2011 SPEA FIMトライアル世界選手権 第7戦 日本グランプリ

掲載日:2011年08月26日 フォトTOPICS    

文/富田由起奈
写真/河合宏介  取材協力/株式会社モビリティランド ツインリンクもてぎ

2004年には日本人初のトライアル世界チャンピオンになった藤波貴久選手(#3/REPSOL MONTESA HONDA)が、笑顔でスタート台に登場。アクセルの開けっぷりがいいところから、ニックネームは「フジガス(ガスはスペイン語で全開、という意味)」と呼ばれています。

世界ランカーがもてぎで戦う
トライアル日本グランプリ開催

8月20・21日にツインリンクもてぎでトライアル世界選手権第7戦日本グランプリが開催されました。曇り空に覆われた初日は約3500人が、2日目は雨にもかかわらず約4500人と多くのファンがツインリンクもてぎに集まりました。

トライアル競技は、障害物があるコース=セクションを、いかに足を着かずに走破できるか、バイクコントロールのテクニックを競うモータースポーツ。セクション内は走行ルートが決められ、ライダーのレベル(ライセンス)で走るべき箇所が支持されています。競技のポイントは足つきの回数。セクション通過時に足を着いたら1点減点、2回着いたら2点減点、そして転倒したら5点減点と計算され、ゴルフと同じように減点数が少ない人が勝利します。日本グランプリでは15セクションが用意され1日で2周します。

初日。昨年の世界チャンピオンであるトニー・ボウ選手(#1/REPSOL MONTESA HONDA)が王者の実力を見せ優勝。アダム・ラガ選手(#2/GAS GAS RACING)は僅差で2位に。藤波貴久選手(#3/REPSOL MONTESA HONDA)はボウ選手と33点差の3位。藤波選手は「今日は本当に情けない走りを見せて申し訳なかった。明日こそはみなさんの期待に答えられる走りを見せます」と、表彰台のさらに上に登ることをファンに誓いました。

2日目。前夜半から続いた大雨は回復するも小雨が続くコンディション。いくつかのセクションは難易度を下げるコース変更が施されてました。ボウ選手が細かなミスで減点数を重ねるなか、藤波選手は気迫の走りでクリーンを量産していきます。ところが、第10セクションでの転倒で左ひざが岩とマシンに挟まれるアクシデント発生。じん帯損傷で歩くこともままならない状態ながら、気合で競技を続け、連続クリーンを叩き出します。ようやくたどり着いた最終セクションでクリーンを決めた後は、崩れるようにマインダーと抱き合い涙していました。

この日の優勝は、31点にまとめたラガ選手。藤波選手は41点で2位。ボウ選手は3位51点。表彰台で藤波選手は「足を痛めた後は、みなさんの応援の声しか聞こえませんでした。みなさんのおかげで2位に上がれることができました。ありがとうございます」とコメントすると歓声と拍手が一層大きくなりました。次回は第8戦フランス大会。藤波、ラガ、ボウの3選手の激戦はまだ続きます。

負傷の痛みを乗り越え気迫の走りを見せる藤波選手の最終セクションの動画はコチラ

フォトTOPICS(写真点数/47枚)

01国際A級スーパークラスで、世界選手権と全日本選手権を戦う小川友幸選手(#16 HRC CLUB MITANI)。愛称は「ガッチ(イタリア語でネコの意味)」。セクション間を移動する専用の通路で、観客の声援に笑顔でこたえます。

02もてぎ敷地内に設けられた15箇所のセクションは、このような配置になっていました。ギャラリーは各セクションを徒歩で移動しながら観戦していきます。

03第1セクションでの藤波選手のヒューム管越え。これは地上からおよそ3メートルあり、他の選手が一旦止まって姿勢を立て直すところです。しかし藤波選手だけは止まらず、流れるようにそのまま反対側のスロープへ着地しました。

04年齢の若いユースクラスのイグナチオ・マルティン選手。セクション内でバランスを崩すと、片足を大きく出して修正します。このセクションでは、右側のスロープを下りる設定です。

05今季、ワールドクラスでポイントランキング1位のトニー・ボウ選手(#1/REPSOL MONTESA HONDA)は、これまでの6大会7戦で5勝を記録している王者。雨に濡れた下りのセクションでも安定した走りを見せてくれます。リアタイヤがパンクしているように見えるのは、グリップ力を上げるため意図的に空気圧を下げているからです。

06大きく藤波選手の名前が入った日の丸を振りながらの応援。「フジガスー!」とあちこちから声が上がります。第1セクションは芝の広場に造られた特設セクションなので、雨でも足元はぬかるみません。人垣ができるので、小さな脚立を持ち歩く観客もいます。

