ホンダ NC750X
ホンダ NC750X

ホンダ NC750X(2014) – スタイリングはそのままに排気量を拡大したNC750X

掲載日:2016年07月15日 試乗インプレ・レビュー    

テストライド/小林直樹  写真/長谷川徹  まとめ/小川浩康
※この記事はオフロード雑誌『GARRRR』の人気企画『小林直樹のオフロードバイク・テイスティング』を再編集したものです
※記事の内容は雑誌掲載当時のものです(GARRRR vol.339 2014年07月発売)

スタイリングはそのままに
排気量を拡大したNC750X

NCシリーズに乗るのは2回目だけど、前回は700でトランスミッションもDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)だった。今回は750に排気量アップしていて、トランスミッションはマニュアル仕様。排気量の違いが走りをどう変えているか? その辺りに注目してツーリングに出かけてきたんだ。

発進時に不安を感じない太いトルク特性は
排気量アップの恩恵

750になってオフロードイメージを増したタイヤが装着された、とのことだけど、乗って感じたのはオンロードタイヤ特有の硬さ。オフロードタイヤより剛性が高く、それが乗り心地の硬さとして現れてくる。その代わり舗装路でのグリップ力の差は歴然。パターンノイズや振動も圧倒的に少ないから、転がり抵抗も断然少ない。750になって低速トルクがさらに太くなっているけれど、このタイヤの転がりのよさもあって、1速は高めだけど発進で気を遣うことがないんだ。太くなったトルクと高めに設定されたギヤ比の組み合わせは、エンジン回転を上げてシフトチェンジタイミングを引っ張るより、早めにシフトアップしていくほうがスムーズに加速できる。エンジンを高回転まで回さなくてもいいから疲れにくい特性になっているとも言えるんだ。

ただ、排気量アップによるパワーアップは、あまり分からなかったというのが正直なところ。1軸バランサーから2軸バランサーに変更されたこともあって、吹け上がりはさらにスムーズになっているけれど、頭打ちの早さを感じることもあった。リッターオフのような身体が置いていかれるパワーもないけれど、それが市街地でのマシン挙動をシャープにしすぎず、ゆったりとした乗り味にしている。それと、ハンドル切れ角が少なめで、街中での小回りで気になる瞬間もあった。クイックすぎない乗り味が扱いやすさになっている反面、軽快さもやや削がれているように感じた。とはいえ、通常の燃料タンク位置が容量21Lのラゲッジスペースになっていて、シティコミューターとしての使い勝手のよさは持ち合わせている。リッターオフよりひと回り小さい車体サイズに、ビッグスクーター並みのユーティリティ性を持ったミドルサイズ。市街地ではホンダのコンセプト通りの仕上がりになっていると感じたよ。

しっとりしたハンドリングと軽い乗り味の調和が
快適な移動を実現

市街地で感じたマッタリした乗り味は、高速道路では直進安定性のよさとして感じられた。タイヤの接地感がつねに伝わってきて、車重が余分なサスの動きを抑えてくれるから、ピターとした乗り心地になっている。それがハンドリングもしっとりさせ、マシン挙動にフラつきがない。シールドも小ぶりだけどよく利いていて、走行風が胸に当たらない。

トルクは中速域でも太く、高回転まで回さなくてもスピードが乗ってくる。5速でもアクセルのツキがよく、4速にシフトダウンすればストレスのない加速性も発揮してくれる。6速はエンジン回転のフリクションがほとんど感じられず、エンブレも少なくスーと滑空するような走行感がある。だから高速道路では自在なスピードコントロールができ、快適な高速巡航が味わえるんだ。シートは柔らかめだけど適度に張りがあり、お尻も痛くなりにくかった。取り立てて目立つような乗り味はないけれど、つねに気になる不快な要素も皆無。旅のツールとして高い完成度が感じられるから、長く乗り続けても苦にならないのがいいね。

ワインディングでの自然なマシン挙動が操作する
楽しさを感じさせてくれる

タイヤの接地感はワインディングでもつねに感じられる。トルクとパワーは必要充分にあるけれど、アクセルレスポンスは急すぎない。そしてシート高が低く、マシンの重心も低く感じる。だからヒラヒラとした軽快さは少ないけれど、いきなり倒れ込んでいくようなこともないし、アクセルを開けた途端にリヤスライドするほどパワーが出てくることもない。マシン挙動に急な部分がなく、すごくニュートラルな乗り味になっているから、リーンインするだけで狙ったラインに入りやすい。それと、前後サスも路面からの衝撃をしっかり吸収しているけれど、ストローク感が急ではなく、マシンの姿勢変化が分かりやすい。そうしたマイルドともいえる乗り味が、コーナーで倒し込んでいった時の怖さを感じさせず、心と身体に余裕を与えてくれる。リッターオフほどトルクとパワーがないことが、逆にマシンコントロールのしやすさになっているんだね。

あと印象に残っているのは、マシン自体の重心バランスのよさ。コーナリング中にいい姿勢をキープしてくれるので、自然とスピードが乗ってきて中高速コーナーではスポーティなコーナリングが楽しめる。だからといってタイトなコーナーが苦手というわけではないのだけれど、止まるようなスピードまで落としていくとエンストの不安がある。DCTがエンストしないことを知っているだけに、余計そう感じるのかもしれないけれどね。

わだちと路面の石に注意すれば、
林道も意外と楽に通過できる

タイヤパターンの変更が功を奏していて、マシンを直立させていれば、ダート路面でも予想以上のグリップ力を発揮してくれる。ただ、最低地上高は高くないので、わだちと路面に落ちている石には注意が必要だけど、なるべく平らな部分をトレースしていけば特別なテクニックを使わずとも走っていける。シッティングよりスタンディングのほうがステップバランスでダイレクトにバランスコントロールができるけれど、ステップにはゴムが装着されていて滑りやすい。目線が上がるので視界が広くなるメリットはあるけれど、とっさに足を着きにくくなるので、ライディングテクニックに自信のある人以外はシッティングのほうが安心できるはずだ。

またギヤ比は2速でも速すぎるほどで、3速ではつねにオーバースピードになりがち。ABSがあるとはいえブレーキコントロールは難しい。だから1速とクラッチ操作でエンストを防ぎつつ、スピードコントロールするといい。

それと、舗装路では介入が気にならなかったABSだが、ダート路面では頻繁に介入してくる。不意のブレーキングでもフロントタイヤがロックしないから、握り転けを防いでくれるので、多くのライダーにとっては安心の装備になるはずだ。

おれの場合、狭い林道では押し引きせずにUターンしたいので、ブレーキターンを使いたいのだけど、リヤタイヤがロックしないのでそれができない。タイヤのサイド部分にブロックがないので、マシンを傾ければリヤスライドはできるけれど、マシンの重さがあるのでスライドを止めるのは難しい。またグリップ力のあるタイヤは接地面積が広く、それが駆動力になる反面、スタックした時に路面を掘りやすい。だからUターンが必要となるような枝道には入らず、本線を通過するくらいに留めておくほうが無難だ。

林道ではダートを攻めるより、マイルドなマシン挙動が生む安心感に任せて、景色や雰囲気を楽しみながら走るほうが、NC750Xには似合っていると思うよ。

今回の走行距離は250kmほどで、高速道路が苦にならないNC750Xにとっては、少し物足りない距離に留まった。ダート路面はフラット、ウッズ、サンドを走破。マシンへのダメージを考慮してガレ場は避けた。高速道路では30km/Lをマークしたが、ダート区間では16.1km/L。ただ、これは高回転キープでアクションを多用したので、例外的といえる。

NC750Xの特徴は次ページにて

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