カワサキ KLX250
カワサキ KLX250

カワサキ KLX250 – マイルドに洗練されたがその走りは本物だ

掲載日:2010年11月25日 試乗インプレ・レビュー    

エンデューロレーサーの血筋が
現代に問うものとは…

KLX250は実に息の長いモデルである。そのルーツはエンデューロレーサーのKLX250Rをベースとしたデュアルパーパスモデルとして93年にデビューしたKLX250SRにまで遡る。CRMやDT、RMXなどの2ストモトクロッサーレプリカが全盛だった当時、「闘う4スト」のキャッチフレーズで2スト勢と互角に勝負できるポテンシャルを引っ下げて登場したスパルタンなモデルだった。時代は変わり、オフロードモデルも一般ライダーがより馴染みやすいマイルド路線が求められるようになると、KLXもセルスターターとバッテリーを装備して日常での使い勝手を向上。その後もマイナーチェンジを繰り返しながら、現行モデルとなった2008年型からはついにFI化されて、始動性の向上とクリーン排気によって環境性能も高められている。スタイリングもエッジが効いた現代的なデザインに一新され、各部パーツのグレード感もアップしているのが特徴だ。過激なオフロードレーサーから、懐の広いマルチパーパスモデルへと進化したKLX250とはいったいどんな走りを見せてくれるのか。2011年モデルの試乗を通して今一度検証してみたい。

カワサキ KLX250の試乗インプレッション

マカワサキ KLX250の画像

マイルドに洗練されたが
その走りは本物だ

KLX250と聞いてスパルタンな乗り味を期待していたのだが、ずいぶんジェントルになったというのが第一印象だった。ずいぶん昔の話しだが、KLX250のルーツである初期型KLX250SR(93年式)のイメージが私のなかに強く残っていたからだ。同時代にカワサキからリリースされていたKDX220SRとKDX250SRなどの2ストモデル特有の弾けるような瞬発力には及ばなかったが、それでも他メーカーの4ストライバル勢よりはエンジンも元気よく、スロットルだけでフロントアップもできた記憶がある。それに比べると、現行モデルはゼロ発進からの加速感や中速域のトルクの盛り上がりに欠け、失礼ながら「こんなだったかな~」と感じてしまった。排ガス規制への対応で燃料を景気よく使えないのは分かるが、旧き良き時代を知るものとしてはちょっと寂しい気も…というのが正直なところだ。それにしても、当時はカワサキ1社だけで250ccクラスのオフロードモデルを3機種もラインナップしていたのだから、“土系”も相当盛り上がっていた時代だったと思う。

さて、いきなりテンションを下げてしまうような話をして恐縮だが、現行モデルはそうした以前のモデルとは別物として考えたほうが良さそうだ。かつてのKLXはエンデューロレーサーをそのまま公道で走れるように保安部品を着けただけの仕様だった。当時はオフロード系もレーサーレプリカがもてはやされた時代。乗り味はスパルタンなほどウケが良かったのだ。一方、最近では本気でコースを攻めたり林道をぶっ飛ばすためにオフ車を求めるライダーは少なくなった。むしろ、取り回しの良さや機動力を生かして街乗りメインで使ったり、たまに未舗装路でダートの感触を楽しんだりする、ソフトなライディングスタイルにシフトしているというのが実情だろう。現行KLXはまさにそうしたニーズに応えるマシンと言えそうだ。

始動はセルで一発、しかもFI化されているためチョークレバー操作の微妙な加減などもいらずとても楽だ。アイドリングも安定していて、すぐに走り出しても大丈夫。単気筒にありがちな、スロットル開けしなにエンストしそうな感じもなく、寒い冬の朝にキックを何発もくれてやった時代と比べると隔世の感がある。シート高は89㎝とスペック上は過激だが、スリムな車体とストロークする前後サスのおかげで足着きは悪くない。扱いやすいエンジンと軽快なフットワークにより、普段の足としても重宝しそうだ。低速での粘りを出すためか1速はかなりローギアードな設定で、発進で引っ張るとすぐに吹け切ってしまう。3速ぐらいまでは早めにテンポよくシフトアップしていったほうがスムーズだ。ただし、トルクバンドは7000rpm前後からなので、高速道路で追い越したいときなどは回転数をそれ以上にキープしていないと俊敏な加速は得られないようだ。単気筒らしいドコドコ&トコトコ感を求める向きにはやや忙しいエンジンだと言えるだろう。パワーが本格的に伸びて本領を発揮するのは、なんと8500rpmぐらいから。意外にも回せば回すほどパワーが出てくるタイプで、元祖4ストエンデューロレーサーの血筋が感じられる部分だ。6速ミッションでトップギヤはオーバードライブ的な設定なので高速クルーズも意外と得意。回転数さえキープしておけば、大型バイクにもなんとか遅れずについていくことができる。

マカワサキ KLX250の画像

ワインディングもなかなか楽しい。伸びやかな高回転域を生かして、パワーバンドを使いきる醍醐味があるからだ。ある意味、非力だからこそスロットルを開け切れるのだ。切り返しなどは軽快そのもの。体重移動などしなくても股下でバイクを操れるので、あまり難しいことを考えずに楽に曲がれるところがいい。リーンウィズで穏やかに走るのもいいし、その気になればモタード張りに内足を出して深いバンク角での旋回も楽しめる。軽い車体のおかげでブレーキもよく効く。やや効きすぎのリヤに比べてフロントはコントローラブルなので、特にロードではフロントを積極的に使ってピッチングを出していったほうが曲がりやすいだろう。FIなのでキャブ車のように標高の影響を受けることもなく、いつでもエンジン絶好調なのも気持ちいい。

気になるオフロード性能だが、今回は本格的なコースというよりちょっとした起伏のある未舗装路で走りをチェックしてみた。ロードではソフトに思えた前後サスもダートに入ると一転。しっとりとダンピングが効いた頼り甲斐のある存在になるから不思議だ。拳大の石が転がるガレ場もスロットルさえ開けていれば何の不安もなく、ちょっとしたギャップを見つければジャンプすら可能だ。ブロックタイヤのおかげで堤防のような坂道でも低い草木を掻き分けて進むことができるし、粘りのある極低速を生かせばトライアル的な遊びも楽しめる。ロードバイクでは決して乗り入れる気にはならないような場所で活き活きと走り回るKLX。今更のようにこのモデルが“本格オフローダーの血族”であったことに気付かされた次第だ。サスセッティングも楽しみのうち。ワインディングではダンパーを強めに効かせて前後サスに落ち着きを持たせたほうが姿勢も安定して曲がりやすい。一方、オフロードではある程度ダンパーを弱めて積極的にストロークさせたほうが乗り心地も良く、ギャップなどもいなしやすかった。せっかく調整幅の広いサスペンションを装備しているのだからぜひとも使いこなしたいところだ。

気になったのはただ一点。交差点などを低速でターンするとき、車体の傾きに対してステアリングの切れ込みがやや遅いと感じたこと。これはおそらくブロックタイヤの影響だと思う。アスファルトしか走らない人はロード寄りのタイヤに履き換えると改善する可能性が高い。KLXは発売から20年近く熟成されたモデルである。スタイリングも初期型から比べると洗練され、乗り味もよりジェントル。FIをはじめとする現代的なフィーチャーを与えられてはいるが、ひとたび荒野に解き放てばかつてのワイルドなエンデューロレーサーの顔が表れる。血は脈々と受け継がれているのだ。オンでもオフでも場所を選ばず、走る楽しみを広げたい人におすすめしたいモデルだ。

カワサキ KLX250は次ページにて

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