AXCR2015 取材レポート スポット写真で振り返るタイの6日間

掲載日:2016年02月23日 エクストリームラリー    

取材協力/アジアクロスカントリーラリー日本事務局  取材・写真・文/田中 善介(BikeBros.)

Asia Cross Country Rally 2015 Special Report

海外ラリーは冒険心を掻き立てる絶好のフィールドだ。競技者ではなく「追っかけ」の立場でもまた、それと同じように感じるときがあった。同じ景色を再び見ることはなく、刻々と変わる状況を把握し、全身で空気を感じながら目的地へひた走る。そんな6日間を、写真とともに振り返ってみたい。

一度通り過ぎたらもうおしまい
いくつもの偶然が重なり合った一瞬がすべて

サーキットやオフロードコースのような周回コースとは違って、A地点からB地点へ移動するラリーの場合(スタートとゴールが同じループもある)、言ってみれば設定されたルートを「駆け抜けるだけ」だから、同じ場所でじっと待ち構えていても誰1人戻っては来ない。

その距離は最短で281km(最終日)、最長で512kmにおよび、ライダー(ドライバー)たちは朝から日暮れ前後まで走り続ける。何のトラブルも無く明るい時間に次の目的地へたどり着ければ御の字だ。

そんな彼らをキャッチするには、スタートより1~2時間早い夜明け前にホテルを出発して、ルートマップを見ながら「ここだ」というポイントを探す。期間中は毎朝このパターン。

気持ち良くて格好いいシーンを切り撮りたいから、待ち構えるならSS(スペシャルステージ)だ。ときにはSS出口(チェック地点)から歩いて進入し、先頭のライダーを写真に捉えたらそのまま歩いて出口へ戻りつつ、背後からやって来るライダーをキャッチする。

SSは基本的に未舗装路で、だいたいぬかるんでいた。それでも今年は雨が少なく、標高の高いルートはカラカラに乾いた埃っぽいダートだった。そんな道を自分の足で移動するわけだから、なかなか思うようには進めない。ちょっとハードなトレッキングといったところ。

タイの山中でカメラ片手に景色を眺めながら歩いていると「もっといい場所、この先にもっといい場所があるかも…」と、戻ることも忘れて数kmは歩いてしまう。カメラバッグには水のペットボトルも数本突っ込んでおく。それにホテル近くのコンビニで買ったビスケット数枚。最低限の備えはこの程度だ。

クルマでSS内に進入すれば移動は楽だが、2輪だけではなく4輪も含め、全競技車両が通り過ぎるまでは絶対に動いてはいけない。取材者が事故の原因となっては情けない。したがって、クルマは移動が楽な反面、望むシーンはあまり撮れない。

SS区間の距離は130~180kmほどで、PC(パッセージコントロール)の入口か出口のどちらかから攻めるしかない。歩いてこの距離をトレースすることは到底無理だから、この方法がベターだ。ふと「バイクがあったらな~」と、思ってはいけないことを考えるようになった。なぜなら…

歩くのもままならないヌタヌタの山岳路で、カメラバッグを背負ってバイクに跨り、100km以上の距離を無傷で素早く走り抜ける自信なんてまったく無いからだ。それが出来たらコンペティターとしても十分な実力があると思う。

MOTO部門(2輪)は4輪より先にスタートし、全車出走したところで40分の間隔を空けて4輪がスタートする。つまり、4輪がスタートする前にPC地点を抜けないと、後続車の障害になってしまうし大事故の原因ともなる。

がしかし、そうやって「走りたい」と思わせてしまうのも、本大会の魅力のひとつなのかもしれない。

結局足で稼ぐしかないので、クルマを降りてのこのこ歩いていると、たまに畑へ向かう現地の人とすれ違う。そしてそれと同じくらい犬とも遭遇する。おそらく飼い犬だろうけど、首輪は無いし飼い主と歩いているわけでもない。そんな彼ら(犬)と山中でばったり出くわすと、お互い警戒モードで威嚇合戦になることもある。彼らと競争しても勝てる気がしない。

