CRF直系! 異例のストリートモデル「ホンダCRF450L」徹底解剖/その1

掲載日:2018年09月12日 フォトTOPICS    

取材協力/本田技研工業株式会社
Text / Ryo Tsuchiyama  Photo / Honda,Ryo Tsuchiyama

ホンダが2018年9月に発売するCRF450Lは、モトクロッサーであるCRF450Rをベースに公道走行可能な保安部品を装着し、騒音など各種法規もクリアした完全なストリートリーガルマシンだ。2018年9月6日に、ホンダはメディア向けにCRF450L発表会を行った。ここではCRF450Lの詳細について2回に分けて特集する。
第1弾の今回は、CRF450Lのコンセプトや概要について書いていこう。お話を伺ったのは、今回CRF450Lの開発責任者を務めた株式会社本田技術研究所二輪R&Dセンター内山幹雄さんだ。内山さんはこれまで、ファクトリーマシンを含む歴代のモトクロッサーCR・CRFシリーズの開発を担当してきた、オフロードコンペマシンのエンジニアである。

今回インタビューに答えてくれたCRF450Lの開発責任者の内山幹雄さん。

モトクロッサー直系は伊達じゃない
パーツの70%以上はCRF450Rと共通!

CRF450Lの開発にあたって掲げられたコンセプトは「Attack next trail:CRF direct descent dirt bike」。これは「トレイルを楽しむ」「公道走行可能なCRF450を楽しむ」「メンテナンスを楽しむ」という3つのテーマを融合させたものだ。

「CRF direct descent dirt bike(CRF直系のダートバイク、の意)」が示すように、CRF450Lでは実に70%以上の車体パーツをCRF450Rと共通化している。

聞けば、モトクロッサーCRF450Rの現行モデル開発段階でエンデューロマシンのCRF450Xや、今回のCRF450Lの発売も想定していたそうだが、だからといってそれがCRF450Rの設計に影響を及ぼしたか?というと、答えは否。CRF450Rは純粋なモトクロッサーとしての性能を極限まで突き詰めて、一切の妥協をせず作り上げられたという。

左はベースとなったモトクロッサーCRF450Rで右がCRF450L。保安部品の有無を除けば瓜二つのモデルだ。

それからすると、CRF450Rとほとんどのパーツを共用しているという事実は、CRF450Lのダートバイクとしての血統と素性の良さを証明しているとも言える。もちろん、公道用のCRF450Lだけに各種保安部品をはじめ、容量を拡大したガソリンタンク、3本リング仕様のピストン、専用レシオの6速ミッションなど専用設計のパーツも用いられてはいるが、それらは車体を構成する要素の3割にも満たないのだ。

数少ない専用装備のひとつがガソリンタンク。チタン製で容量7.6Lを確保。

やっぱり気になる?馬力のハナシ

日本国内でCRF450Lが発売されるとアナウンスされたとき、多くのトレールバイクファンから驚きと賞賛の声が上がった。しかし、一部で50馬力以上あるとも言われているCRF450R(※最高出力は非公表)と比較して、日本仕様のCRF450Lの最高出力が24馬力と低く抑えられていることについては、一部のファンからは懐疑的、中には否定的な反応があったこともまた事実だ。もちろん、内山さんにはそのこともぶつけてみた。

最大出力18kW(24ps)/7,500rpm、最大トルク32Nm(3.3kgf)/3,500rpmを発生するCRF450Lのエンジン。最大トルクを3,000回転台で絞り出すエンジン特性とは一体どんなものなのか。

「CRF450Lの販売エリアは北米、オセアニア、欧州、そして日本です。馬力に関しては欧州と日本で同じユーロ4の規制に準じているので同じ仕様としていますが、日本や欧州での使い方を考えれば十分だと考えています。というのもCRF450Rのポテンシャルをフルに引き出せるのは、AMAモトトクロス&スーパークロスや世界モトクロス選手権に参戦するライダーの中でもほんのひと握りにすぎません。CRF450Lは公道で正々堂々と乗れるモデルとして、マイルドな特性を目指してスペックを設定しており、3,500回転で発生する最大トルクも3キロ台を確保しています。ですから、コンペモデル直系でありながらマイルドで扱いやすい、という点で十分に楽しんでいただけるものだと自信を持っています」

コンペモデルと比較すればたしかに数字では見劣りするが、レース用ではなくナンバー付きモデルとして出す以上はある程度のデチューンは致し方ないところだろう。そして忘れてはいけないのは、CRF450Lには他の公道車と同じようにホンダの新車2年保証が付随していることだ。7割以上のパーツをレーサーと共用していることを考えると、これは異例中の異例である。もちろん、エンジン各パーツには1万キロ、3万キロなどのスパンで部品交換が指定されているが、ベースがレーサーであることを考えれば驚異的なメンテナンスサイクルともいえる。

