新しいコンセプトのミニバイクとして、高い人気を博しているホンダグロム。カスタムシーンも過熱中で、数多くのパーツが揃い百花繚乱の様相を呈しているが、真打ちと言って差し支えない逸品が今回紹介するNRマジックのグロム用パーツだ。
NRマジックはミニバイク専門のパーツメーカーで、数々の高性能パーツをラインナップ。レース活動にも積極的で、多くの実績を残してきた実力派だ。看板パーツであるマフラーには、NRマジックだけのユニークな設計思想が盛り込まれている。中でも特筆すべきはPVS(Power Valve System)だろう。PVSはサイレンサーにリードバルブを内蔵し排圧をコントロールする、特許取得済みのNRマジックの独自技術だ。
1本のマフラーで、すべての回転域でベストな特性を持たせることは難しい。そのひとつの解決策が排気デバイスだ。排気デバイスは、機械的にマフラーの容積や経路の太さを変えることで、1本のマフラーで複数の異なった特性を持たせるメカニズム。ビッグバイクの純正マフラーが排気デバイスを採用する例が多いことが、その有用性を証明している。その排気デバイスと同様の効果を、マフラー単体で実現しているのがPVSなのだ。
更にPVSの効果の秘密に迫ってみよう。エンジンは断続的に排気ガスを送り出すため、そこに脈動が発生する。その脈動をコントロールすることで、混合気の排気ポートへの吹き抜けを防ぎ、充填効率を向上させる。これこそがPVSの狙いなのである。PVSの開発者である、NRマジック代表の中里さんは、こう語る。
NRマジック代表 中里芳郎さん
十代の頃からミニバイクレースで活躍。チューニングも自ら手がけ、その速さが評判を呼び19歳でNRマジックを設立。オリジナリティ溢れるパフォーマンスパーツを次々とリリースし、“エジソン中里”の異名をとるアイデアマンである。
V-JET グロム “PVS”のインプレッションはストリートで行った。繋がりが良好なパワーデリバリーは、ワインディングでも武器になる。クローズドコース(平地)での計測結果では、サブコン無しで最高速118km/hに達しているという。
「PVSの基本設計を思いついたのは25年程前のことです。ミニバイクレースに全力で取り組んでいて、とにかくバイクを速くしたいという一心で捻り出したアイデアでした。その当時も効果は確認できていたのですが、主に素材の問題で耐久性に難がありました。5年程前に、現代の技術と高性能な素材を使えば、もっと完成度の高いものに出来るのでは? と考え、再びトライして完成したのがPVSなんです。通常の排気経路とリードバルブを併用してみたり、リードバルブの枚数を変えてみたり……。様々なテストを繰り返して、ようやく納得いく性能を出せるようになりました」
なるほど、苦難の末に生み出された力作なのだ。それでは早速、PVSを装備したマフラーV-JET グロム“PVS”を試してみる。車両はノーマルで改造点はマフラーだけなのだが、走り出してすぐに低速トルクが増していることに気付く。パワーの谷もなく、実にスムーズに回転が上昇していくのが印象的。そして本領を発揮するのは6,500回転から上。特に7,000~8,000回転の間はパワフルで面白い。レブリミットに当たる9,500回転までキレイに伸びていくので、リミッターが無ければ更に上まで伸びるだろう。排気音量は程よいもので、太く心地良い音が響く。聞けば“速くて静かなマフラー”も、NRマジックが目指すコンセプトのひとつであるとのことだ。
次に、サーキットでレース用にチューンされたグロムに試乗。この車両は、中里さんがレースで使用しているもので、いわばNRマジックのワークスマシンである。ミニバイクレースの強豪が作った本気のマシン、期待と緊張感を感じながらコースインした。慎重にコーナーをパスし、ストレートに差し掛かったところでスロットルを全開。その瞬間に、ブッ飛んだ。全域でトルクが太いのだが、5,000回転から上の加速力が段違い。猛烈に速い。しかも、ピーキーで扱いにくいものではない。中回転域から高回転域まで、パワーの繋がりがスムーズなので、スロットルが開けやすい。だから速い。
どれほどのハイチューンドエンジンなのかと想像していたのだが、チューニング内容を聞いて再び驚いた。エンジンのベースガスケットがNRマジックのレース用に交換され、圧縮比こそ若干上がっているが、それ以外はノーマルのまま。マフラーはレース専用品のV-RacingグロムIIが装着され、回転リミッターをカットしサブコンを使用して燃調を取り直しているだけの状態なのだという。それだけで、これほど速くなるとは驚きと言うほか無かった。
装着するだけで確実にポテンシャルアップ。その上、無用な騒音も撒き散らさない。コストパフォーマンスは恐ろしく高く、スマートなパーツ達。NRマジックのグロム用パーツは、選んで間違い無しの逸品だ。
他にない独特な構造が特徴のNRマジックのマフラーだが、思いつきで作られているわけではなく、すべては理論の裏付けがある。基本的な設計思想は、流体力学に基づいたもの。流体とは“固体でない連続体”を表すもので、身近なものでは空気や水が流体を代表している。その流体の変形や応力を扱う物理学のことを流体力学と呼ぶ。マフラーの性能アップと密接な関係を持つ排気ガスは流体の一種。排気ガスが、ある構造に対し、どうのように運動するかを力学的に捉え、NRマジックのマフラーは設計されているのだ。中里さんは、少年時代にラジコンを趣味としていたという。当時、ラジコン飛行機に触れ、なぜ飛行機は飛ぶことが出来るのか? との疑問を持ったことをきっかけに、羽根と空気の関係性を学ぶため、独学で流体力学を身につけたという。(以下、商品価格は8%税込み価格)
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創業30年を数える、老舗のミニバイクパーツメーカー。2ストローク用チャンバーから、4ストローク用マフラーまで幅広いラインナップを誇る。ミニバイクレースの世界では、広く知られている強豪。グロムが発売された当初より、レースマシンに使用。実戦で鍛え上げられたパフォーマンスは本物。原材料から製品化まで”made in japan”にこだわりながら、リーズナブルな価格も魅力。