カスタムは新領域へ。CB1300SF、ZRX1200ダエグが化けるパーツとは?
取材協力/ヤマモトレーシング  取材・撮影・文/木村 圭吾  構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
掲載日/2015年7月1日


排ガス規制に対応するために、国産車のほとんどで採用されているのがインジェクションだ。キャブレターに代わる吸気をつかさどる装置であり、燃料を噴射して混合気を構成する。ECUによって細かくコントロールされており、またマップを書き換えることで同じバイクでも出力の味付けを変えることも可能だ。ヤマモトレーシングではボアの大きいスロットルボディを新たにリリース。インジェクション車のパワーアップへの道を拓いた。

INTERVIEW

口径が大きくなっても損なわれない中低速域
装着にはサブコントローラーが必須

ヤマモトレーシングが、ホンダCB1300SF(SC54)、カワサキZRX1200ダエグ用として新たにリリースしたのが、46φの口径を持ったスロットルボディキットだ。ノーマルのインジェクションボディと、その付帯するパーツを変更するための物である。

 

「基本的な考え方としては、キャブレターを使った車両で口径の大きなキャブに交換するのと同じです。エンジン内に送り込む空気を増やし、それに見合った燃料の量にすることでパワーアップを狙います」

 

と説明してくれたのは、ヤマモトレーシング二代目代表の山本 聖さん。CB1300SF(SC54)のノーマルのインジェクションボディの口径は36φ、ZRX1200ダエグは34φであるから、それに対して10mmほど大きくなる。チューンの際に用いられるレーシングキャブレターの口径が、おおむね40φ程度だったことを考えれば、相当にビッグボアになっている。

 

キャブレターの場合、口径を大きくすると高回転域ではパワーアップするが、流速が出ない中低速域では乗り辛くなってしまう側面がある。そのためノーマルと同程度か、大きくするにしても一定の比率内(1~2サイズ)にしておくのが常套的な手法であった。

 

だが、インジェクションであれば、セッティングで解決することが可能であり、またその際にも本体を車体から外す必要が無く、サーキットなどでコースに合わせてリセッティングような場面でもピットインする時間が大幅に短くなるという。つまり、大口径キャブでは不得意とする調整領域や整備面での制限が存在したが、ビックスロットルボディのインジェクションでは無いに等しいとしても過言ではないのだ。

 

「装着したライダーからは、コーナーでは立ち上がりが速くなったとの評価をもらっています。また耐久レースでは燃料を絞る方向にして燃費を良くすることも可能になります。その場合、絶対的な速さは若干スポイルされますが、給油回数を減らすことでのロスタイムを減らすといった戦略を取ることもインジェクションならではといえるでしょう。それにキャブのようにニードルピンなどの摩耗もありませんので、1つのキットを長期間に渡って使い続けることも利点ですね」

 

まるで魔法のパーツのような印象を受けるビックスロットルボディだが、山本代表は重要な点を付け加えた。

 

「『ポン付け』では済まないパーツであることは事実です。ただ着けただけでもアイドリングはしますし、走ることが可能なのはインジェクションだからこそですが、ビッグボアの持っている性能を発揮させるためには、それぞれの車両においてセッティングをしなければなりません。そのためにはサブコントローラーを組み合わせることが必須です。現在は開発段階で協力いただいたスペシャルエージェント製の他に、ダイノジェットなどにも対応しています」

 

セッティング内容についてたずねてみると。

 

「インジェクションにおけるセッティングとは、キャブのように内部パーツを変更して行なうのではなく、インジェクターのガソリンの噴出量や時間などの指示を出すECUの『マップ』を作ることです。それはエンジンや組み合わせるマフラーなどによって変わってきますので、取り付けや調整は専門のショップで行っていただきたいですね。当社でもアドバイスさせていただきますので、特にこのビッグボアキットに関しては気軽にお問い合わせいただきたいと思っています」

 

最後にインジェクションのビックスロットルボディの魅力を伺った。

 

「インジェクションには、ライダーの好みに合わせた『味付け』ができるのが特色であり、魅力だと考えます。例えば、コーナーの入り口でスロットルを戻した時に、エンジンブレーキを強くすることも、逆に弱くすることも可能になるのです。数年前からインジェクション関係のパーツを製品化する構想はあり、今回、ようやく実現を果たせました。今後は対応車種を増やしたいと思っていますが、電気的な部分との兼ね合いで一筋縄ではいかない部分が多々発生して苦心しています。現在はヤマハSR用の開発に取り組んでいて、試作ボディでの煮詰めを行っていますので、ラインナップに加われば、インジェクションSRならではの面白さが広がるのではないかと思っています」。

 

スペック向上だけでなく「乗り味」を自在に創りだすことをめざして誕生したヤマモトレーシングのビックスロットルボディ。装着対応車種が増えてゆけば、その魅力はさらに広がり、カスタムパーツのセンターポジションを獲得する日も遠くはないだろう。

PICKUP PRODUCTS

スロットルボディはミクニ製の46φ
開発にはメカニカルには無い苦労も

既にリリースされているビッグスロットルボディは、ホンダCB1300SF(SC54)とカワサキZRX1200ダエグ用の2つで、共に口径は46φ。いずれもミクニ製で、ヤマモトレーシングからの図面に合わせた仕様として供給されている。取材時にはヤマハSR用の製品化に向けて開発が進んでいて、リリース間近といった様子が見て取れた。その他にも手掛けたい車種はあるとのことだが、スロットルが電子制御になっていたりなど解決すべき点が多くて目処が立っていない状況だ。インジェクションはメカニカルな部分よりも電気的な要素が多く、製品となった車種でもそのあたりに苦心したとのことである。

ホンダCB1300SF(SC54)用ビッグスロットルボディキット。ミクニ製46φボディををベースとして4連化している。

カワサキZRX1200ダエグ用ビッグスロットルボディ。CB1300SF(SC54)と同じくミクニ製46φボディがベースだが、取り付けられるパーツが異なるので、それぞれ専用となっている。

ベース車両に合わせて、CB1300SF(SC54)用ではスロットルボディはアルミの地色を活かし、ZRX1200ダエグ用はブラック塗装仕上げとしている。

CB1300SF(SC54)用、ZRX1200ダエグ用共にアルミ削り出しのファンネル仕様となっており、ゴミなどの進入を防ぐエッチングによって作られたネットが付属する。

燃料を各インジェクターに送るデリバリーパイプはヤマモトレーシングの得意とするアルミ削り出し。表面はCB1300SF(SC54)用はブルー、ZRX1200ダエグ用はグリーンのアルマイト処理がされている。

現在開発中のヤマハSR用ビッグスロットルボディ。近いうちにリリースが予定されている。

CB1300SF(SC54)に装着されたビッグスロットルボディ。ファンネル+ネットが存在感を強調している。

BRAND INFORMATION

ヤマモトレーシング

三重県伊賀市小田町877-2
電話/0595-24-5632
FAX /0595-24-5651
営業時間/9:00~18:00
定休日/第2、第4土曜、日曜日、祝日

レーシングコンストラクターとして国内外の数多くのレースに参戦し、有力チームが熱い戦いを繰り広げた1990年には全日本選手権でのチャンピオンも獲得するなどの輝かしい戦績を残している。サーキットで培われたノウハウやテクノロジーは展開している製品のブランド「SPEC-A」に惜しみなく注がれている。社内で一貫して生産しており、マフラーなどは絶版車用にも対応している。