AXCR2015 参戦レポート Vol.03 LEG3~LEG6ダイジェスト

掲載日:2016年06月06日 エクストリームラリー    

取材協力/アジアクロスカントリーラリー日本事務局  取材・文/宮崎 大吾

Asia Cross Country Rally 2015 Special Report

ラリーストの「先読み能力」には驚かされることがある。荷物を積載したトラックが常に選手より先にホテルに着いているとは限らない。だから簡単な着替えを別働隊(このラリーの場合は、チームジャパンサポートのハイエースということになる)に預けておいた人もいる。僕はそうしなかった。だから、翌朝のスタート直前まで整備ができない事態になってしまったのだ…

ラリーにトラブルはつきもの…それにどう対処するかが重要

僕は前回のレポートのとおり、着替えのすべてをトラックに預けているから、いま着ている汚れきったオフロードウエアしかない。もちろん替えの下着などもない。それでも汗を流したいからチェックインを済ませてシャワーを浴びて、ガウン姿でしばし仮眠。夜になり、仕方なく汚れたウエアで夕食をとり、事務局で翌日のマップを受け取った。しかし識別やチェック用の蛍光マーカーや、横幅を切りそろえるためのハサミもトラックの中にある。ということで、同じような状況だった石井進さんらと近くのコンビニへ買い出しに行ったのだった。

少し余談になるが、石井進さん(写真左。右は石井さんの盟友、福村先生)は僕が20代の頃からBAJA1000の記事制作などでお世話になってきた方だが、一緒に走るのは初めてだった。本大会では色々な場面で石井さんとご一緒させていただくことができて光栄だった。なにしろBAJAのベテランだから、リスクを回避する走り方や川渡りの方法、道に迷ったときの落ち着き方など、いろいろ学ばせていただいた。

さて、話は戻って次に僕が今出来ることは、夜明けまで少しでも多く寝ることだ。LEG2終了時点でタイヤがかなり磨耗しており、どうしてもタイヤ交換だけはしたかったので、午前4時頃に目覚ましをセットした。

通常はホテルに帰還して明るいうちにタイヤ交換など整備を済ませる。僕はパンク防止のためにチューブではなくムースを使っている。タイヤ交換が早くて楽なのも選んだ理由のひとつ。

早朝、眠い目をこすってロビーに降りると、そこには前日の夕方、トラックを助けにハイエースでリエゾンを戻り、夜更けにホテルへ帰ってきてからみんなの荷物を降ろしていた、チームジャパンサポートの大崎さん(ハスクバーナ東名横浜店長)が、ソファーで気を失うように寝ていた。心底感謝した。

外に出ると、他のライダーはすでに整備を始めていて、タイ人のトラック運転者がニコニコしながら荷物の整理をしている。「いやあ、大変だったよ~」と屈託のない笑顔を振りまいている。焦りと疲労で心がやられかけていた僕は、彼らの姿を見て俄然「やる気」が出てきた。速攻でタイヤ交換を済ませて、いざLEG3へ!

LEG3ダイジェスト

8月11日(火)
メーソット~スコータイ(全行程380.75km)
SS3 TAK~SUKHOTHAI(181.35km)

LEG3は本大会最大の難関だった。「ナビゲーション能力」を試す日と設定されていて、覚悟はしていたが想像以上に難しい!

天候は快晴だがかなり暑い。路面はサンド質のため前走車の轍が見えにくく、分岐がめちゃくちゃ細かい! 木々が茂るジャングルには多数の枝道がある。日本人や韓国人らと何人かでつるんで走っては、はぐれたり離れたりしてしまった。同じところを行ったり来たりしていると、他のライダーも苦労しているのか、色んな人に出会った。

「道わかる?」と聞いても「まったくわからないよ!」という人ばかり。仕方なく当てずっぽうで進んではまた戻るの繰り返し。不思議なことに、それでも少しずつゴールに向かっているのだから、面白いものだ。

ちなみにこのLEG3終了後にトップに躍り出たのは池町佳生選手。ナビゲーション能力の高い池町選手は難解なコースをものともしない。コマ図と道を瞬間的に読む力も優れているが、おそらくカンも鋭いのではないだろうか。もちろん池町選手はライディングスキルも非常に高い。僕のようなライディングスキルがさほどない選手にとっては、このナビゲーション能力をもっと高めたいものだ。

