公道でバイクをより楽しむ未来を創造するために

掲載日:2017年07月19日 トピックス    

文/山下 剛

レースではないものの、レーシングマシンが公道を走る機会はほとんどない。先頭で両手を挙げながら走るのは宮城光氏、車両はMuSASHi RT HARC-PROの8耐マシン、ホンダ・CBR1000RR。写真/浅間ヒルクライム

浅間ヒルクライム、マン島TT、パイクスピーク…
公道を使ったモータースポーツイベントから見えること

2017年も浅間ヒルクライムが開催された。コースアウトしてクラッシュしたクルマもあったようだがドライバーに怪我はなく、無事に終了したといっていいだろう。

このイベントは2012年からはじまり、今年で第6回を数えた。国内外のヒストリックカーやビンテージマシンなど、普段めったにお目にかかれない貴重な車両をはじめ、一般公道走行不可のレースマシンも走る。往年のフォーミュラカーやラリーカー、GPマシンなどが高峰高原へと駆け上がるチェリーパークラインを疾走する姿は、モータースポーツファンにとって垂涎ものだ。

また、浅間ヒルクライムは走行タイムを競うレースではなくコンクールとして開催され、主催者が設定した平均速度にもっとも近づけて完走したエントラントを表彰する、ラリーに似た形式をとっている。タイムトライアルなどのスピードを競う公道レースは危険が伴うことから、地元警察をはじめとする行政が許可しないこともあるが、チェリーパークラインは道幅も狭く、またエスケープゾーンも取れないことを考えると現在の形式が最適だろう。

国内では貴重なクルマとバイクの融合イベントであること、ヒルクライムスタイルであることから、アメリカのパイクスピークのような一大イベントに成長していくことも期待される。公道レースの頂点といえるマン島TT然りである。

しかしマン島もパイクスピークも、創生は20世紀初頭のモータリゼーション黎明期で、メーカーもエントラントも、そして世界中の人々がスピードアップに夢と未来を見ていた頃とは時代が違う。レースの魅力はスピードにあることに変わりはないが、リスクの高すぎる公道におけるタイムトライアルだけがモータースポーツではないだろう。

「今はイベントを安全に継続していくことで、モータースポーツの魅力を多くの人々に知ってもらい、行政の信頼と協力を得ることが大切」

イベントの運営方針について、主催者はかつてそのように語った。初年度は警察の理解と協力が不十分だったため、直前になってイベント内容が変更されるトラブルもあったが、回を重ねることで改善されてきている。

自動自律走行車の実用が現実的になりつつある今、モータースポーツが将来も文化として残るかどうかの分岐点といえる。とくに世間一般から理解されにくいスポーツ文化だけに、浅間ヒルクライムの継続は重要なキーポイントだ。

これは半分冗談、半分本気なのだが、浅間ヒルクライムに地元警察のパトカーや白バイがエントラントとして参加して共に楽しむことを、ひとつの指標としてもいいのではないか。

浅間ヒルクライムはバイクやクルマを愛し、人生を楽しむ人々にとって、大きな希望のひとつである。マン島TTやパイクスピークのように100周年を目指して歴史を重ねていくべきイベントだ。主催者やエントラントに任せっぱなしにするのではなく、バイクやクルマを趣味とするすべての人々が観客というかたちで一緒に育てていくという意識と態度が重要だ。それこそがモータースポーツだけでなく、公道でバイクとクルマを楽しめる未来への布石なのだ。

フォトTOPICS(写真点数/5枚)

01観客が見守る中、押しがけでエンジンを始動させてスタートする三宅正樹氏。マシンはヤマハ・TZ250(3G2/1980年)。写真/浅間ヒルクライム

02浅間ヒルクライムはクルマとバイクのイベントだが、趣味人口や認知度に比例してエントラントはクルマがメインだ。写真はトヨタの名車、S800。写真/浅間ヒルクライム

03浅間ヒルクライムには家族連れでの観戦客も多い。子供たちにクルマやバイクの楽しさや素晴らしさを伝承していくことが、次の世代のモータリゼーションを活発にする。写真/浅間ヒルクライム

04今年のマン島TT、シニアTTクラスで優勝したマイケル・ダンロップ(スズキ・GSX-R1000)。世界最高峰の公道レースは今年で開催から111年を迎えた。写真/IOMTT

05101年目を迎えた今年のパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、2輪クラスではクリス・フィルモア選手がKTM SUPERDUKE 1290 Rを走らせ、二輪コースレコードを記録(9分49秒625)して勝利した。写真/KTM

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