AXCR2015 参戦レポート Vol.01 マシン準備とチェンマイ到着編

掲載日:2016年03月07日 エクストリームラリー    

取材協力/アジアクロスカントリーラリー日本事務局  取材・文/宮崎 大吾

Asia Cross Country Rally 2015 Special Report

2014年の初挑戦に続き、2015年も完走を目指して疾走した。初年度の失敗を糧に対策してきたこともあれば、新たに生まれた課題もあった。そんな筆者の参戦レポートが、これからアジアクロスカントリーラリーに挑戦しようというライダーのお役に立てれば嬉しい。まずは、参戦マシンや準備を紹介しよう。

「ラリーは人生の縮図」

そう教えてくれたのが、モトクロス国際A級ライダーにして、その後日本初のトランスポーター専門店『OGUshow』を立ち上げた小栗伸幸氏だった。小栗氏はダカールやUAE、オーストラリアなど数々の国際ラリーを経験しているベテランライダー。その小栗氏に、ラリーの魅力や参戦する際の心構えをお聞きしたら、この言葉が帰ってきたのだ。

2014年。その言葉の意味を、僕はスタート直後に知ることになる。スタート地点まで迷いに迷い、その影響もあって、SS1途中でガス欠を喫した。内心パニックになりながらも、なんとかなると覚悟を決めていたら、地元の村人達に助けられた。

その後、単独走行で完全に道をロスト。自分がどこにいるのか分からなくなった…。それでも後続スタートの4輪を追いかけ、正しい道に復活した。初日を完走してホテルに戻ってきたときの安堵感といったらなかった。

しかしこのラリーで知り合った初参加組のライダーは、まだホテルに帰っていない…。彼らはさらに激しく道に迷い、リタイアを覚悟しながらも村人に助けられたりと、奇跡的に復活。日が暮れてから帰還した彼らと出会い、自分のことのように喜んだ。

最後まで何があるか分からない。どんなトラブルが待ち受けているのか、どんな素敵な出来事が待っているかも分からない。毎日、必死に完走を目指す中で見えてくるのは、人との絆や、国籍を超えて尊敬できる想いだった。こんな魅力がラリーにはあったのか!? と、40年以上生きてきて初めて感じた想いがあった。そして自分の性格、生き方も反映されやすい競技だな、と改めて感じた。

大げさに言えば、日頃の生活態度や性格が、ラリーの期間中に現れる。運の良い人や勝負に強い人は何が違うのか。そんなことも日々考えさせられるのだ。それは人生観と言ってもいい。

前置きが長くなってしまったが、すっかりアジアクロスカントリーラリーの魅力にはまった僕は、20周年を迎えた2015年大会にも参加した。

今回のレポートで紹介したいのは、マシンと装備の内容だ。2年目ということで改善した点もあるし、「持って来て良かった!」というものもあったので、ぜひ紹介したい。

まずはマシンについて。2015年はハスクバーナFE450(2015年型)で走った。2014年は同じくハスクバーナのFE501で参戦した。この2台は基本的には同じ車体を持ち、エンジンの基本構造も同じで、特性もほとんど変わらない。結論から言えば、このアジアクロスカントリーラリーには、どちらも最高のマシンだ。

その理由としては「ちょうど良いパワー感と取り回しの良さ、優れた走破性能」が挙げられる。ラリーと言うとダカールなどに象徴されるように、フルカウル車両のラリー専用マシンをイメージする人も多いと思うが、このラリーはアジア特有のテクニカルでタイトな路面を走るため、イメージとしては国内エンデューロを走破できるくらいの軽快性が欲しい。

そして時に川渡りや軟質マッド、ハードパックからガレ場、轍など、あらゆる路面での走破性が求められる。細いトレイルの中で道に迷った際には、小回りの良さも必要だ。一方、リエゾンやカンボジアの高速ダートを楽に走破するための排気量とパワー。それらすべてが備わったマシンが、このFE450やFE501なのだ。