学校の敷地内に設営されたチームジャパンのサポート地点には子供たちが集まっていて、すごく癒された。タイは子供も大人も動物も優しい。

LEG4ダイジェスト

8月12日(水)
スコータイ~プレ(全行程512.06km)
SS4/1 SRI SATCHANALAI~WANG CHIN(107.53km)
SS4/2 MAE TA~MAE KUA(86.95km)

LEG4はそれまでとうって変わり、路面も締まっていて走りやすい。途中にフォトグラファー&ギャラリーポイントの大きな水たまりもあり、楽しい気分で走れる。

しかし僕は、ウエアを汚したくない気持ちと、フォトグラファーに良い写真を撮ってもらいたい気持ちが交錯して、なんとも中途半端な走りになってしまった。

なかには最初から水たまりを走るつもりもなく迂回するライダーも。これはこれで潔い

4輪は、やはり豪快に水しぶきをあげて疾走! 地元のギャラリーも楽しそうに観戦していた。

順調に走っていると、左右に分かれる分岐点で現地の人たちがマップとは違う方向を指し示している。「ン~? 本当かな?」なんて思いながらその場に居あわせた日韓合同グループでそれらしき道を走るのだが、どんどん道幅は狭く、尾根のようなところに出てしまい、「さすがにこれは違うでしょ!」と引き返す。

しかし引き返したところで、正しい道も分からず、分岐点の人は相変わらず「そっちだ、間違いない、構わず行け(たぶんこんなことを言っていたのだと後で判明)」と言う。

正解が分からずそのへんをウロウロしているとタイ人のライダーが追いついてきて翻訳してくれた。どうやら正解のルートは川が深くて走れないから、迂回して行けと言っていたのだ。ということで、大勢で大きく迂回して、無事フィニッシュした。

ところが、僕らが迂回した川では、池町選手と昨年度優勝者の前田啓介選手が大変なことになっていた…。

腰よりも深い川で水没していたのだ。この悲劇的な状況でも怒涛のキックで復活。前田選手はカメラマンにピースサインで笑顔を見せる余裕。いや~サバイバル能力、ハンパない!

LEG5ダイジェスト

8月13日(木)
プレ~プレ(全行程380.58km)
SS5 RONG KWANG~MAE MAO(176.50km)

LEG5も面白かった。しばらく単独走行していると川が目の前に出現。日高2デイズエンデューロやJNCC月山などで川渡りの経験は決して少なくないのだが、前日の池町選手達の水没が頭をよぎったのか、「あ、ここは正しい道じゃない」と判断してしまった。実は川の向こう岸を見るとたくさんの轍があったのだが、水没への恐怖心で判断を誤ったのだ。

引き戻しているうちに石井さんと出会い、やっぱりこの川を渡らなければいけないと判断。石井さんはその場にいたタイ人ライダーをつかまえて、3人でバイクを渡らせる作戦を即時に選んだ。水流はわりと強く、足をとられてマシンを倒すと水没の危険もあるので、エンジンをとめて、マシンの両側で1台ずつ押すのだ。それも石井さんが瞬時に判断し、指示してくれた。いろいろ勉強になる!

ちなみに、こんな「いかにもラリーらしい光景」にもかかわらず、僕は写真を撮っていない…。先を急ぐ他のライダーに遠慮したこともあるけれど、なにより僕自身に余裕がなかったようだ。

その後は石井さんと走り、多少のハプニングはありながらも無事ゴール。今日は後半SSもキャンセルされたし、早くホテルについてマッサージに出かけよう! なんて考えていたのだが…。

ホテルへ向かうリエゾンで真逆の方向へ進んでしまい、石井さん、福村先生、僕の3人は300kmくらい遠回りしてしまった(笑)。途中のセブンイレブンの店員に現在地を聞いて愕然。まったくラリーに関係のない南西の街に僕らはいた。でもBAJAのベテラン60代の元気な方たちと走る「ツーリング」もなかなかオツなものだった。

リエゾンで出くわす光景もアジアクロスカントリーラリーならではの世界だ。そこにはかつて日本でも広がっていたような田園風景や、集落の佇まいがある。

LEG6ダイジェスト

8月14日(金)
プレ~チェンマイ(全行程281.81km)
SS6 LONG~MAE MAO(45.19km)

