カワサキ DトラッカーΧ
カワサキ DトラッカーΧ

カワサキ DトラッカーX – 峠へ向かうロングランが快適なスポーツツーリングマシン

掲載日:2016年06月30日 試乗インプレ・レビュー    

テストライド/小林直樹  写真/長谷川徹  まとめ/小川浩康
※この記事はオフロード雑誌『GARRRR』の人気企画『小林直樹のオフロードバイク・テイスティング』を再編集したものです
※記事の内容は雑誌掲載当時のものです(GARRRR vol.291 2010年07月発売)

峠へ向かうロングランが快適な
スポーツツーリングマシン

今回テストするDトラッカーXのベースモデルKLX250の穏やかでしなやか乗り味を、おれはかなり気に入っているんだ。それがモタードになると走りはどうなるのか? そんな面も意識しつつ、ワンデイツーリングへ行ってきた。

トルクの太さと車体の安定感が
市街地での扱いやすさになる

前後に17インチロードタイヤを装着していることで、KLX250より30mmほどシート高が下がっているから、街中で足着き性を不安に感じることはないだろう。それに伴って、マシン自体の重心も低い位置にあるように感じられる。

エンジンは全域でトルクフルで、とくに低速トルクは2速発進も受け付けてくれるほど。ただ、レスポンスはそれほどクイックではないので、パンチがないと感じることもあるだろう。けれど、このエンジンと低重心の車体の組み合わせが、抜群の安定感を生み出してくれるんだ。走行中にふらつく感じがなく、マシン挙動もクイックすぎない。だから、幅広いレベルのライダーが扱いやすさを感じることができるんだ。すり抜けを多用するよりも、どっしり構えて、スムーズに穏やかに走ると安定感を味わえて楽しく走れる。

それと、ブレーキレバーが細くて握りやすく、制動力も握った分だけ立ち上がってくるから非常にコントロールしやすい。フルブレーキングしてもマシン挙動には安定感があるから、それも安心を感じさせてくれるんだ。

高回転まで引っ張るより、トルクが立ち上がってくる回転域を使ったほうがDトラッカーXは加速していく。だから加速感を感じないままスピードが出ていることもある。街中では「スピードの出すぎ」にくれぐれも注意してくれ。

高速道路ではオートマチック感覚で
長距離巡航を楽しめる

高速道路でもトルクの太さをヒシヒシと感じる。法定速度内であれば、6速ホールドのままでも加速していけるんだ。つねにタイヤの接地感を感じられ、試しにハンドルを振ってみてもマシンが暴れることがないほど直進性もいい。これはタイヤグリップの良さもあるけれど、フロントフォーク剛性の高さのおかげだろう。わだちや目地段差など、外乱から受ける振られに対する剛性はすごく高いのに、ストローク初期の動きはいい。だから高速道路でレーンチェンジした時も、マシン挙動はクイックではなくマッタリしているけれど、振り戻されるお釣りが一切ない。

時速100km巡航ならエンジンをそれほど回さなくてもいいので、不快な振動もまったく出てこない。エンジン回転には余裕が残っているから、追い越し車線の流れに乗って走ることもできる。ライディングポジションはオフロードバイクと同じなので、風圧は感じることになるけれど、直進性の良さとエンジンの余裕のおかげで、高速道路では意外なほどの快適さを味わうことができた。それと、流線型のバックミラーは風圧で動くことがなく、走行中も見やすかった。こうしたこともストレス軽減になって、林道へ向かうまでの移動は本当に楽なんだ。

乗り手の積極的な体重移動が
ワインディングでの楽しさを生む

ギアレシオが日本のワインディングに合っているから、エンジンに機敏なレスポンスがなくても、走りを楽しめるんだ。もちろんシフトチェンジは行うけれど、3速をメインにして太いトルクを使ってやれば、かなりのペースで走っていける。ワインディングでも前後サスがストローク初期で路面からの衝撃を吸収してくれるから、ライダーに余分なマシン挙動を伝えない。つねにフラットな乗り心地になるので、安心して走っていけるからだ。

ただし、高速道路で発揮された直進性のよさもワインディングで発揮される。アクセルを開けているとマシンは起きようとしてくる。だからリーンアウトでマシンを押さえ込むのではなく、意識して体をイン側に入れてリーンインしてやらないと、マシンはアウト側に膨らんでいってしまう。

その反対に、マシンが勝手にイン側に切れ込んでいくこともない。マシンがふらつかないから、チャラチャラした挙動もなく、乗り味はいたってニュートラル。車重も軽くないけれど、それがひとまわり大きいマシンに乗っているような安定性も感じさせてくれる。だから体をイン側に入れることができれば、自在にコーナリングしていくことが可能なんだ。これは、コーナーでの切り返しには乗り手の積極的な体重移動が求められるということでもある。だから、体重移動を面倒に思うと曲がらないマシンと感じるし、体重移動を楽しいと思うと攻めていけるマシンと感じる。