07第1セクション、フロントを高々とあげてセクションをクリアーする藤波選手。ひとつひとつの技に、観客席から感嘆のどよめきが起こります。観客と選手の距離が近いのもトライアルの醍醐味です。遊具のてっぺんでは、子供たちが特等席で応援していました。

08各セクションにはオブザーバーと呼ばれる審判員が複数いて、各所に分かれて選手の足付きなどの走りを採点します。一度も足を着かなければ写真のように「0」の札が上がり、最高点の「減点0」となります。これを「クリーン」と呼びます。

09ワールドクラスの選手は、失敗したときのリカバリーも見事です。バランスを崩したマシンから離れながらも、冷静に着地点を確認しているのが分かります。ケガをしない転び方ができることも、世界で戦うのに必要な技術なのでしょう。 

10セクション下見中の藤波選手が、ガルルでおなじみの小林直樹さんに攻略方法の相談をしていました。この世界戦の解説をしていた小林直樹さんですが、この瞬間だけ現役選手の顔に戻っていました。

11たくさんの観客が固唾をのんで見守る第2セクションは、山の斜面で行われました。泥で滑りやすい助走ゼロの地面から、文字通り全開で斜面を駆け上がります。そして選手たちを振るい落とす岩が2つ連続していて、頂点でターンをしてゴールします。

12第2セクションの頂点近くの岩を越える藤波選手。右の赤いゼッケンの人は、選手をサポートするマインダーです。競技中はマシンを動かすラインを指示したり、転倒時には選手自身やマシンを支えます。

13アダム・ラガ選手が(#2/GAS GAS RACING)泥の斜面を駆け上がり、岩の上で停止して次のターンに向けて姿勢を整えます。その走行ラインを他の選手が見て自分の参考にするので、トライアルでは誰かの後に走るのが有利になります。

14第2セクションの出口付近の大岩。幸いケガはありませんでしたが、ラガ選手がバランスを崩して滑落してしまいます。バランスを崩した瞬間、マインダーが前輪を受け止めてマシンが選手の上に落ちないようにします。

15走行前に下見をする藤波選手。実際にセクションに入って、ブーツの感触から滑りぐあいなどを確認します。選手たちのすぐ後ろに見えるグリーンの椅子は、座って観戦できるプレミアム席です。今回のような雨天だと足元も悪く泥もかかるので、観戦には長靴とカッパの着用をお薦めします。

16ラガ選手が滑落した大岩にトライする藤波選手。泥の詰まったグリップ力の低いタイヤをコントロールしながら全開で駆け上がります。この時、藤波選手のマシンの排気音がひときわ大きく山に響き渡りました。

17セクションを出ると、選手が持つ採点カードにオブザーバーがパンチングして記録します。大会終了後に回収して順位を決める重要なカードです。

18ハローウッズの岩盤ゾーン、第4セクションを上る藤波選手。もてぎのオーバルバンク(インディカーのコース)が見え、そして豊かな森や山々に囲まれた景色の中をカモシカのような軽快さで走り抜けます。

19ツインリンクもてぎを代表する岩盤ゾーンには3つのセクションが用意されています。これは第6セクション。トップ選手のトライが終わると観客は次に移動してしまうので少なくなり、じっくり観戦できるタイミングになります。 

20第4セクションの垂直の崖を一気に駆け上がるボウ選手と、それを見上げる大勢の観客たち。ここは交通規制がされて道路上から観戦できました。足元が悪いこのセクションでは、滑落しないようにマインダー用の命綱も用意されていました。

21口を真一文字につぐみ、慎重に第5セクションの岩盤を直登するラガ選手。マシンはGASGASの2ストローク300ccです。

22ハローウッズの岩盤ゾーン、第5セクションで岩盤へ飛びつく選手。こんな絶妙なバランス感覚やマシンコントロールを、目の前で何度でも見ることができるのが世界戦の魅力のひとつです。

23唯一選手と行動を共にするのがマインダーです。選手用の飲み水や食料、また工具やスペアパーツ(交換用のハンドルバーまで!)も積んで走る、縁の下の力持ちです。

24ハローウッズの沢ゾーン、第7セクションは舗装されたP3駐車場の脇でした。木の間を縫うようにコースが設定されています。コースの路面変化を、いかに読み取りクリアーするのかが観戦ポイントです。

25第8セクションは、出口に大岩がありました。そこを泥だらけの選手がトライします。「トライ中に泥が目に入り、痛くてよく見えなかった」とコメント。トライアルでは一般的に、視界を広く確保するためにゴーグルは使いません。