CRF450Lでは、日本のオフロードでも扱いやすいマイルドなエンジン特性を作り上げたと語る内山さん。

レースでの基本性能を突き詰めたモデルは信頼性でも長けているのです、と内山さんは教えてくれたが、仮にレーサーと同じエンジンパフォーマンスを公道で味わうのであれば、メンテナンスについてはレーサー同等か、それ以上に短いスパンで行う必要があることは容易に想像できる。それはつまり、購入後の維持費という形でそのままユーザーの負担としてのしかかるだろう。まさに諸刃の剣だ。

ここまで書いても日本仕様のスペックについてはきっといろんな意見があると思う。残念ながらこの日は撮影のみで試乗はできなかったため、開発の真意を試乗して確かめる事はできなかったが、現段階ではCRF450Lを数字だけで判断する事はできない、というのが筆者の率直な感想だ。

それ以上に、巷であれこれ言われるほど「馬の数」は本当に重要なのだろうか、というのも筆者の隠さざる本音でもある。もちろん、ある程度の馬力があることで走りにゆとりが生まれることは分かってはいるけれど、日本の狭い林道でトレールバイクを走らせると考えたら、内山さんが言うように日本仕様のCRF450Lは十分なスペックなのかもしれない(仮にフルパワーだったとしても筆者にはそれを振り回せるような腕もないのだが)。

車体の基本骨格もCRF450Rと共通。競技専用車として研ぎ澄まされた車体は公道でどんな乗り味を生むのだろう。

むしろ個人的には馬力の数字なんかよりも、極限のレースで勝つために生み出された世界最高水準の車体と足周りが、公道仕様のエンジンとどんなマッチングを見せるのか、そちらの方がよっぽど気になるし、いまはそれが楽しみでしょうがない。ただ、こればっかりは乗らずに語る事はできないから、機会があればダートに繰り出して、ピュアオフロードバイクとして最先端の車体とサスペンションの性能を肌で味わってみたいものだ。

CRF450 Rallyは出るのか!?

現在250ccトレールのCRF250Lシリーズには、ダカール・ラリーCRF450 Rallyをイメージした大型カウルを持つCRF250 Rallyがラインナップされている。CRF450Lの登場により、ワークス直系Rallyモデルの登場にも期待が高まるのは当然の流れで、むしろ450Rallyが本命だという方もいるかもしれない。これについても率直に内山さんに質問をぶつけてみたところ、

「そうですね、CRF450LをベースとしたRallyモデルについては、CRF450L発売後の市場の反応を見てから、というのが正直なところでしょうか」

という返事だった。

2018年のダカール・ラリー用のCRF450 Rally。2017年のEICMAにて撮影。車体装備はもちろん、エンジンやミッションなどの細部もCRF450R/RXとは異なる部分が多いという。

ダカール・ラリーに出場するマシンは市販車としてのホモロゲーションが必要だが、内山さんの話によれば現在のダカールマシンについては欧州や北南米の有力チームに提供するマシンの数だけで、すでにホモロゲは取れているという。となると、仮にRallyが登場するとしても即ラリー参戦! というモデルではなく、CRF450L同様に公道での扱いやすさを重視したマシンになるのではないかという想像もできる。ただ、現段階では何のアナウンスもないので、Rallyについてはもうしばらくあれこれと妄想を膨らませる方が楽しく過ごせそうだ。

ではここからは車体の詳細について写真で紹介していこう。その1ではCRF450Lのスタイリングについて紹介。

全長2,183mmのCRF450Rに対してCRF450Lの全長は2,280mmと100mmほど長い。
CRF450Lの車両重量は131kgで、CR450R比で19kg増に抑えられている。
価格は129万6000円(税込)で2018年9月20日発売。日本国内での年間販売計画は500台と発表されている。

どこから見てもCRF450Rと瓜二つのスタイル。保安部品も極力小型化されていることがよくわかるはずだ。

全幅は827mmでトレールモデルとしては一般的な数値。サイドスタンドの傾きも許容範囲内だろう。

ガルルの小川編集長(172cm/63kg)が足つきをテスト。シート高は895mmと高めだが、前後サスの沈み込みがあるのでオフブーツを履いていなくても足つきは悪くない。車体が軽いので不安要素も少ない。

第2弾では、車体各部のディティールについて写真中心でご紹介しよう。

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