牙をむき出して唸るワンコ相手に「さてどうしたものか…」と、無意識にレンズを向けると相手は一瞬怯(ひる)む。カメラが唯一の武器のようだ。しかしそんな威嚇が何度も通用することも無く、ジリジリと間合いが詰まっていく。そこへ「ブバー!! ドゥルドゥルッ!! ブォー!!」とバイクがやって来る。「助かった~」と思う瞬間だ。ワンコはそそくさと逃げていった。

だいたいどこへ行っても似たような攻防戦があって、幸いお互いを傷付けあうことは無かったが、彼らの縄張りに侵入してきた人間に対する反応はいたって正常だった。

初取材となる2015年大会では、事前の調査、準備、段取り、根回しなど数々の不足が重なり、2輪専用の移動車両は用意が無く、日々誰かしらの乗り物に便乗していた。基本的には初日に紹介してもらったアイリッシュのカメラマンと行動を共にしていたが、やはり外人、自由と言うか合理的と言うか自分勝手と言うか…何度か置き去りにされた。一緒に移動して来たが、撮影を終えてクルマに戻ってみるとその姿が無い。

呆然と突っ立っていても仕方ないので何とかする。ときには現地の「ライダー」とタンデムしたり…

荷物満載の4輪チームの取材クルーにお願いして「載せて」もらったりして、うまいこと大会に合流していた。今となってはいい思い出だが、たまたまそこに居合わせた人のおかげで何とかなっただけで、もし誰も居なかったら…そう考えるとゾッとする。最悪でもスイーパー(最終競技車の後ろを追いかけるオフィシャルカー)に拾ってもらえれば無事戻れるだろうけど、そのスイーパーを笑顔で見送ったことが何回かあったのも事実。

実は競技者も同じで、1週間彼らと行動を共にするなかで、ときにはトラブルや事故に遭いながらもお互いサポートし合ってラリーそのものを楽しんでいるように見えた。彼らの目的や目標はそれぞれだと思うが、取材者の立場で言うと、そんな「彼らの姿を記録して少しでも多くの人に伝えることだ」と信じて臨んできた。

結果としては、AXCR初参加となる2015年の取材は乏しいものだった。その傍らで、本大会の公式レポーターとして数名の日本人が撮影と取材に臨んでいたが、あの状況でデイリーレポートを発信していたとは驚いた。後に話を伺うと「どうしても4輪がメインの取材になってしまったが、MOTO部門のコンペティターにも話を聞くと、4輪とは違った話が聞けて新鮮だった」と言う。

2016年大会では、さらに各国からMOTO部門への参加台数が増えることがわかっており、主催者の口からは「MOTO部門の専門取材チームを組まなければ…」との話もあった。2輪と4輪の両方を追いかけることは物理的に不可能なのだ。

2輪は4輪に比べて機動性も高く素早いので、毎日MOTO部門が先にスタートし、4輪が追いつく前に目的地へたどり着く。だから4輪を待てば2輪が過ぎ去ってしまうし、2輪を追えば4輪を見ている暇は無い。

2016年大会のルートと日程は1月16日に発表され、参加選手やチームはもう動き出している。8月13日に公式車検やセレモニーを行ない、14日にタイのビーチリゾートであるパタヤをスタートし、国境を超えてカンボジアのアンコールワットで19日フィニッシュとなる。

結果はどうであれ、ラリー最終日には誰もが大きな達成感を味わい、充実した濃密な時間をまた感じるべく再びラリーに臨む。

今回の取材ではいまだかつてない状況に面食らいながらも何とか先へ進み、その過程で得られた知識や経験は貴重な財産となった。無事に取材を終えたときの達成感や充実感はとても美味だし、きっとラリーストたちも同じように感じているのかもしれない。未知に臨むことは新たな発見があって面白い、面白過ぎるのだ。

参加者の国籍を問わず、彼らの姿を見て自分がこのラリーにこれほどワクワクするとは正直思ってもいなかった。競技者になりたいというわけではなく、あくまでも取材者の立場で、再びAXCRに臨んでいきたいと思うようになった。そしてもっと多くの日本人ライダーがこのラリーに参加し、チャレンジャーとしてモータースポーツに挑み、その魅力が少しでも日本のライダーに伝播すれば…と願っている。

アジアクロスカントリーラリー公式サイト >>
※2015年大会のデイリーレポートやリザルトは公式サイトをご確認ください。

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