全国白バイ大会のチャンピオン、千葉県警の笹野巡査長を講師に迎え、ストリートを安全確実に走り続けるための考え方やノウハウをお伝えしよう。

Lesson13/低速バランス
白バイ走法のここがキモだ!
Lesson13/低速バランス

バランス感覚こそ
上達の基本

白バイ隊員が行う低速トレーニングは「狭路」と「一本橋」。単に遅く走るだけでなく、規制されたスペースの中でいかにバランスを保つかがポイントだ。スロットルとクラッチ、ブレーキの連携操作に加え、スタンディングによるバランス補正の方法を学んでいこう! 渋滞路などでのバイクの安定感が増し、安心感もぐっと高まるはずだ。

 

白バイ隊員の運転技術の高さを、あらためて思い知らせてくれるのが低速バランスである。白バイはあらゆる交通環境や路面状況の中を安全かつ確実に走り切るスキルを要求される。入り組んだ細い路地やクルマがひしめく渋滞路、ときには階段なども走破することも想定しているのだ。そこで重要となるのが低速バランスなのだ。

 

種目としては「狭路」と「一本橋」を組み合わせたコースになっている。「狭路」ではバイクの幅ギリギリに設置されたポールに接触することなくその間を縫っていくセクションで、ハンドルをフルステア近くまで切らないと抜けられない難所も設定されている。続く「一本橋」は教習所とは違い、クランク状でしかも段差が設けられているのが特徴。内輪差を計算したライン取りをしないと脱輪してしまうし、段差の衝撃をうまく吸収しないとバランスを崩してしまう。さらに競技会では基準タイム(26秒~30秒)が設定されていて、その時間内にクリアしなければ減点となる。まさにプレッシャーと戦いながら、いかに平常心を保てるかが試されるのだ。

 

「バイクは停止すれば安定を失ってしまいます。速度が出ているうちは車輪が回ることでジャイロ効果が働いて安定していますが、低速になるほどジャイロ効果は弱まり最後は倒れてしまうでしょう。トライアルや一本橋でときに完全停止することがありますが、そこに留まっていられるのはライダー自身が体を使ってバランスを補正しているからです。バイクはクルマと違い、運転者の技術やバランス感覚に頼る部分が大きい乗り物と言えます。それを鍛えるのに最適なのが、こうした低速バランス系種目なのです」と笹野さんは語る。スピードやコーナリングテクを追求する前に、まずは基本からしっかり積み上げていこうというわけだ。

 

白バイ隊員の場合、低速バランスでは基本的にスタンディングスタイルをとるのが一般的だ。これはヒザの屈伸やステップ荷重を有効に使えて、バランス補正がしやすいためだ。操作系については、半クラとスロットル、リヤブレーキの連携によって、速度を微妙にコントロールする技術が必要になる。低速バランスは小さなスペースでも練習できるので、安全な場所でトライしてみてほしい。

スロットル微開で半クラをつなぎ気味にしつつ、リヤブレーキで速度を調整するのが基本。クラッチを断続させるとパワーが不安定になりエンストの原因に。指は何本でも良い。

半クラ一定をキープ

スロットル微開で半クラをつなぎ気味にしつつ、リヤブレーキで速度を調整するのが基本。クラッチを断続させるとパワーが不安定になりエンストの原因に。指は何本でも良い。

スロットルもほとんど微開一定のまま、なるべく開け閉めしないのがポイント。ヘタに煽ると挙動が乱れてかえってバランスを崩しやすい。フロントブレーキは使わない。

スロットルは煽らない

スロットルもほとんど微開一定のまま、なるべく開け閉めしないのがポイント。ヘタに煽ると挙動が乱れてかえってバランスを崩しやすい。フロントブレーキは使わない。

低速バランスはスタンディングが基本。タンクの上に乗るぐらいの気持ちでしっかりニーグリップしつつ、上体もやや前傾してフロントに荷重。ハンドルも少し押さえたほうが安定する。

スタンディングで前荷重

低速バランスはスタンディングが基本。タンクの上に乗るぐらいの気持ちでしっかりニーグリップしつつ、上体もやや前傾してフロントに荷重。ハンドルも少し押さえたほうが安定する。

一本橋はクランク状になっているため、普通にセンターを進むと内輪差で後輪が脱輪してしまう。角を曲がるときはフロントが外から回り込むようなラインを意識する。

内輪差を計算したライン取り

一本橋はクランク状になっているため、普通にセンターを進むと内輪差で後輪が脱輪してしまう。角を曲がるときはフロントが外から回り込むようなラインを意識する。

万が一転倒してしまった場合は、慌てずに自分の体とバイクの状態をチェックした後、落ち着いて引き起こそう。まずは足元を確保してから自分の胸をバイクに預けるつもりで体を寄せる。

引き起こし方法 その①

万が一転倒してしまった場合は、慌てずに自分の体とバイクの状態をチェックした後、落ち着いて引き起こそう。まずは足元を確保してから自分の胸をバイクに預けるつもりで体を寄せる。

ヒザを車体の下に入れるようにしながら、ハンドルと車体(バンパーやフレーム)をしっかり持って脚力で引き起こす。上体ごとバイクの反対側に押し出すイメージだ。

斜め上方に脚力で上げる

ヒザを車体の下に入れるようにしながら、ハンドルと車体(バンパーやフレーム)をしっかり持って脚力で引き起こす。上体ごとバイクの反対側に押し出すイメージだ。

両手でハンドルを持って引き起こす方法。ハンドルを切って、ヒザを車体の下に潜り込ませるように入れて腰をシートに密着させる。体が小さい人や軽いバイクなどに有効だ。

引き起こし方法 その②

両手でハンドルを持って引き起こす方法。ハンドルを切って、ヒザを車体の下に潜り込ませるように入れて腰をシートに密着させる。体が小さい人や軽いバイクなどに有効だ。

シートに密着させた腰を通じて全体重を預けるイメージで押し上げる。右手でブレーキレバーを握れるので前輪が固定されて力が逃げないメリットがあるが、足場が悪いと難しい。

体重を預けて腰で押し上げる

シートに密着させた腰を通じて全体重を預けるイメージで押し上げる。右手でブレーキレバーを握れるので前輪が固定されて力が逃げないメリットがあるが、足場が悪いと難しい。

取材協力
取材にご協力いただいたのは千葉県警察本部交通部交通機動隊訓練指導係の皆様。2009年は「全国白バイ安全運転競技大会」団体一部で総合優勝を獲得するなど、全国白バイ隊員の中でも強豪チームとして知られる。
講師 プロフィール
講師 笹野裕也巡査長
千葉県警察本部交通部交通機動隊訓練指導係所属。「第41回全国白バイ安全運転競技大会」において個人総合優勝、千葉県警を団体一部優勝に導いた。マラソンを先導している白バイの凛々しい姿に憧れて現職を志す。プライベートではツーリングを楽しむ根っからのバイク好きでもある。愛車はCB1300SF。千葉県出身。
解説者 プロフィール
解説 佐川健太郎
モーターサイクルジャーナリストとして2輪専門誌等で活躍中。公道で役立つ実践テクからサーキット走行まで造詣が深く、白バイ関連の記事や映像も数多く手掛けるなど白バイテクについても精通。本誌ライテク講座「"スマテク"で乗りこなそう!」でも講師を担当した。ライディングアカデミー東京校長。MFJ公認インストラクター。

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