さらに言えば、整備性の良さと壊れにくさも重要だ。完走するためにはとにかく壊れにくいことが大切で、ハスクバーナはその点で非常に優れている。そして整備性の良さは、すなわちライダーの肉体的、精神的疲労の軽減につながる大事な要素だ。

ラリーはその日の全行程を終えてホテルに帰還したら、なるべく陽が暮れる前までに整備を終わらせたい。まずは洗車。そしてオイル、タイヤ、エアフィルターなどの交換、各部の給油などを行なう。僕の場合は基本的にはこれだけで済んだ。マシントラブルを起こしたライダーは、翌日のスタートまでになんとか修理する。

整備を終えたらようやくホテルにチェックイン。シャワーを浴びて夕食だ。本部受付で翌日のコースマップをもらい、コマ図の変更点が無いか、などを掲示板で確認。蛍光ペンなどでコマ図の注意ポイントをメモしたら、車両のマップホルダーに巻き付けてようやく終了。

僕の場合はウェブレポートも書いていたので、就寝は0:00を過ぎることもあった。そして翌日は4時台には起床しなければならない。だからこそ、1分1秒でも整備時間を短くしたいのだ。その意味で、たとえばハスクバーナのエアフィルター交換のイージーさは、ライダーにとって有り難い以外の何者でもない。

マシンにはハスクバーナ東名横浜オリジナルのウインドスクリーンを使用した。と言ってもスクーター用のスクリーンを加工流用したものだが、その効果は絶大だった。まず毎日のリエゾン(高速移動区間)での疲労軽減。風防効果による身体への風圧軽減は計り知れないものがあった。さらに雨対策という面でも効果的。前方からの雨の侵入でコマ図の紙を破いてしまったり、トリップメーターへのダメージを軽減する意味でも必須とも言えるアイテムだった。3回ほどの転倒でスクリーンを割ってしまい、取り付け部も振動で緩んでいた。2016年はフレームマウントにするなど検討中。

2014年同様のf2rマップホルダーと、rc-7トリップメーター。右が区間距離用で左が総距離用だが、2015年は総距離用のみしか使わなかった。タイヤ周長自動補正機能やガソリン残量表示など多機能な製品なのだが、実は僕自身のテスト経験不足ということもあって、2年連続で「EASYモード」を使用。それでもラリー完走には十分な機能とも言える。

ライダーにとって大切なハンドル周り。ハスクバーナの純正オプションパーツには、転倒時の破損を防ぐ可倒式フレックスレバーやハンドガード、手の負担を軽減するグリップドーナツなどがあり、これらはラリーでも大変重宝した。

破損防止の要となるのがエンジンガード。多少の重量増にはなるが、エンジンへのダメージを防ぐため、サイドまでカバーする頑丈なアルミ製アンダーガードが必須。欲を言えば、毎日のオイル交換のために、脱着しやすいものが望ましい。

ラリーではチェーントラブルもよく起こるトラブルのひとつ。エンデューロでもおなじみだが、チェーンガイドは樹脂製の変形するタイプに換装することで、ヒットによる致命的なダメージを防ぐことが出来る。これもハスクバーナ純正オプションパーツとして購入可能。

エンジンオイルとオイルフィルターは毎日交換した。銘柄はハスクバーナ指定オイルのBELRAY『THUMPER 10W-50』。SSに加えてリエゾンの長距離移動も多いラリーにおいて、熱ダレの少なさや金属ダメージの軽減は重要。BELRAYは安心して使用できるオイルだ。

バッグパックに入れる物の選択も重要。携帯工具や結束バンド、補習用テープに加えて持って行ったのが、金属のように硬化する修理パテ、クイックメタルだ。僕はまだ使ったことがないのだが、転倒時にラジエターを破損したラリー仲間の補修に使用し、無事完走出来た事例もあった。

携帯工具も奥深い世界だ。ハスクバーナの純正工具は、使いやすくコンパクトで、かなり評価が高い。プラグレンチを兼ねたスパナや、コンパクトで使いやすいソケットレンチなどが秀逸。