それと、ブレーキは耐フェード性が高く、熱くなっても利きはよかった。ただ、乗った時に感じる安定性は、曲がりにくさになることもある。前後輪に荷重をかけて走るには、いつもより前方に、股間がフューエルタンクに当たるくらいの位置に座るといいよ。

サスの作動性のよさがダートで
意外なほどの走破力を発揮する

オンロードタイヤなので、ダートでのグリップ力は不足している。だから正直、林道では乗りにくさを感じてしまう。でも、前後サスの動きがよく、マシンを直立させていれば意外なほどのグリップ感がある。ギャップや岩を乗り越える時もタイヤは跳ねるのだけど、その動きをサスが吸収するので、マシン挙動も落ち着いている。予想以上にスピードが乗ってしまい、モタードマシンに乗っているということを忘れてしまう瞬間もあった。

けれど、マシンを傾けると極端にタイヤグリップが落ちる。コーナリングなどヨコ方向へのグリップが弱いので、ダートでは決して無茶はできない。1速か2速の低いギアでトコトコ走り、コーナーにはゆっくり進入。そして、ピークで少しずつアクセル開けていってマシンの向きを変えてやる。曲がるきっかけはイン側ステップを踏み、アウト側のヒザをはたき込むようにしてリーンアウト。ハンドルで一気に向きを変えようとすると転倒する原因になるので要注意だ。

マシン直立時と傾けた時の、ダートでのグリップ力の違いをあらかじめ把握しておいて、自分がコントロールできるスピードまで落として走る。これがDトラッカーXの林道の走り方になる。

ツーリング開始時には「体調が万全ではない」と言っていた小林氏だが、高速道路、ワインディングで乗り込んでいくほどにテンションも上がっていった。気が付くと、モタードモデルで行くのがためらわれるようなガレ場、ウッズにまで分け入ってしまい、最後は川渡りも決めてくれた。総走行距離は約250kmで、ダート距離合計は約40km。モタードモデルにとってはかなり多い割合になっていると思う。その結果、燃費も18.4km/Lに留まった。KLX250が31.8km/Lをマークしているので、オンロードのみを通過するツーリングであれば、30km/L程度までは伸びてくるはずだ。

低速トルクを使い低回転域でも
リアスライドできる

低い位置に重心があって、エンジンのレスポンスもマイルドなので、アクションライディングでもマッタリしたマシン挙動になっている。だから瞬間的なパワーが必要なウイリーやフローティングターンといったタテ方向のアクションはやりにくい。その代わり、低速トルクが太く、ピーキーさが一切ないから、低回転域でもリアを振り出していける。さらにマッタリしたマシン挙動と車重の重さが、ヨコ方向のアクションにいい意味でトラクションを与えてくれて、オーバーアクションになりにくい。オーバーアクションにならないからお釣りもなく、マシンコントロールがしやすいんだ。クイックじゃないマシンは、ライダーのコントロールを超えた危険領域に入るのも遅くなる。だからフラットダートで、低いスピード域でのアクションを練習するのに向いているとも言えるんだ。そうじゃなく、ダートでのアクションをもっと楽しみたいと思うなら、それはDトラッカーXではなく、KLX250に乗ることをおすすめするね。

どんな路面でもマシン挙動がチャラチャラせず、車重の重さは感じるものの、それが重量感ではなく安定感になっている。ポジションはKLX250と変わらず、前下がりになっていないから、つねに楽な姿勢をキープできる。そうした要素が合わさって、タイヤの接地感を高めてくれているように思った。それがしっとりしたハンドリングを生み出し、軽快な乗り味は少なくなるけれど、一度ラインを決めてしまえばスーッとトレースしていくことができる。マシン任せのマッタリした走りと積極的な体重移動によるスポーツライディングの共存。なかなか奥行きのあるマシンだね。

リアタイヤをグリップさせにくく、ウイリーは難しい。だが、バランス領域に入れてしまえば、マッタリした挙動がバランスの取りやすさになる

ヨコ方向へのタイヤグリップの少なさと低速トルクの太さが、低いスピード域でのリアスライドのしやすさを生み出す。逆にハイスピードでのコントロールは難しい

タイヤ自体の剛性が高いので、ダートではタイヤが跳ねる。しかし、サスの作動性がそれを吸収し、マシンを直立させていれば川渡りもできるほどの走破力を見せる

DトラッカーXの特徴は次ページにて

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