ミシュラン「アナキーアドベンチャー」が問う 道、旅、遊び、その欲望のダイバーシティー。Part1

掲載日/2019年2月26日
取材協力/日本ミシュランタイヤテクニタップ
文/松井 勉
写真/関野 温、日本ミシュランタイヤ
世界の2輪市場で人気の高いアドベンチャーバイクにマッチするタイヤ、ミシュランの新製品「アナキーアドベンチャー(ANAKEE ADVENTURE)」の試乗会へ行ってきた。Part1では製品の細かい紹介や、ゲストライダーとして参加していた、WGP世界チャンピオン原田哲也さんによるテストライドの様子をお届けする。

アドベンチャーモデルにマッチする
新作タイヤ、アナキーアドベンチャー

今、世界の2輪市場でアドベンチャーバイクが人気だ。その秘密は無類の扱いやすさと、走る場面を問わない走行性能が1台にパッケージされていること。このカテゴリーは40年近く続く歴史があり、直近10年は各メーカーにとって稼ぎ頭になるほど。メインストリーム機種としている車両メーカもある。

何より、世界の果てまで旅できる走破性を、洗練されたパッケージで包み、メーカー最新鋭の機能や電子制御技術も投入されているとあって、注目と人気が正比例する。昨年はハーレーダビッドソンがこのカテゴリーへの参入を発表するなど、まだまだ話題性はつきないようだ。

大柄なボディーを持ちながら、市街地でも軽やかで高速道路や峠道は得意ジャンル。悪路でも「通れます」レベルではなく、ライダーが望むなら驚くほどのアジリティーを発揮するのが今のアドベンチャーバイクだ。何をやってもどこを走っても楽しい。これぞ人気の理由なのだ。

ここで紹介するミシュランの新製品「アナキーアドベンチャー(ANAKEE ADVENTURE)」は、そうしたモデル達にむけたミシュランの新作タイヤである。

アナキーアドベンチャーの新しいフェイスから想起されるのは、たしかなクロスカントリー性能。今、このセグメントに来ているオフロードルックのクロスオーバー性能を備えたタイヤというトレンドをしっかりとキャッチアップしている。用意されいるサイズはフロント19インチ(110/80 R19 59V、120/70 R19 60V)、21インチ(90/90 -21 54V)とリア17インチ(150/70 R17 69V、170/60 R17 72V)、18インチ(150/70 R18 70V)。

BMW、ドゥカテティ、KTM、トライアンフをはじめ、ホンダ、ヤマハ、スズキからも人気モデルがリリースされるこのカテゴリー。広義で言えばもっと多くのモデルがあるのだが、アナキーアドベンチャーが守備範囲にするのは、フロント19、21インチ、リア17、18インチを履くモデルだ。オフロード走行までも意識したユーザーが選ぶバイクというふうにもくくることができ、本格的なモデル達ばかりがそろう。

ミシュランはこれまでラジアル構造のデュアルパーパスタイヤとして「アナキー3」を販売してきた。ロードセグメントで人気の高い、スポーツツーリングタイヤにも似たトレッドパターンは、一目で高いロードアジリティーを連想させる。事実、良いタイヤで、舗装路での乗り心地や峠道でのハンドリングとグリップ感、そして雨の中を不安無く走れる多機能性があり、多くのアドベンチャーバイクに標準採用されたことがその性能の高さを証明している。見た目はロード風だが、ダートでの走りもなかなか。グリップ、ハンドリング、じんわりと滑り出す過渡特性は、高い次元でバランスのとれたタイヤという印象だった。

そしてアナキーアドベンチャーである。このタイヤは先述のとおり、アナキー3の後継モデルとして送り出され、今後多くのアドベンチャーモデルへの標準採用もされるだろうし、交換時期を迎えたアドベンチャー乗りには気になるタイヤというコトになる。

フロント 120/70ZR19、リア170/60ZR17を組み合わせたBMW R1200GS アドベンチャー。装着時点でタイヤのラウンドウプロファイルが意外と尖っていて、急峻な角度でセンターからエッジに向かっているのが分かる。

アナキーアドベンチャーの
ブロックパターンに隠された秘密

アナキーアドベンチャーを解説しよう。その開発目標は、直進安定性、コーナリング安定性、ハンドリング、操縦性、ドライグリップなどは先代となるアナキー3と同等レベルの性能を持たせたうえで、ウエット時のグリップ力をさらに高めることだ。特に滑りやすい路面になるほどウエットグリップの確かさが上がっている。その性能伸張は40%。これはすごい。