26第9セクションへ通じる道は、未舗装で階段もありました。選手たちと一緒に移動して観戦するには、不整地でも歩けるトレッキングシューズや着る物にも工夫が必要となります。

27広い敷地に点在するセクションを移動しながらの観戦になるので、自転車があると便利です。各セクションに自転車置き場が用意されていました。無料の循環バスもあります。

28食べ物の屋台は各セクション付近に出ています。メイン会場にあるHRCやスコルパなどバイクメーカーやインポーターの出店ではデモ車が並んでいました。特にトライアル用品店ではグッズが特売されているので、それだけでも訪れる価値アリと評判です。

29ハローウッズの沢ゾーン、第10セクションでのボウ選手のステアケース越え。この芝の広場には、第11セクションも設定されていました。

30岩肌にとりつくカモシカのような、第10セクションでの#36藤原慎也選手。各セクション内の制限時間は90秒なので、岩の上にいるマインダーがストップウォッチを持って経過時間を選手に知らせています。

31第10セクション、タイトなオフキャンバーターンを抜け、この後のステアケースへ向けて加速した瞬間のボウ選手。

32ハローウッズの庭ゾーン、里山をイメージした第12セクションで、水の中で加速して岩を越えた瞬間の小川選手。「ガッチー!頑張れー!」の声援が飛びます。

33第12セクション最後の難関の大滝。下見中、滝つぼ内に動く石を見つけたが、盛大な水しぶきをあげながら危なげなくクリアーする藤波選手。

34ハローウッズの庭ゾーンの奥には、林間の沢沿いに第14セクションがあります。ここでは観客に向かって選手が駆け上がって来る迫力のシーンが見られます。足元が悪いので、トレッキングシューズなどの装備が必要です。

35第15セクションの隣にある休憩場所。特に今回のような雨の日は座れる場所が限られるので屋根のある場所は助かります。食事や休憩に使えます。

36中央エントランスゾーンの第15セクションを攻める藤波選手。左奥からスタートして、次々と岩を乗り越え、最後は滝をイメージした障害を乗り越えるコース設定です。

37これまでの14セクションを戦った証の泥をまとい、第15セクションで岩から岩へジャンプする#15黒山健一選手。マインダーが手を伸ばしてマシンホールドに備えます。

38第15セクション、最後の大障害に飛びつくロリス・グビアン選手(#9/GAS GAS RACING)。下に水が溜まっているので、マシンは盛大にしぶきをあげて宙を舞います。

39最後の障害の1段目に乗ったラガ選手。しかし、この先の大きな丸太を越えなくてはいけません。助走の余地はほとんどないので、リアタイヤをぎりぎりまで下げてから加速します。

40ラストの大障害へ挑戦する藤波選手。マーカーの右側ぎりぎりを通って岩の上までのぼり、そこで止まって体勢を整え、最後の丸太もクリアーしました。

41最終日、第15セクションをクリーンでクリアした直後の藤波選手。右手をあげて観客の大歓声に応えますが、ケガの痛みか虚脱感のためか表情はさえません。

42最終日、すべてのセクションを終えてゼッケンを外したラガ選手が、マインダーを務めたドニー・ランプキンとガッチリ握手をします。ランプキンは、7回も世界チャンピオンを獲得するレジェンド。今回は残念ながらケガのために選手ではなくマインダーに徹しました。

43メイン会場に掲げられた選手への応援ボードには、日本語・英語・スペイン語などさまざまな国の言葉でメッセージが書かれていました。このボードは、大会後に選手達へ直接渡されます。

44表彰式には華やかなもてぎエンジェルも参加して、笑顔全開で選手達を迎え祝福します。

45初日の表彰式。優勝は中央のボウ選手(減点31/クリーン20)「レースはとても厳しいものでした。わずかな差でしたが、すごくいい試合ができた」、2位は左のラガ選手(減点32/クリーン20)「ボウ選手と最後までいい試合ができました」、3位は右の藤波選手(減点64/クリーン14)「明日こそは皆さんの期待に応えられる走りを見せます」とコメントしてくれました。

462日目の表彰式。優勝はラガ選手(減点41/クリーン18)「昨日はボウ選手に僅差で負けましたが、今日は勝てることができて嬉しい」、2位藤波選手(減点51/クリーン12)、3位ボウ選手(減点61/クリーン11)「悔しいですが、次のフランス戦で巻き返したい」とコメントしてくれました。

47「ありがとう」の意をこめて、表彰台から勝利のシャンパンシャワーを振舞う藤波選手。

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