アメリカンライダー クーパー・ウェブが全日本モトクロスに参戦

アメリカンライダー クーパー・ウェブが全日本モトクロスに参戦

掲載日:2014年11月07日 エクストリームモトクロス    

取材・写真・文/ダートライド編集部  取材協力/ヤマハ発動機株式会社

AMAモトクロスでシリーズランキング3位
異人が見せつけた驚異的モトクロスライド

2014年の全日本モトクロス選手権も終わりが近づいてきた頃、その最終戦SUGO大会にアメリカから強力な刺客、クーパー・ウェブ(C・ウェブ)選手が参戦する報が入ってきた。ノースカロライナ州・ニューポート出身の彼は、Yamalube Star Yamaha Racingに所属する18才のルーキで、若手が多く活躍する250ccに2013年シーズンから参戦。デビュー前から注目されていたライダーだが、まだ2年目である2014年シーズンに大爆発。AMAモトクロスでシリーズランキング3位という戦果を残した。

全日本モトクロス選手権の最終戦は、以前から海外招聘のライダーが多く参戦するラウンドとして定着していたが、バリバリのAMA勢が参戦してきたのは筆者の記憶では2000年のセバスチャン・トーテリ(ホンダ)、エルネスト・フォンセカ(ヤマハ)、ブライアン・エミッグ(スズキ)、ミカエル・マスキオ(カワサキ)、チャド・リード(カワサキ)以来。プロクラスデビュー2年目にしてランキング3位に着けるルーキーライダーが、その年に来日するのはビッグトピックスだ。

ダートライドでは、開催ウィーク金曜日から現地入りをし、彼と直接話しをする機会を得られた他、土曜日・日曜日とみっちり彼のライディングを観察することができた。レース前の、これからコースウォーク(下見)をするという金曜日に彼と少し話をさせてもらえて見てきたことは、まず彼の生い立ち。C・ウェブ選手がモトクロスとの接点を持ったのは、アメリカでは一般的なのかもしれないが、なんと4才。この歳でモトクロスバイクに乗り始め、翌年には早くもレース参戦。そして初出場でいきなり初優勝してしまうという、すでにこの頃から只者ではない片鱗を見せつける。その後も順調にモトクロスライダーとしてのキャリアを築き、アメリカで言うプロレース、AMAシリーズにデビューしたのが2013年。2年目である今年(2014年)は、AMAでアウトドアを指す『モトクロス』シリーズで4回の優勝を果たした。

土曜日の予選、トラブルもありややリザルトは振るわなかったが、コースや日本の風土に身体をアジャストするための準備時間であろう。

タフさが求められるモトクロスでの勝利
そこに至るまでのひたむきな努力

C・ウェブ選手によると、特にこの『モトクロス』には拘りがあるようで、近年では特にスタジアムでの屋内レースになる『スーパークロス』のほうが、興行的にもスポンサー的にも注目されているが、あちらがショートレースになるのに対し、オールドスクールである『モトクロス』は長い時間のタフなレースとなり、またそれが2ヒート制になる。その違いにおいて、スーパークロス vs モトクロスがよく話題に上るが、C・ウェブ選手は強いて言えばモトクロスが得意だし重要と見ているという。それはやはり長時間に渡るレースは、肉体的・精神的に求められるものが多く、そこで勝利してこそモトクロスライダーである、というものだ(彼は、「青年であるか少年であるか」と例えてくれた)。スーパークロスで不発だったわけではないが、モトクロスでシーズンを通して優勝を重ねた彼の姿勢が伺える。

そんなC・ウェブ選手、全日本モトクロス選手権最終戦にはAMAで慣れ親しんだ4ストローク250ccではなく、4ストローク450ccでの参戦だった。ただ、これは試験的なものだったようで、アメリカでの参戦は250ccでの契約があと2年残っているという。体力的に求められるものが別次元と言われている4ストローク450ccでの参戦にあたり、C・ウェブ選手はとにかく身体つくりのトレーニングに励んだとも話してくれた。アメリカのプロでは一般的だが、彼も専属のトレーナーを雇っていて、ガリス・スワンプールという人物に食生活から日々の身体つくりまで、トータルで見てもらっている。アメリカのスポーツ界では、より高いところに行くには科学的アプローチが不可欠という考え方があり、スポーツトレーナーがプロとして食べていける土壌がそもそもあるという。特にC・ウェブ選手は体格が小さいということもあり(身長約170cm)、450ccに乗るにあたり筋力トレーニングに集中。AMAモトクロスが終わったあとは3週間ほど休んで、そこからバイクには乗らず身体を鍛えた。

決勝2ヒート制となった日曜日。ヒート1はスタートでやや集団に埋もれるが、周回を重ねるごとにペースアップ。走るほどにコースに適応していく。

C・ウェブ選手の motto は
「楽しんでいる時こそ一番速いんだ」

450ccに乗るにあたり、このような姿勢で挑んだC・ウェブ選手。レース前だったので週末への豊富を尋ねたところ、「土曜日はとにかくトラック(コース)をよく知ることだ」と、未見のコースを走るプロらしい受け答え。決勝となる日曜日については、「楽しみながら勝利を目指す」という驚きの言葉を返してくれた。その心持について聞いてみると、C・ウェブ選手には motto として(日本で言う座右の銘)「楽しんでいる時こそ一番速いんだ」というものがあり、それをSUGO大会でも変わらず目指すということなのだ。なんとも心強いというかタフというか。

迎えた土曜日の予選は、まだ乗りなれない450ccマシンに加え未見のコースということで、タイム計測では抜群の数字を出したが本番の混走ではやや中盤に埋もれる。途中、アクシデントもあり期待されたTOPでのフィニッシュはならなかった。しかしこの後、AMAで好成績を残す彼の能力の高さを見せつけられることになる。日曜日の本決勝は午前にヒート1、午後にヒート2の2ヒート制。ヒート1はスタートで先頭集団に飲み込まれるが徐々にペースアップ。中盤からは完全にスポーツランドSUGOのコースに身体をアジャストさせ、完璧なレース運びを展開。ヒート2ではなんとスタートから綺麗に飛び出し(ホールショット)、文句なしのぶっちり優勝となった。

ライダーたちが海外のレースに参戦した時、筆者はよくこのコースへのアジャスト能力(適応力)に注目するが、C・ウェブ選手はやはりその能力に秀でていると私の目には写った。金曜日のコースウォークから含め、本戦に向け徐々に身体をコースや土質に合わせていき、持てるパフォーマンスをすべて発揮できるよう完璧に調整。ただ速いだけでは勝てない、プロの世界を垣間見た一瞬だった。ただ、C・ウェブ選手についてはそれ以上に、レースを楽しんでいるその姿が印象的だった。彼は金曜日のインタビュー時、今回の参戦について、「日本に招いてくれてありがとう。日本でレースをするのも、多くのファンに合うのもとても楽しみだし、やはり新しいところでレースをするのは楽しいよ」と話してくれた。常にモトクロスを楽しみながら走る。そして、その時が一番速い。C・ウェブ選手の motto をあらためて感じた、決勝の走りであった。2015年はさらなる活躍を見せてくれることだろう。

そのヒート1の表彰台。最終的に見事お立ち台の真ん中に立った。彼の後ろに見えるのは、かつての名ライダーで現チーム監督になる、スティーブ・ラムソン氏。

ヒート2はスタートからTOPで飛び出し、ミスのない完璧なレース運びを披露。マシンのセッティングも変えてきたという。そのアジャスト能力は見事だ。

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