カブ生活

第六回「五島うどんの地獄炊き」

掲載日:2012年04月25日 原付漫遊記松本よしえのゆるカブdays    

え・文・写真/松本よしえ

カブの道は一日にして成らず。気がつけば都内は桜がヒラヒラと散り、緑の葉がまぶしい頃。入社式に臨むらしい真新しい紺色スーツ姿の若者が緊張した面持ちで歩いている。その横をカブで「ばばばっ」と走り抜けながら、わたしのカブ90をこれからどーしたものか…ゆるゆると考える日が続いております。

さて、前号につづいて長崎県の上五島! 島では働くカブがまぶしかった。海が近いため潮風にやられて少々サビサビなのはご愛嬌。早朝、白い砂浜が美しい蛤浜の海岸に向かうと、すれ違いざまに目が合ったカブのオジサマは日焼けの顔でニカッと笑う。荷台にキリリと巻いた幅広のゴムバンドからは、「荷物ならいつでも積めるよ!」的なやる気がムンムンと伝わってくる。島のカブは荷物が積めて当たり前。カゴ付き、箱付きもやたら目に付く。なかには荷台後方に大きく箱がせり出す仕様(!?)もあって、重い荷物を積んで走り出したら尻餅をつくんじゃないかと、見ているだけでドギマギしてしまう。

かつて鯨漁で栄えた有川の町では、黄色いカゴのカブに出合った。「お食事処 松乃家」の前に停まっている出前号だ。店のご主人は昼時ともなれば、常連のお客さんの元へとカブで配達に走り回る。そのカブのメーターを覗き込んだら、走行距離が54,540キロ! これ、島内だけを走った距離としては凄くないですか? 聞けば、他の車種に浮気したこともあるけれど、「やっぱりカブがいいんだよね」とご主人。今後もカブ以外は乗らないと決めているそうだ。

ところで、上五島にはピンク色のカブがいるらしい。島を旅する前からウワサを耳にして、滞在中はキョロキョロしておりましたが、残念ながら出合えず。でも、諦めきれなかった。そこで情報元の島在住“かんころもちライダー”さんに撮影をお願いしたのがこの写真。オシャレなピンクカブさんです! それも女性のオーナーさん。働くカブが大勢の島で、さぞ目立つことでしょう。車体から潔くキャリアを外し、カットレッグシールドに交換すると、ずいぶん印象が変わるもの。なんたってピンクのフル塗装だし! このカブは通勤用だとか。ああ、走っているところをぜひ、ナマで見たかった。

■五島うどんの地獄炊き

五島うどんは五島を代表する特産品だ。一説には遣唐使によって製法が大陸から伝わり、そのまま島に根付いたといわれている。うどんの生地を延ばしては麺の表面が乾かないように島特産の椿油を塗り、丸二日かけて仕上げる手延べうどんだ。島の家庭では日常的に食べられていて、ざるうどんのような食べ方のほかに「地獄炊き」という独特な食べ方がある。これは五島うどんを茹で、熱々の鍋ごと食卓へ運んで食べるもので、鍋のなかでグツグツと茹だる様子を地獄に見立てたのかもしれない。鍋からうどんを直接手繰るのは、かつて半農半漁だった島の暮らしにかなう食べ方だともいえる。人によっては行儀が悪い食べ方に感じるだろうが、大鍋を囲んでうどんを手繰るのは楽しいし、充分な熟成と椿油のおかげか、のびにくい麺だと感じる。つけ汁は焼きアゴ(トビウオ)のダシが基本。玉子と醤油、薬味で玉子かけごはんのように食べるのもオススメだ。五島うどんはツルツルとノド越しがよく、間違いなくクセになる麺だ。

有川の「松乃家」のご主人と出前号。このカブが島内を走り回って54,540キロ!

上五島に咲く花一輪! 滞在中、ピンクのカブ子さんには会えなかったので、島在住の“かんころもちライダー”さんに撮影して頂きました。

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