掲載日:2018年10月31日 試乗インプレ・レビュー
取材、写真、文/西野鉄平
KYMCO Tersely S 125
台湾ブランド「キムコ」のスクーターは、機能性が高く、日本車に比べると価格がお手ごろな車両が多い。2018年10月9日に発売された『Tersely S 125』はその最たるモデルといえるだろう。ロングスクリーンやナックルガード、リアボックスを標準装備し、メーカー希望小売価格27万円(消費税8%込み)という驚きの価格を実現させた。
フロント16インチ、リア14インチの大径ホイールを装備しているのが特徴的だ。石畳の町並みが多く残る欧州市場をメインターゲットにして開発されたことがうかがえる。ホンダ、ヤマハ、スズキの3メーカーのスクーターは前輪12~14インチが主流で、16インチを採用した正規現行車は存在しない。
ロングスクリーンとナックルガード、トップケースが標準装備されている。これも日本市場の同セグメントでは唯一だ。ボリューム感のあるボディと合わさり、クラスを超えた存在感を誇る。
大径ホイールと125ccスクーター最長級の軸距(1,390mm)により、直進安定性が高い。まったく同じ車体サイズで150ccモデルがラインナップされているが、この車体ならたしかに高速道路の走行も不安なくこなせるだろう。
マンホールや道路の工事跡など、荒れた路面でギャップに乗り上げても気にならない。小さな段差は何も考えられず乗り越えられる。少しだけ砂利道も走ってみたが、これまでの原付二種スクーターとは比にならない走破性だ。
エンジンは空冷 SOHC 4バルブ単気筒。同社の「レーシングシリーズ」で定評のあるエンジンをベースに開発された。EURO4を余裕でクリアする高い環境性能と優れた出力特性を実現し、最大出力は8.3kw(11.3PS)/8,500rpmとなる。体重70kgの筆者の場合6,500rpm前後で時速60kmの平地巡航ができた。
加速性能はそのキャラクターや車重から見て相応な印象だ(乾燥重量130kg)。スタートダッシュでは小柄な軽量125ccには勝てないが、快適に穏やかな走りを楽しむという点では優れている。週末にのんびりと下道を100kmでも200kmでも走りたくなるような珍しいタイプの原付二種だ。
コーナリングはやや不得手かと思えば、意外とバンク角が深く、タイトなカーブもゆうゆうと曲がれた。サスペンションは柔らかめ、優しめで、キビキビ走るというよりも大らかな気持ちで背筋を伸ばして乗るバイクだろう。
足元のグリップだけは多少の慣れが必要。フットボードがフラットで踏ん張りが利きにくいため、お尻をライダーシートの一番後ろに預け、つま先をフットボード前面に当てながら走ると、身体が前後にずれることなく安定する。
サスペンションは、フロントにインナーチューブ径33mmの高剛性テレスコピック、リアにプリロード調整機構付きダブルスイングタイプが採用されている。大径タイヤとともに、石畳でのショックを徹底的に吸収しようとした豪勢な仕様だ。
サスペンションが高性能だと長距離走行時の疲れを軽減してくれる。また2人乗りや、荷物をたくさん載せたときにも安定した走行ができるのでありがたい。
ブレーキは、フロントφ260mmとリアφ240mmのディスクブレーキを搭載。125ccながらABSが標準装備なのも嬉しい。急ブレーキをかけたときの挙動も穏やかなものだった。適度な利き具合で、2人乗りの場合でもタンデマーに不安を与えないスマートなブレーキと加速ができるはず。
ライダーの身長は176cm。乗車時のポジションはゆとりがあり、原付特有の窮屈さはない。ロングスクリーンの位置が顔に近いところだけが少し気になった。乗車時は問題ないが、跨ったまま取り回しをするとヘルメットがスクリーンに当たることもあった。ちなみにロングスクリーンとナックルガードは取り外して乗ることもできる。
シート高は790mm。ホンダPCXやヤマハNMAXと比べると25mmほど高くなる。つまり原付二種のスクーターでは高い方だ。シート後方に乗ると両足つま先ツンツン状態だったが、前方に座れば、脚を降ろしやすく両足かかとまでべったりとつけることができた。
取り回しするときはこんな感じ。大柄な車格が分かると思う。ただ、全幅は700mmでPCXと比べると45mmもスリム。狭い駐輪場にも停めやすいサイズ感だ。
車体色は写真の「マットシルバークリスタル」1色の設定。メインターゲットがイタリア市場となるため、欧州スタイルのデザインが美しい。シートのダークレッドカラーもエレガントだ。リアフェンダーの両サイドに備わったリフレクターも外国車としての存在感を示している。
ターセリーSシリーズは欧州向けに開発された車両だが、日本にも新たな原付二種ライフをもたらしてくれそうな1台だ。
2018年7月11日からAT原付二種免許は最短2日で取得可能となった。原二の機運が高まり、各社からさまざまなモデルが夏前後にラインナップされたが、ターセリーS125はその中でももっとも快適性能に長けた車種と言っていいだろう。