タイヤのトータルパフォーマンスにこだわるミシュランは、多くの性能要件をバランスさせるため3つの技術を中心にこのタイヤを仕上げてきた。

先代、アナキー3の性能を100として性能比較をイメージしたレーダーチャート図。ハンドリングを安定性でみるか、俊敏性で見るかでことなるが、この後記述するWGPチャンピオンの原田哲也さん試乗インプレッションコメントから推察すると、多くのパートで先代よりも好印象となっている。

まず一つ目、新しいプロファイルの採用。いわばタイヤにパッケージにおける最適形状を与えた。これにより旋回性、アジリティー、高速安定性をバランスさせている。 二つ目は新開発されたシリカコンパウンドの採用。これは特に低温時やウエットグリップに効果を持つ。ドライ路面での耐久性を落とすことなくウエットグリップを向上させている。

センターのグレーの部分がハードコンパウンドエリア、白い部分がソフトコンパウンドエリアをイメージしたもの。リアはセンターのハードコンパウンドがサイドのソフトコンパウンドの下に土台のように入り込み、トレッドのしっかり感とセンター部分の発熱をトレッドサイドに伝える役割を持っているのが分かる。

三つ目はハードなコンパウンドをセンタートレッドに、よりグリップ重視のソフトコンパウンドをサイドトレッドへと使う、2コンパウンドテクノロジー(2CT)の採用だ。また、後輪には、センタートレッドを、サイドのソフトコンパウンドのトレッド下に土台になるようレイヤーした2CT+(2コンパウンドテクノロジー・プラス)という手法を投入。今や最大出力150馬力が珍しくないアドベンチャーバイク達。高い耐摩耗性とソフトで確実なグリップを両立させる技術でもある。

見た目のパンチ、上々!
逞しいトレッドパターン

アナキーアドベンチャー最大の特徴はそのトレッドパターンである。明らかにデュアルパーパスモデル用タイヤだ! という逞しさがある。

ロードタイヤのグルーブ(溝)をやや太くしたルックスだったアナキー3と比較すると、まるでカテゴリーが違うタイヤに見えるほど。見た目通り、オフロードでのグリップ力も上がっているという。その守備範囲を拡げながらロード性能を落とさないようにする技術として、ミシュランは次のような技術をこのトレッドに封入した。

センターからミドル、そしてフルバンクへと移行するリーンアングル時に接地するミドル領域のブロックと、エッジ部分のブロックを繋げるブリッジブロックを採用することで、トレッドの剛性感を確保し、コーナリング時のヨレを低減。センター部のトレッドはしっかりと硬いコンパウンドを使いながら、深めのグルーブを入れることで、路面をつかむグリップ性能を持たせている。

ブロック一つ一つのエッジは、ショルダー部を斜めにカットした形状として、加速時、ブレーキングに加わる力を受けても偏摩耗しにくい形状としている。また、パターンノイズ低減のため、ブロック形状に大小のサイズ違いを並べることで、ノイズの相殺を図る手法もとられている。

また、サイドにまで太く掘られた溝は、ウエット時に徹底した排水性を狙ったもの。効率よく水を吐き出すパターンなのである。

ブロックのサイズがランダムであること、そのエッジ部分が斜めに面取りされているような形状になっていること、サイドへと続く太い溝、サイドのブロック同士を補強でつなぐブリッジがあることが分かる。センタートレッドは独立した並びとなっている。

WGPチャンピオンも高評価
原田哲也さんがゲストとしてテストライド

取材当日、元WGP250ccクラス世界チャンピオンでもある原田哲也さんがゲストで招かれていた。現役引退後、ツーリングを楽しむことでおなじみの原田哲也さんはBMW R1200GSを使いこなす一人。アナキーアドベンチャーをテストライドし、我々にこうコメントしてくれた。

「まず、乗った瞬間、軽快だな、と思いました。動きが軽い。大きなバイクがサイズダウンしたような印象です。コーナリングで言えば、寝かす時の軽快さが印象的。そこからの旋回性を引き出すのにさらに寝かせても、不安なくしっかり曲がる。すごく上手く乗れた感じ。驚いたのはウエットです。アナキー3を履いたバイクと比較もしましたが、安心感がすごく向上している。びっくりです。これなら遠出をする時でも疲れず、ツーリングに満足感があるでしょうね。」

舗装路がメインだかったが、これを聞くと私も走らせるのが楽しみだ!

WGP世界チャンピオン原田哲也さん。BMW R1200GSを愛用する一人。テストコースのストレートに置かれたスラロームで感触をチェック中。経験から来るコメントはわかりやすいものだった。

INFORMATION

ワールドグランプリのトップカテゴリーで、350回以上の勝利と26回のチャンピオンを獲得してきたミシュラン。1889年の創業以来、人やモノのモビリティの発展に貢献することを自らの使命とし、自転車のための脱着可能な空気入りタイヤやラジアルタイヤの発明など、2輪車や自動車業界におけるあらゆるステージで活躍してきた。