カブ生活

第四十五回「築地のカブ」

掲載日:2016年04月07日 原付漫遊記松本よしえのゆるカブdays    

え・文・写真/松本よしえ

2016年の11月に豊洲へ移転する築地市場。名残を惜しむ人が連日押し寄せる場内で、活躍するカブを追いかけました。

市場移転まであと8ヵ月。築地といえば近ごろはテレビやネットにもたびたび登場し、気になる方も多いでしょう。現在の築地市場は1935年(昭和10年)に開設され81年をこの地で歩んできたことになります。かつて市場の場内はプロや業者のみ、場外は一般向けの小売りもOKという区分がきっちりとありました。現在も公的に場内は業者のみというお触れが出ていますが、一般消費者も積極的に場内で買い物をするようになり、午前9時近くになれば一般客の姿が目立つくらいなのが実情。あくまでも買い物をするのが前提ですが。

で、かくいうわたしも築地へは旬の魚介類や乾物を買いに、また食堂などで築地グルメを食べてきた思い出があります。さらにカブに乗るようになって、築地へはカブで走って行くのが当たり前になりました。ちなみに築地のカブ率は高いですよ。働くカブがいっぱい。市場ではターレ(ターレットトラック)と呼ばれる動力付きの立ち乗り運搬車が縦横無尽に走り回っていますが、そのターレの動力の大半はいまやエンジンからモーターになり、かつての「ばたばた」音が聞こえなくなりました。それでもカブは昔ながらの姿のまま。昭和を背負って走り続け、カブ好きにはうれしい光景をあちこちに見かけます。

ちょっとマニアックかもしれませんが、たとえばサイドカバーに屋号がペイントしてあるヤツ。しかも素っ気なく手書きなのがミソです。これ、かつては近所の商店街の八百屋や蕎麦屋で見かけたのですが、近ごろはすっかり消えてしまいました。場内で見かけて思わず駆け寄ってみれば、刺身などに添える“つま”専門店の商用カブ。レッグカウルにも縦書きで「つま長」の屋号が堂々と書かれていました。ほかにもピカピカの真新しいプロカブに「直寿司」と白書きされたのを始め、場所柄もあってか寿司屋の大将が仕入れと出前の足にしているカブは屋号ペイントをけっこう見かけます。そんな大将の一人は、「俺は16歳からずっとカブに乗ってるよ、これが一番っ!」ですって。おそらく60代後半か70代前半とお見受けする大将で、これまで浮気することなくずっとカブを乗り継いできたそうです。「もう何台目か忘れたよ~」とのことですが! きっとカブは空気みたいな当たり前の存在で、まさに”足代わり”なのでしょう。

ほかにも荷台という呼び方がピッタリくるようなリアキャリアにも目を奪われます。木製の手作りスノコ台で後方へ延長しているのや、これまた屋号付きの発泡スチロールのトロ箱を黒い平ゴムでギューッと縛って括り着けているのやら。築地市場で真摯に働くカブを目撃するたび、心を鷲掴みされてしまいます。こんな「THE 昭和」な混沌とした光景も豊洲に移転すれば見られなくなると思うと、つい通ってしまうのです。近ごろは旬の魚とカブ、どっちが目当てなのか。すっかりわからなくなりました。

最後に! 築地ではくれぐれも路駐はしないでください。迷惑はもちろん、歩道に寄せて上手に留めたカブが、あっけなくレッカー移動されるのを目撃しました。近くには公共駐車場があるのでネットなどで調べてご活用くださいね。

場内の「つま長」前で。手書きの屋号ペイントはサイドカバーとレッグカウルに。力強く目立っています!

左上から時計回りに/黒い平ゴムの掛け方は織物のようでお見事!/場内は鍵付き放置のカブが多い!?/屋号付きの木製トロ箱に歴史を感じます/寿司屋の大将が、「寒い季節はマスクが必需品だね」って

こちらの記事もおすすめです

この記事に関連するキーワード

新着記事

タグで検索