こちらは僕が日頃から愛用しているタイヤ交換セット。メッツラー製などムース専用のレバーや専用ジェル。そしてタイヤチェンジャーがあれば、短時間でのタイヤ、ムース交換が可能だ。ちなみに2日目まではチェンマイの軟質路面に対応するため、あえてムースではなくヘビーチューブを使用した。

実はこれがとても大事。ワセリンをお尻に塗っておくと、長距離走行でのお尻の傷みがかなり軽減される。実はエンデューロやモトクロスのトップライダーも愛用しているのだ。

日本からタイへの船便では、頑丈で大きなボックスに必要な備品や工具などを入れて送る。ラリー期間中も毎日このボックスを移動して使用する。僕はこれくらいのボックスを2個使用した。あまり大き過ぎるとトラックへの収納や取り出しが大変になる。

2014年は標準タンクのままガソリンを携帯しながら走ったが、その重さによる疲労やストレスの経験を踏まえ、2015年は容量15Lほどのビッグタンクに換装。ボリューム的にも最適なサイズだった。ただ、同じタンクを使用したラリー仲間が転倒時の打ち所が悪くタンクを破損してしまい、急遽僕が持っていた標準タンクに変更して難を逃れたことがあった。従って余裕があれば予備タンクも持参した方が良いかもしれない。

タイヤは2014年と同じくIRCのBR-99(後輪)、ix-07S(前輪)のセット。BR-99はブロックの減りが早いもののグリップ力に優れているので重宝している。このラリーでのあらゆる路面に対してハマッてくれる。中身は後輪がウルトラヘビーチューブとエンデューロ用新品ムースの使い分け。前輪はエンデューロ用新品ムース。長距離走行をおこなうラリーでは、へたったムースを使用するとスポンジの破損などのリスクも生じるので、なるべく程度の良いものを使用している。

なにかと背負う荷物が多いラリー。FOXのオアシスパックは荷室容量が約4L、ウォーターパックが約3L。ウエストバッグにはスタート前に配布されるタイムカードや携帯電話、携帯カメラなどを収納し、バックパックに飲料、携帯工具、携帯食料などを装備。もちろんバッグ本体のレインカバーやジップロックなどを使って防水対策も確実に。

次に、現地での準備から車検について。参加ライダーは土曜日に車検とセレモニアルスタートがあるので、逆算すると金曜日は整備などに充てたい。ということで、僕は木曜日の明るい時間に現地入りしてタイ特有の気温に体を慣らすと同時に、自分のマシンや荷物のチェックを行なった。

その後、ノーマルからビッグタンクへの換装、スポンサーステッカーの装着などを済ませて車検へ。ホテル内でのブリーフィングを経て、夕刻にセレモニアルスタート会場へ移動。そしていよいよセレモニアルスタート、という流れだ。

現地入りした木曜日、ホテルに到着したらさっそくHQ(大会本部)へ行き、受付を済ませて大会スポンサーのステッカーを受け取る。

これらの大会スポンサーステッカーは、2輪4輪ともに指定位置に貼らなければならない。4輪と違って「面」が小さく複雑な形状の2輪は、その貼り付け方に苦心するところ。

2015年から大会スポンサーとなった日本の老舗工具メーカー『VESSEL』(ヴェッセル)。参加賞としてドライバーやハンマーなどが振る舞われた。同じくスポンサーの『FB』(古河バッテリー)からは、参加者全員分のバッテリーが支給されるなど大盤振る舞いだった。

大会中はウインカーやミラー、ブレーキランプなどの灯火類装備の義務が無いので(走行許可書のコピーを携行)、灯火類の作動確認をしっかり点検する日高2デイズエンデューロの車検に比べればだいぶ気持ちに余裕がある。

車検も終えて準備万端! ということで、チェンマイのナイトバザーに繰り出した。シャツや名物のキャンドルなど、お土産を売る屋台が所狭しと並んでいる。屋台やレストランの食事も美味しく、リラックス出来る街だ。

あまりにも心に余裕がありすぎたのか、なんとセレモニアルスタートから帰還後に、フロントタイヤの中身をノーマルチューブからムースに変更していないことを思い出した(汗)。誰も居なくなった夜のパドックエリアで、こっそりタイヤ交換することに…。

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