いよいよ最終となるLEG6。ラリーも終盤となると選手間に絆が生まれてくる。写真は福村先生と韓国のJUNG選手。

JUNG選手はいつも明るくてムードメーカー的存在。日韓の関係は世間的には良好でないムードが漂っているが、現場で共に汗を流し、ゴールを目指していたら、そんなものは吹っ飛んでしまう。やはり現場で生身の人間として向き合うのが一番だと、このラリーで強く感じた。

今大会もいろんなことがあった。赤土スリッピー地獄に涙目で走り、灼熱ジャングル迷路で迷ったり、本当に毎日が刺激的で記憶に残る。そんなラリーを楽しい思い出にするためにも、最後まで気を緩めず走り切ること。怪我なく、マシンを壊さず走り切らなくては!

ちなみにこれは僕も大変お世話になったHEO選手による、石井さんのマップホルダーステー。石井さんはステーを破損したらしく、HEOさんが「ちょっと待ってて」と、材料を切り出し、その場で作ったという! フィニッシュして疲れていただろうに、この優しさと持ち物の多さ(噂によるとビーフジャーキーも持参していたとか。僕もリエゾンでチェーンオイルを吹いてもらった)に、石井さんも感動していた。

泣いても笑ってもこれが最終SS。スタート前は自然と各国ライダーが集まり記念撮影。こんな経験をしてしまうと、ラリーはもうやめられない。

最終SSは距離も短く、難易度も高くはなかった。でも最後まで気を緩めてはいけない。2014年の最終SSで、僕は路傍の木に足をぶつけて靭帯を伸ばしそうになったり、道に迷ったり、あやうく前転しそうになったりと、実は危険な目に遭っていた。だから今回は慎重に、けれどそれなりに速く走る。

ラリーに慣れてくると、直線区間のコマ図は飛ばし、分岐点までの距離を頭に入れながら走る。ナビゲーションが上手くいってペースも上がり、思い通りに進んでいるときはなんとも言えない快感がある。この感覚はモトクロスやエンデューロとは違う独特なものだ。

ついにチェンマイ市内に戻ってきた。フィニッシャーメダルを授与されて喜びもひとしお。あちらこちらで記念撮影大会だ。

夜は恒例のパーティが開催される。公式ムービーのダイジェスト版に選手たちから大歓声。そして伝統舞踊ショーや受賞セレモニーがおこなわれる。

LEGを走り終えたら近くの洗車場で洗車してもらう。4輪は1台洗うのに時間がかかるから、なるべく早く洗車するようにしている。ここはめちゃくちゃ丁寧で、親切にもタイヤワックスまでかけられた(笑)。2016年は日本チームに待望の洗車機が用意される予定だ。

ラリーの翌日はチェンマイの近郊や市街地を観光。相乗りタクシーの「ソンテウ」で30分ほど走ると、有名な「ワット・ドイ・ステープ」がある。仏教国ながら、日本の建造物との違いなど、色々と新鮮な発見があった。日程に余裕がある場合は、大会前後に観光をすることをオススメする。

長いようで短かったアジアクロスカントリーラリー。2,500kmの行程はいろいろなドラマを生みながら幕を閉じた。そして2016年度大会も、すでにエントリーが始まっている。今年は新ルートとして、スタート地点のパタヤから海沿いを南下。さらに国境を越えてカンボジアへ。フィニッシュは世界遺産のアンコールワットというドラマチックなルートが予定されている。

2輪クラスは2016年で5年目を迎える。すでに多くのエントリーが集まっているようで、盛り上がることは必至。僕ももちろんエントリーする。

2015年の覇者、池町選手は、見事なナビゲーション能力とライディングスキルでAXCR2勝目をあげた。ここまで優勝は日本人が3回(池町選手2回、前田選手1回)、スウェーデン人が1回(O・オールソン選手1回)。果たして2016年は誰が勝つのか!?

エントリー期間は6月24日まで。エントリー費は1,700USドル(大会中の宿泊費、朝食、夕食、大会中のパーティ参加費用を含む)。

ドラマを作るのは、これを読んでいるあなた! ラリーが初めてでも大丈夫。一緒に冒険の扉を開こう!

第21回 アジアクロスカントリーラリー2016 開催期間 2016年8月14日~20日

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