取材協力/時代家新東工業株式会社  文・写真/田口勝己
掲載日/2017年3月22日

旧車や絶版車のレストアで、無くてはならない設備がサンドブラストマシンである。古くなったペイントの剥離や腐食で汚れたクランクケースのクリーニングなどに最適かつもっともポピュラーなのがサンドブラストである。ここでは新東工業製「エアーブラスト装置 KENX-Ⅰ」を導入したプロショップを訪問し、その実力をお聞きしよう。

以前リポートした愛知県名古屋市の新東工業が開発製造するエアーブラスト装置「KENX-Ⅰ」。このブラスト機を「導入しましたよ!!」との連絡が編集部に入った。姉妹誌「絶版バイクス」では、レストア専門ショップとして知られる愛知県の時代家では、同ブラスト機を導入したのだ。時代家と言えば、様々なブラスト機器を積極的に導入し、効率良くレストア作業を進めている工房としても知られている。この度、KENX-Ⅰの導入にあたっては、新たに「仕上げ専用ブラスト機器」として利用しているそうだ。

ここでは、同モデルの特徴をおさらいしておこう。エアーブラスト装置、KENX-Ⅰは、鋳造技術および鋳造周辺技術に関する国内屈指の大手メーカー、新東工業によって開発製造されている商品だ。作業スペースを含め、わずかな面積(たたみ一畳ほど)でも設置できる、コンパクトな本体サイズが大きな特徴だ。集塵ブロアの電源は三相200V。動力電源が必要な設備だが、バイクショップやサンメカからの要望が数多くあり、家庭用電源=AC100Vコンセントから電源を引ける仕様も後に追加された。

コンプレッサーによる圧縮空気は、切れ間無く連続使用することを考えた場合、出力5.5kW(約7馬力相当)と大きいコンプレッサーが必要になる。しかし、サンメカレベルが所有する小型コンプレッサーに100リットルサイズのサージタンクを追加装備すれば、AC100Vコンプレッサーでも十分使用できる。

様々なサンドブラスト装置を経験したことがある者がKENX-Ⅰに触れると、最初に感じるのは「効率の良さ」だろう。僅か1kgに満たない微量のブラストメディアが効率良く循環するシステムを採用しており、しかもメディアと粉塵を全量吸い込むブロア集塵機を搭載するため、作業中のキャビネット内は、実にクリアで特筆ものだ!! ガラスの内側に粉塵が付着しにくいシステムなので、処理し忘れる箇所が増えるなど、時間を浪費することも少ないようだ。

そんな情報を再確認しつつ、愛知県豊明市の時代家に向かい、レストアの現場で利用されるKENX-Ⅰを取材させていただいた。

取材当日はカワサキZ1のクランクケース上下の処理を終え、4気筒空冷シリンダーの処理をしている最中だった。時代家ではキャビネットを使い分け、このKENX-Ⅰは仕上げブラスト専用とし、ガラスビーズは常に180番を利用しているそうだ。

仕上げ直後のエンジンパーツ。かなり使い込んだガラスビーズなので特有の光沢が出ていないが、新品ピーズに交換すればギラギラ感ある輝きに仕上げることもできる。燃焼室のカーボン除去にはガラスビーズの利用が最適だ。

新村代表にお話を伺うと「とにかく他のブラスト機と違って事前段取りが楽ですね。直圧でもウエットでも、使う前には何かしらの確認作業が必要ですが、この機器はいきなりブラスト加工に入ってもスムーズに作業できます。しかも効率が良く研磨してくれます。現在はガラスビーズ180番を使ってますが、錆びたユニクロメッキ部品の下処理でも使い勝手は良好です」。

前後のホイールハブは、スポーク穴外側のフランジ部分をバフ仕上げで輝かせ、スポークの内側部分はガラスビーズによる光沢仕上げでしっとり感を演出する仕上がりにしているそうだ。

レストア専門ショップによる業務利用なので、もう少しメディア量が入り頻繁にメディア交換せず安定した仕上がりで使い続けられれば理想的との声も。また、粉塵引き出しやフィルターのクリーニングもワンタッチなら最高だとは時代家弁。

「ショップ開業前からサンドブラスト機は使ってますが、この機器は、サンメカはもちろんセミプロの方でも満足できる商品だと思います。バイクいじりの趣味ではなく、ウチは商売で使ってますので、油汚れが酷いものはそのままウエットブラストで洗い流しながら処理しています。こちらはドライシステムなので、さすがにそんな使い方はできません。でも、レストア専門店で無ければ、キャビネットを使い分けるようなことも無いし、通常のブラスト機器と違って作業場周辺にメディアを撒き散らすことも少ないはずです。ですから、旧車を扱うバイクショップなら、店内の一角で利用しても通常のサンドブラストキャビネットのように、床を砂まみれにしてしまうこともないと思います」。

プロユーザーにとって重要なことはメディア交換で粒度を変更するのではなく、機器を使い分けて効率良く作業を進めることだそう。直圧式ブラスターは大型粉塵除去装置を導入しクリアな作業視界を確保。ウエットブラストも導入し、ゴロゴロ回しっ放しでパーツが輝くバレル研磨も導入している。

一方で「要望としては、メディアの量を多く入れることができて、粉塵の引き出しを大きくして頂けるとありがたいですね。レストアショップは常時複数のエンジンを仕上げていますので、メディアが少ない中で繰り返し利用すると、仕上がりの光沢に差が出てしまいがちです。だからメディアの交換サイクルが、どうしても多くなってしまいます。それと粉塵の引き出しや、フィルター掃除のフタが蝶ネジなのも気になりますね。レバーひとつのワンタッチでアクセスできるのが理想ですかね」と付け加えて下さった。そんな要望は、連続利用がひたすら続くレストア専門店ならではのお話だろう。一般のバイクショップやサンメカレベルなら、現状仕様でも概ね許容範囲なのは間違いない。

「このブラスト機器が気になるユーザーさんは多そうですね。電話でアポ確認してからご来店くだされば、実際に見て、触れていただくこともできますよ」とは時代家代表の新村さん。バイクショップの営業内容は日々多様化しているが、今後、数多くのユーザーに、このような商品が注目されるのは、間違いないだろう。

時代家代表
新村 興

プライベーター時代に吸い上げ式サンドブラストを購入し利用してきたが、その作業性や効率が悪く、独立開業時には直圧式ブラストシステムを導入。「下処理の作業時間を短縮することで効率良くレストアできますよね。だから表面処理技術には興味があります」と新村代表。