UKスピードのオープンは、2006年の2月である。オーナーの内山圭介さんは、サラリーマンからの転職でこのショップを立ち上げた。学生時代からバイク乗りで、特にミニバイクでのレース活動もしていたことから、いわゆる趣味が高じてショップを立ち上げたということでもあるが、そこにはかなりの勢いで飛び込んだという経緯の持ち主だ。
「自動車会社のメカニックだったのが営業に回されて、どうも自分のやりたい仕事ではないという結論に達したんですよね。では本当にやりたいことって何だろうと自問自答した結果がこのお店になったと思います」
最初は普通のバイクショップ。しかし、自分でもレース経験豊富なミニやスクーターに特化したショップにしていこうと決意して、オリジナルブランドである「油漢」を立ち上げた。名前の由来を聞くと、ご自身のイニシャルから取ったUKと、バイクを象徴する油。そして、漢は、潔く男らしいという意味合いを込めているという。
「スズキのアドレスというスクーターは、利便性や扱いやすさが飛び抜けていて街に溢れていますが、レースでのポテンシャルもかなりのものなんです。というよりも、街乗りオンリーなスクーターでも違う楽しみ方があることをいろいろと提案したかった。だから細かいパフォーマンスパーツをリリースしているんです」
スクーター用のパーツは、まず安価なことが前提だ。気軽に楽しめることがとても重要で、少ない予算でできるだけ大きな効果を求められる世界である。そして、確実な差別化ができないとパフォーマンスパーツとしての意味がない。その点では、高級バイクのチューニングパーツのように、ステイタスだけでは商売にならない厳しさがあるのだ。だからこそ、油漢のパーツは考えに考え抜かれてリリースされている。見せかけだけのドレスアップパーツは、皆無なのである。
最初に紹介するパーツは、「内圧バルブ」だ。こんな小さなパーツにどれほどのポテンシャルが秘められているのか疑問に思うかもしれないが、スクーターの小さなエンジンにとっては、とても大きな効果を生む画期的なチューニングパーツである。
どこの内圧を調整するのかというと、エンジンの内部、特にクランクケースにかかる圧力をコントロールするもので、このパーツの中にはワンウェイバルブが挿入されている。
ピストンの上下によって、クランクケースの内圧は極端に上下するのが通常だ。そしてそれは大きな駆動抵抗になる。ノーマルでは、単なるパイプを取り付けて、排出されるガス(ブローバイガス)をエアークリーナーボックスに導き、循環させるだけなのだが、このバルブを取り付けることで、クランクケース内の圧力を抵抗の少ない値にコントロールすることができるのだ。
今や、レーシングマシンや高性能ハイパーモデルでは常識のチューニングアイテムだが、スクーターエンジンでもその効果は絶大。内圧バルブは、アドレス用とシグナス用がリリースされている。
電気系統のチューニングでは、点火系を強化するダイレクトイグニッションを紹介する。
アドレスもシグナスも、ノーマルの状態は独立した点火コイルからプラグコードを介し、先端に装備されているプラグキャップを点火プラグに装着するという、ごく普通のシステムだ。ダイレクトイグニッションというのは、点火コイルからプラグまでのルートを一体化し最短距離にしたシステムで、中間のプラグコードを使用しない。つまり、コイルからの電力ロスのない状態で、点火できるということになるのだ。バイクの世界では最近のアイテムだが、クルマの点火システムとしては、今や乗用車でも常識となっているものである。
もうひとつは、強化メッシュケーブル。これはリヤブレーキを作動させるケーブルだが、アウターを金属メッシュとして、作動時の伸縮を極力なくした高性能ケーブルである。スクーターは左手で操作するレバー式のリヤブレーキ。ノーマルでは、その長さが災いして、曖昧なタッチになってしまうのだが、このケーブルに交換することで、操作フィーリングは格段に良くなるのである。
豊富なレース経験とメンテナンスで培われたノウハウ。油漢ブランドの製品群はどれもコストパフォーマンスに優れたものばかりである。ドレスアップパーツではないから、外観上の変化は少ないが、確実に他のスクーターとは差別化できるパフォーマンスを発揮するものばかりなのだ。特にエンジンフィーリングを向上させるパーツは、ユニークなものが多い。メーカーが気付かないようなアイデアを持った製品たちは、リーズナブルかつ効果の大きいもの。内山さんが開発する油漢というブランドには今後も目が離せそうにない。(表示価格は、すべて税抜き価格)
住所/大阪府大阪市淀川区東三国6-3-47
TEL・FAX/06-6350-5865
営業時間/10:00-21:00
定休日/年中無休(年末年始除く)
油漢ブランドでパフォーマンスパーツをリリースするUKスピードは、2015年でオープンから8年目を迎える原付に特化したカスタムショップだ。週末はレースやイベントに出かけることが多いが、お店は閉めずに街に根ざした気の良いバイクショップとしての顔も持つ。取材当日も、普段の足にスクーターを使う女性ライダーが訪れていた。どんなユーザーに対しても、楽しく乗ろうと呼びかけることがこのショップの大きなコンセプトなのである。